優秀な学生には複数社から早々に内定が出る状況にあり、これまで以上に多くの企業が内定辞退のリスクを抱えている。人事担当者の負担が増す中で、2026年卒の採用計画を確実に達成するためには適切な採用手法の活用が欠かせない。(取材・執筆・編集:日本人材ニュース編集部

26年卒の採用計画達成へ 採用手法の最新トレンド【内定辞退続出の新卒採用】

目次

  1. 学生に根拠を持って自社を選んでもらう
  2. 早期化する採用活動のKPIと注意点
  3. デジタルスキルの学習意欲が高い学生にアプローチ
  4. 選考にAIを活用し、学生と向き合う時間を増やす
  5. 内定者フォローで入社意欲を早期に確認

学生に根拠を持って自社を選んでもらう

就職情報サービス大手マイナビの調べによると、3月末時点の2025年大卒の内々定率は47.4%となり、2024年卒の同時期に比べ17.4ポイントも高い。平均内々定保有社数は2.0社で、内々定を保有している学生の6割近くは就職活動を継続すると回答しており、内定辞退が続出するのは確実な状況だ。内定辞退への対応は新卒採用の大きな課題となっている。

新卒採用の実情に詳しいワークス・ジャパンの清水信一郎社長は、「内定辞退を防ぐためには、インターンシップから入社までの長いプロセスを通じて学生が自社を正しく理解できるように情報を伝え、根拠を持って選んでもらうことが重要です。そのため、採用サイトを充実させて社員の様子が分かる動画を掲載したり、福利厚生などの学生が聞きにくい内容も積極的に発信する企業が増えています。オンラインコミュニケーションのメリットとデメリットへの理解も進んで対面セミナーを復活させたり、リクルーター制度の活性化を図る動きも見られます」と説明する。

同社の人事担当者向けオウンドメディア「Works Review」が開催している採用戦略セミナーに登壇している企業の最近の取り組み事例からも、優秀な学生には複数社から早々に内定が出る状況の中で、自社がターゲットとする学生を獲得するために採用コミュニケーションの質を高める施策を強化している様子がうかがえる。

2026年卒の採用も売り手市場が続きそうだが、大手企業の採用動向について清水氏は次のように話す。「以前は大量採用していたメガバンクなどは中途採用を強化しています。ジョブ型人事を導入する企業も出てきていますが、本来ジョブ型人事と新卒採用は相容れにくいものですので、新卒採用は曲がり角を迎えています。またコロナ禍で新卒採用した社員のパフォーマンスが低いようなら、新卒採用数をさらに絞っていく企業が増えるかもしれません」

実際に、日本経済新聞社が主要2242社を集計した採用計画調査によると、2024年度の採用計画に占める中途採用比率は過去最高の43.0%。一方、2025年春の大卒採用計画人数は前年度実績比15.6%増の13万5711人で、増加幅は前年の21.8%を下回った。製造業派遣やドラッグストアなどの企業で大量採用が計画されているものの新卒採用数の伸びは鈍化している。

有効な母集団形成のために自社が採用したい層に限定して接触できる手法のニーズは高まっているが、採用活動の早期化や内定が出やすい状況などによって学生が興味を持つ範囲が広がりにくくなっているとの声も聞かれる。そのためワークス・ジャパンは、学生が業界・仕事への理解を深めてキャリアや働き方を多面的に考えられるように業種が異なる企業が参加するコラボイベントを数多く開催している。各社の集客力を生かすことによって自社や業界を知る機会がなかった学生とも出会える機会として好評を得ている。

学生が業界・仕事の理解を深められる機会を増やす

●ワークス・ジャパンの就活サイト「CAMPUS CAREER」が開催する就活イベント

26年卒の採用計画達成へ 採用手法の最新トレンド【内定辞退続出の新卒採用】

業種が異なる参加企業の集客力を生かすことで、自社や業界を知る機会がなかった学生とも出会える

早期化する採用活動のKPIと注意点

2025年卒から採用直結型のインターンシップが解禁された。小売業の人事担当者は「就活の早期化が一層進んでいる。採用直結になったことで夏のインターンが実質的な採用選考になった。大手企業はインターンシップのエントリーが始まる前から学生に接触し、インターンシップに誘い込んでいる」と語る。

インターンシップが重視されるようになった採用活動について、RPO(採用代行)サービスを手掛けるYouth Planet代表の堀田誠人氏は「多くの企業の人事担当者が『2025年卒採用は早くから仕掛けたい』と採用計画を前倒ししています。その中には今までインターン選考を行っておらず、2024年卒採用で厳しい結果になってしまった企業も多数含まれています」と説明する。

セミナーやインターンシップで学生に役立つ情報を早い時期から提供することによって、評判を聞いた学生がさらに集まるというメリットがあり、そのKPI(重要評価指標)として、①優秀な学生の参加率、②異業界や異職種を志望している学生の参加率、③セミナーやインターンシップの満足度を挙げる。

一方で早期からの採用活動には注意すべき点もある。「早く動き出すと従来以上に優秀な学生と接点を持ちやすくなります。例年の歩留まりで考えれば、ある程度の母集団を作れたところで安心してしまい、『採用活動を早く終わらせても良いのでは』と判断しがちです。しかし、この段階で驕りが出てしまうと、最終的には歩留まりが極端に悪くなってしまいます。早い時期から動き出す学生ほど企業の社格や採用ブランディングを重視するからです。それに見合うレベルにあると自信を持てる企業でなければ、採りにいったとしても採り切れないと予想されます。今年は優秀な学生が来てくれたと考え、本来採れていた学生を母集団から外すことになると問題はより深刻になってしまいます」(堀田氏)

デジタルスキルの学習意欲が高い学生にアプローチ

中途採用ではITエンジニアやデジタルマーケターなどは争奪戦だが、新卒採用でもIT人材の需要は高い。デジタル事業の拡大に取り組む大手エンターテインメント企業の人事担当者は「既存のアナログ事業の職種をイメージして応募してくる学生が多い。総合型の就職ナビでは求人が埋もれてしまうのでIT人材の獲得は難しい」と話す。

IT人材の新卒採用を支援するシンクトワイスの猪俣知明代表は「IT人材を採用するために、情報サイト、イベント、スカウト、人材紹介など、企業はあらゆる手法を利用していますが、採用コストや業務負担が増大しており、より効率的に学生にアプローチしたいというニーズが高まっています。非IT企業でもDX推進の人材が必要とされていますが、人材育成のノウハウが十分ではないこともあり、ある程度のスキルを持つ学生を求める企業も多いです」と採用課題を説明する。

同社は、学生がプログラミングを学べる「TECH-BASEインターン」を実施し、修了生を採用した企業は2024年卒で100社を超えている。特に最近は、デジタルスキルの学習意欲が高い学生を採用したいという企業が業種を問わず増えてきたことから、「TECH-BASEインターン」で学ぶ学生などにPRできる就職情報サイト「エンジニア就活」を今年から本格的に稼働させ、インターンシップのエントリーが始まる6月1日時点で3000人の学生登録数を目指している。

デジタル事業の拡大を目指す企業が情報を掲載

●シンクトワイスが運営する就職情報サイト「エンジニア就活

26年卒の採用計画達成へ 採用手法の最新トレンド【内定辞退続出の新卒採用】

TECH-BASEインターンで育成した学生で母集団を形成

TECH-BASEインターン

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PROGRAMMING(全学部対象)
Webサイトのマークアップでは欠かせない言語ともいえるPHPとJavaScriptを文系・理系問わす受講できるコース
ENGINEERING(理系学部のみ対象)
Webサイトのマークアップでは欠かせない言語ともいえるPHPとJavaScriptを文系・理系問わす受講できるコース理系学生向けに、市場価値が高い「loT」「機械学習」分野に関して学ぶことができる2講座を取り揃えているコース

SIerやソフトウエア企業に限らず、メガバンクや大手不動産会社などのデジタル事業の拡大を目指す企業がインターンシップ情報などを発信しており、5月末までに100社程度の掲載が見込まれている。猪俣氏は「IT人材の採用では必ずしも有名・大手企業が有利とは言えません。学生が魅力を感じる職務内容や働き方が正しく伝わらなければ応募してもらえないからです。そのため、専門の採用チームで対応したり、総合職の採用と予算を分けて取り組む企業も出てきています」と話す。

選考にAIを活用し、学生と向き合う時間を増やす

コロナ禍で導入が進んだオンライン面接は今やすっかり定着し、企業と学生双方の負担軽減に貢献しているが、企業は採用活動のさらなる効率化に取り組んでいる。

阪急阪神百貨店、三菱UFJ信託銀行、ユニ・チャーム、東急などが利用するデジタル面接「HireVue」は面接の録画から行動特性をAIが評価する「AIアセスメント」を備えており、導入企業が増えている。

「HireVue」を提供するタレンタの中村究専務取締役は「『HireVue』を利用する日本企業約100社のうち半数がAIアセスメントを活用しています。大手企業にとって多くの応募者をいかに効率的に選考するかが大きな課題です。マンパワーが限られる中で学生と向き合う時間を増やすために、1次選考をAIに任せて可能性の高い人に絞ることで、2次選考以降に採用担当者は時間を掛けることができます」と説明する。

●HireVue「AIアセスメント」利用企業の声

阪急阪神百貨店
タレンタ社ウェブサイト掲載「導入企業インタビュー」から一部抜粋
 AIが判断した優秀層は、我々がこれまで描いていた優秀層と違う部分もあると思うんですよ。逆に我々だけの目で見ていたら落ちていたような学生と、後続面接で出会う、新鮮な出会いみたいなものがあった気がします。 これまでとは異なった優秀層がいました。優秀な方にもさまざまあると思いますが、我々の想定とは違う次元の、予定調和を超える優秀層がいたのは面白かったですね。
 また、残りの方については人事担当者が従前の選考基準でみました。なぜならば、百貨店への応募者でいうと、ファッションマニアからフードグルマンみたいな方等、多種多様な方々がいらっしゃいますので。そういう人材がAIが選んだ上位層に仮にいなかったとしても、絶対に我々で引き上げるという発掘(マイニング)作業を行いました。AIアセスメントの導入により、そういった人材の発掘に時間をかけられるようにもなりました。

AIの利用は企業に適切な対応が求められるが、「HireVue」は米司法省のAIガイドラインに完全準拠しており、タレンタは採用におけるAI活用の最新情報をタイムリーに提供している。

「AIアセスメントを活用すれば、『自分に似た人材を高く評価する』などの人間のバイアスを抑制できます。もちろんAIだけで判断すればよいということではありませんので、導入企業はAIアセスメント上位者を自動的に合格とし、残りの応募者を録画面接で確認するといった使い方をされています」(中村氏)

内定者フォローで入社意欲を早期に確認

内定辞退を防ぐためには内定者フォローの強化が欠かせない。内定者フォローシステム「エアリーフレッシャーズクラウド」を提供するEDGEの佐原資寛代表は「内定辞退が増加し、内定承諾者数を充足ができない企業が増えています。そのため採用担当者はさらに内定を出すための活動に注力せざるを得ず、内定者フォローが不十分になってしまいます。その結果、内定辞退がまた出てしまうという悪循環に陥ります」と、採用現場の実情を説明する。

内定者フォロー業務の効率化は急務であり、実際に「エアリーフレッシャーズクラウド」を利用する215社へのアンケートを見ると、導入効果として「内定者とのやりとりの効率化」が最多となっている。

「エアリーフレッシャーズクラウド」は内定承諾前のフォローに特化した機能を昨年秋に追加。入社意欲が低い学生は面倒だと感じて登録しないため辞退の可能性が高いと判断できる。また辞退者に引っ張られて入社意欲の高い内定者を不安にさせないため、承諾前は他の内定者とは交流できないようにしている。

煩雑さが増している内定者フォロー業務を効率化

●EDGEが提供する「内定者フォローツール『エアリーフレッシャーズクラウド』」の未承諾者フォローのイメージ

26年卒の採用計画達成へ 採用手法の最新トレンド【内定辞退続出の新卒採用】

内定承諾者と未承諾者が混在していても問題なくフォローできるようにし、人事担当者の負担を軽減する

「早期化や対面コミュニケーションの減少などによって、企業理解が深まらないまま内定を得ている学生が少なくありません。そのため内定者フォローを通じてリアリティあるメッセージを伝えていく工夫が必要です。内定辞退を恐れて学生に迎合した情報を発信していると入社後の早期離職につながります」(佐原氏)

採用活動は早期化・通年化しており、人事担当者の負担は増すばかりだ。内定を出した学生が複数の内定を保有していることが当たり前となる状況の中で、採用計画を確実に達成していくことは容易ではない。限られたリソースを有効に活用し、自社が必要とする人材を確保していくためには、適切な採用手法の活用が欠かせない。

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