ヨシックスホールディングス会長 吉岡昌成,カンブリア宮殿
(画像=テレビ東京)

この記事は2024年4月25日に「テレ東BIZ」で公開された「建築業者が「逆転の発想」 飲食チェーンの常識を覆す:読んで分かる「カンブリア宮殿」」を一部編集し、転載したものです。

職人が握る寿司が65円から~建築業者が始めた寿司居酒屋

流行りの寿司居酒屋「や台ずし」では、職人が目の前で寿司を握ってくれる。値段はタマゴ、ゲソ、カニサラダの軍艦が1貫65円。マグロ、ハマチは1貫175円。9貫乗った盛り合わせの「すし梅」が1,099円。本格的な寿司が手頃な値段で食べられるのが人気の理由だ。

▽「すし梅」1,099円、本格的な寿司が手頃な値段で食べられるのが人気の理由

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寿司だけではなく、名古屋名物の鶏の手羽先をはじめ居酒屋の定番メニューも豊富にある。食べて飲んで客単価は約3,000円とリーズナブルだ。

店内を見ると子どもの姿も目立つ。小さな子どもにはおもちゃをプレゼント。親にゆっくり食事を楽しんでもらうためだ。

▽小さな子どもにはおもちゃをプレゼント

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「赤ちゃんからおじいちゃん、おばあちゃんまで楽しくすごせる心・食・居を演出する」という企業理念のもとで幅広い客層をつかみ、今や約320店舗に急成長した。

「や台ずし」を運営するのは名古屋市に本社があるヨシックスホールディングス。いくつかの事業会社を持っていて、その中の一つに「ヨシオカ建装」という建築会社がある。実は「や台ずし」はこの会社が始めた店なのだ。

▽「や台ずし」を運営するのは名古屋市に本社があるヨシックスホールディングス

ヨシックスホールディングス会長 吉岡昌成,カンブリア宮殿
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オープンまで1カ月を切った店で設計図面を見せてもらうと、そこには「ヨシオカ建装」の名が。店を自前で作れるから外注するより早く、大幅にコストダウンできる。

「使っている材料も全国で一緒のもの。基本の作り方が同じなのです」(「ヨシオカ建装」山本航平)

自分たちで店を運営しているから、客やスタッフが使いやすい店作りができるという。

ヨシックスの本社では、「や台ずし」を運営する「ヨシックスフーズ」のすぐ隣に「ヨシオカ建装」がある。すぐに打ち合わせができるため、店からの急な依頼にも対応できる。

例えば静岡県の「や台ずし」沼津駅北口町店からの依頼では下駄箱周辺を即座に改装。小上がりのくぼみにスリッパが収まるようにして、通りやすくした。同店のスタッフは「すぐに対応してもらえるのは、お客さんのためでありスタッフの働きやすさにもつながってくるので、いいところ」と言う。

▽静岡県の「や台ずし」沼津駅北口町店からの依頼では下駄箱周辺を即座に改装

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作るのは自前の店だけではない。東京駅の「グランスタ」にある名店「うなぎ四代目菊川」東京駅黒塀横丁店も「ヨシオカ建装」が手がけた。

「飲食店を自分でやっている建築業者だと、棚の位置とか高さとか扉の開き方とか、細かい部分を飲食店にとって使いやすいように作ってくれる。そのノウハウをたくさん持っていらっしゃいます」(「パッションギークス」阿部翔悟さん)

▽「うなぎ四代目菊川」東京駅黒塀横丁店も「ヨシオカ建装」が手がけた

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他にも「焼肉ライク」や「バーガーキング」などの一部の店舗を手がけている。

「や台ずし」と「ヨシオカ建装」の二刀流で、ヨシックスの売上高は200億円を超え、コロナ以降の外食離れや人手不足が叫ばれる中でも急成長を遂げてきた。その裏には独自の戦略がある。

異色経営者の独自戦略~「老舗理論」と「田舎戦略」

急成長の秘密1「老舗理論」

▽町に古くからある老舗店のような雰囲気を作り常連客を獲得している

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東京郊外の日野駅の近くにある「や台ずし」日野本町店。「や台ずし」の内装はどこも白木で統一され、全ての店にカウンターがある。カウンターでは客と職人が会話を交わす。町に古くからある老舗店のような雰囲気を作り、常連客を獲得しているのだ。

一方、奥の座敷には地域の集まりの団体客が。地域住民のなじみの店になるというのが「老舗理論」だ。

急成長の秘密2「田舎戦略」

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東京都には約40店舗の「や台ずし」があるが、都心部は神田にしかない。他は郊外の住宅地が広がる駅の近くに出店している。ヨシックスはこれを「田舎戦略」と呼んでいる。

たとえば杉並区にある井荻駅前町店。駅から徒歩2分と立地はいいが、周囲に大手居酒屋チェーンは見当たらない。「田舎戦略」では乗降客数が6,000人から1万人の中規模駅の近くに出店する。大手はまず出店しないし、大きな駅前より賃料が安い。

▽「田舎戦略」では乗降客数が6,000人から1万人の中規模駅の近くに出店する

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「田舎戦略」のもう一つの狙いは店舗スタッフの確保だ。

埼玉県の新狭山駅北口町店で働く中原智美さん、歩美さん姉妹。姉の智美さんは大学生でバイト歴7年目。妹の歩美さんは高校生でバイト歴2年目だ。アルバイト先として選んだ理由は「家から近いのでギリギリに出ても自転車で10分もかからない」(歩美さん)からだという。

郊外の住宅地は実家住まいの学生が多くアルバイトを確保しやすい。また実家住まいだと、長期間働いてくれる傾向があるという。

近所だから親も安心だという。母親の里美さんは「自分の娘がどういう所で働いているか分かるので、安心してお願いできる」と言う。

ヨシックスホールディングス会長・吉岡昌成(69)はユニークな店作りのテーマを持っている。

▽「ケチをつけられるから気軽に座れる。屋台ですから」と語る吉岡さん

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「ケチをつけられる店作りです。そういう意識を持って店をあえて作っている」(吉岡) 例えば座席を仕切る板に節穴が空いている。

「『穴、開いているやないか』と言っていただいたらいい。ケチをつけられるから気軽に座れる。屋台ですから」(吉岡)

建築という異業種から参入し、飲食業界の常識を覆してきた吉岡は幹部社員たちを前にこう語った。

「本当にみんなよく頑張ってくれて、過去最高売り上げ、過去最高利益を出せました。しかし1つだけ。もうちょっとオープンしてほしいな。もうちょっとお店出したい」

ブームに乗って大儲け…急転~生き残りをかけた「や台ずし」

▽名古屋市「や台ずし」日比野町店では開店前、恒例の「元気朝礼」が行われていた

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名古屋市「や台ずし」日比野町店では開店前、恒例の「元気朝礼」が行われていた。

スタッフの口からは「この店を盛り上げることを当たり前に行います」「地域一番店を作ることを当たり前に行います」と、「当たり前」というフレーズが頻繁に出てくる。

ヨシックスの社是は「“あたりまえや”を当り前に」。スタッフ一人一人が、できて当たり前やという目標を会社全体の目標にする。吉岡の口癖からとったものだ。だが吉岡自身は、当たり前の人生を歩んできたわけではない。

▽6歳にして「一つのものに頼ったら痛い目にあう」と思ったという

ヨシックスホールディングス会長 吉岡昌成,カンブリア宮殿
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吉岡は1954年、大阪に生まれる。実家は縫製加工の町工場を営んでいた。1960年吉岡家に幸運が訪れる。当時ブームとなった「だっこちゃん人形」の製造を請け負い、工場は軌道にのった。ところがあっという間にブームは去り、多額の借金を背負うことに。6歳にして、吉岡は「一つのものに頼ったら痛い目にあう」と思ったという。

家業は継がず、大阪工業大学 建築学科を卒業すると建築の世界へ。1980年には独立して「ヨシオカ建装」を創業した。

▽1980年には独立して「ヨシオカ建装」を創業した

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転機となったのは、急拡大していた持ち帰り弁当チェーン「本家かまどや」の店舗作りを請け負ったこと。やがて「かまどや」のフランチャイズに加盟、20店舗を構える。

「儲かりましたよ。弁当屋が1軒で(月に)約100万円は最低利益がありました」(吉岡)

「かまどや」の好調もあって業績は拡大、自社ビルを建設するまでに成長した。

だが、90年代に入るとコンビニ弁当の品質が向上。「かまどや」の売り上げは減り、店舗の拡大も頭打ちになってきた。

「新店舗の展開がストンと落ちてなくなった。商品を買うお客さんも『コンビニのほうがいい』と言うし、時代が変わった。『だっこちゃん人形』と一緒です」(吉岡)

最盛期には50億円あった売り上げが3億円まで激減。「かまどや」との契約をやめ、弁当店の業態転換を余儀なくされた。そんな中で思いついたのが、屋台のように気軽に入れる寿司居酒屋だった。

寿司職人を雇い入れ、2000年に名古屋市に「や台ずし」1号店をオープン。常連客を獲得する「老舗理論」や「田舎戦略」などを生み出し、急成長を遂げていくのだ。

「一つのものに頼らない」~新業態で挑む新たな戦略

▽「ひとくち餃子の頂」阪神尼崎駅北口店。「焼き餃子」が1皿319円で楽しめる

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ヨシックスが新たな業態の店を始めた。兵庫県尼崎市の「ひとくち餃子の頂」阪神尼崎駅北口店。店内仕込みの「焼き餃子」が1皿319円で楽しめる餃子居酒屋だ。

のんびり一杯やりながら餃子をつまんでもらうため、こだわったのはちょっと小さめの餃子の大きさだ。他にも鶏ガラスープでさっぱり味の「土鍋炊き餃子」や「ジャンボ肉汁餃子」などさまざまな種類が。

▽鶏ガラスープでさっぱり味の「土鍋炊き餃子」

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テイクアウト客を狙って持ち帰り窓口も設置した。「餃子・唐揚げ弁当」などの弁当類も充実させている。

責任者の「ヨネックスフーズ」の林健太郎は普段餃子を焼いているが、時折店を出て近くの「や台ずし」を手伝いに行く。餃子を焼くだけでなく、寿司も握れる「二刀流」なのだ。忙しい時はアルバイトも両店を行き来して、スタッフを効率的にやりくりしている。

一方で、低価格帯とは一線を画した新店舗も始めた。愛知・長久手市の「華花」はランチ時には満席になる自然薯の料理が楽しめる店だ。

▽愛知・長久手市の「華花」趣向を凝らした料理を提供していて特に女性に人気がある

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豚肉や野菜の上に自然薯のとろろをたっぷりかけた鍋など、趣向を凝らした料理を提供していて、特に女性に人気がある。ランチ時の客単価は1,600円と少し高めだ。

ヨシックスは2023年、愛知県内に3店舗展開していたこの自然薯料理の店を買収した。

「居酒屋業界だけに頼らない、アルコールだけに頼らない、夜だけに頼らない。そういった業態を作るというのがグループとしての意味だと思っています」(「ヨシックスホールディングス」経営企画室 室長・松岡龍司)

※価格は放送時の金額です。

~村上龍の編集後記~

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1960年、実家の町工場では「だっこちゃん人形」を作っていた。ブームが去ると在庫が大量に余り、借金だけが残った。6歳のとき「ブームは必ず去る」と。

大学では建築を学び、店舗専門の建装を創業。持ち帰り弁当店「かまどや」の業務を拡大。数年で「かまどや」は終わった。

「本当に行きたい居酒屋をつくろう」。有効求人倍率が0.6倍と低かった長崎県に出店。「田舎戦略」の誕生。人手不足は全国に広がるが、「や台ずし」は拡大。

500店達成可能?と聞いたら、吉岡さん、大丈夫と、悠々と、超合理主義者の答だった。

<出演者略歴>
吉岡昌成(よしおか・まさなり)
1954年、大阪府生まれ。1977年、大阪工業大学卒業。1980年、ヨシオカ建装設立。1985年、テンガロンキッド(現ヨシックス)設立。2021年、ヨシックスホールディングス会長就任。

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