日本M&Aセンター
(画像=日本M&Aセンター)
譲受け企業情報
社名: 株式会社カツロン(大阪府)
事業内容: プラスチック異形押出製品の設計・製造
売上高: 約37億円(2023年5月期) 社員数: 120名

大阪府東大阪市の樹脂素材製品メーカーのカツロンは、2022年5月、2023年12月と1年半で2社を譲り受けました。元々、成長戦略の中にM&Aという考えはありませんでしたが、「カツロンと一緒になりたい」とのアプローチを受けM&Aを実行。石川 明一社長にM&Aの目的と得ることができた相乗効果について伺いました。(取材日:2024年2月13日)

顧客に寄り添い、愚直に技術を高め続けた75年

――カツロンの前身が創業したのは75年前と伺いました。業界では老舗企業ですね。

譲受け企業 カツロン 石川様: 創業は1949年です。祖父が日之出食品株式会社を設立しました。砂糖が不足していた戦後に、人工甘味料の「サッカリン」を使用した、形状がタバコに似たチョコレート菓子の製造販売を始めました。甘い物が手に入りづらい時代でしたので、当初はたくさん売れたそうですが、徐々に競合他社が乱立する業界となったため、チョコレート菓子で培った押出成形の技術を使ってビニールホースの製造を開始しました。

以来、チューブや冷蔵庫のドアパッキン、一般消費者向けにはフラフープなどを作り続け、商売が成り立つと判断した1970年に、合成樹脂成形加工業と付帯する一切の事業へ定款変更を行いました。

創業から現在まで一貫してお客様に寄り添い、多品種少ロットで必要とされる製品をお届けしてきました。そうしたものづくりへのこだわり、技術の高さを評価いただいて、2007年には「グッドカンパニー大賞」特別賞を受賞し、「元気なモノ作り中小企業300社」にも選ばれました。3代目の私が事業を引き継いでからは、樹脂素材応用製品メーカーとしてのユニークな発想や技術力を認めていただき、「東大阪モノづくり大賞」で金賞を受賞しました。

――常に新しいチャレンジを続けている会社なのですね。

石川様: 一般的な押出成形ですと、金太郎飴のようにどこを切っても断面は同じ形状なのですが、弊社が世界で初めて開発した技術「3次元押出成形」を用いると、立体構造物が作れるようになりました。他社には真似ができないこの技術で、現在駐車場緑化のプレート「ターフパーキング」を製造、販売しております。

――M&Aを経営戦略に組み込まれた理由をお聞かせください。

石川様: 当初、経営戦略の中にM&Aで他社を譲り受けるという選択肢はありませんでした。お客様のニーズに応えてきて、創業75年にして5,000種以上の製品を作ってきました。この技術力とモノづくりの企業文化があれば、自社単独でさらに成長を続けていけると思っていたのです。

ところが、業界の流れとして同業会社の倒産や廃業の話をちらほら聞くようになり、5年ほど前からは金融機関などから、射出成形メーカーを譲り受けてもらえないかといった相談を受けるようになりました。

初めの頃は、お断りする口実として「弊社は射出成形ではなく、押出成形ですので相乗効果が見込めません」と答えていたのですが、ある時、日本M&Aセンターから同じ押出成形メーカーの名古屋セロン株式会社を提案されました。担当コンサルタントの小阪 博之さん曰く、「先方の社長様が、御社に株式を保有してもらいたいと望んでおられる」とのことでしたので、そう言っていただけるのであれば一度お会いしてみようと思いました。

日本M&Aセンター
創業以来、3代にわたり技術を磨き続けてきたカツロン。 2019年には石川社長の父、宏会長が長年の功績を認められ旭日単光章を受章した(画像=日本M&Aセンター)

さっそく2社との相乗効果が生まれる

――2021年12月に日本M&Aセンターと提携仲介契約を締結し、半年後には1社目を譲り受けました。決め手となったポイントを教えてください。

石川様: 名古屋セロンは、自動車用部品をはじめ、多種多様な樹脂製品を受注から納品まで自社内で一貫製造できる会社です。加藤 雅也社長は私と同世代で、実直にモノづくりに注力されていて、直感として「この方とであれば一緒にやっていける」と思いました。技術力やシナジー効果も大事ですが、まずは「人」です。会社が愛知県愛西市にあり、中京圏のニーズを拾えることも魅力でしたし、何よりも以前私が名古屋に4年間住んでいたこともあって、ご縁を感じました。

――M&Aから1年半ほど経ちましたが、どのような統合プロセス(PMI)を進めてきましたか。

石川様:名古屋セロンは弊社と同じ押出成形のメーカーですが、弊社では取扱いのなかった樹脂素材を扱っていましたので、今までお断りしていた仕事も受注できるようになり、扱える商材が増えました。営業面でのクロスセルのほかには、グループ化したことにより弊社の生産業務を一部移管したり、名古屋セロンの仕事を弊社で請け負ったりして、双方の人材や設備を有効活用できるようになりました。

また、現在はカツロンの顧問税理士に名古屋セロンの会計税務も任せて、決算月を合わせるなど経理財務の統合作業を行っています。間接部門をグループ全体の管理体制にすることによりコストダウンを図れるかと思います。

――初めてのM&A後に、わずか1年ほどで2社目の社長とトップ面談をされています。

石川様: M&A後のシナジーを出していくことに注力をしていこうと思っていたので、すぐに2社目は考えていませんでした。しかし、日本M&Aセンターからご提案いただいた幸輝プラスチック工業株式会社は、隣りの市(大東市)にある会社というだけでなく、弊社では扱っていない分野の押出成形を行っていたため、大変興味を持ちました。また、先方の社長が「カツロンと一緒にやりたい」と言ってくださっているとのことでしたので、ふたたび方向転換しお会いすることにしました。 お会いしてみると、幸輝プラスチック工業の吉岡 美貴男社長も質実に押出成形に向き合われている方でしたね。

――2件目の譲受けに踏み切った決め手を教えてください。

石川様: 幸輝プラスチック工業も名古屋セロン同様に後継者不在問題があり、この技術を引き継いでほしいという想いが強かったからです。2社の社長は共に、譲渡の対価を求めているわけではなく、事業継続や技術を引き継いでもらうために適切な会社を探していて、それがカツロンであるということでしたから、1件目のM&Aから時間が経っていませんでしたが、一緒にやろうということになりました。

お相手側の社長が今までどのような経営をしてこられたか、どういったお考えでM&Aに向き合われているのか、それが全てです

――ご一緒になられて、まだ1ヵ月が経ったばかりですが、いかがですか。

石川様: 2社目の幸輝プラスチック工業からは、カツロンに技術を引き継いでポリカーボネート製品の生産量を増やしていきたいという要望をいただいていますので、こちらから技術者を2名派遣して技術の習得に努めています。1ヵ月しか経っていませんが人材の交流は非常に盛んです

日本M&Aセンター
2022年5月に名古屋セロン(左)を、2023年12月に幸輝プラスチック工業(右)を譲り受けた(画像=日本M&Aセンター)

石川様: 押出成形の分野において、技術や売上利益などあらゆることが業界トップクラスだという自負はあります。先代社長から引き継いで15年で、ようやくこれだけの規模まで成長をさせることができました。 しかし、井の中の蛙にならないように常に自戒することが大切だと思っています。社長の私が井の中の蛙になってしまうと、社員も「押出成形ってこんなものだ」と向上心が薄れてきてしまいます。

譲り受けた企業の素晴らしい技術や従業員への教育、生産体制などを見て「こんなにきっちりやっている」「とても厳しい管理体制だ」など、自分たちにないものを知ることは大変勉強になります。2社ともそう思わせてくれる企業でした。 業界新聞などでは業務の内製化やコストダウンなど表面的な効果しか書かれませんが、こういった文化的な面もM&Aの効果だと思います。

――最後に、今後のビジョンをお聞かせください。

石川様: 私には、会社を上場させたいとか、規模をどんどん大きくしていきたいといった考えはありません。純粋に「良い仕事」をしたいと思っています。お客様、仕入れ先、そして何より従業員に喜んでもらえる会社でありたいという想いでいたら、自然と規模が大きくなっていました。今後も、弊社の価値観に共鳴してくださる企業のグループインも検討しながら、押出成形を行う最強の集団としてお客様や従業員たちを守っていきたいと思っています。

深刻な人手不足や原材料の高騰など、モノづくりが非常にしづらい時代に突入していくことになると思いますが、お客様や仕入れ先に良い会社だと思っていただき、定年退職する従業員が勤めて良かったと思える会社にしていきたいです。名古屋セロン、幸輝プラスチック工業にも同様にカツロンと一緒になって良かったと思ってもらえるグループ経営をしていこうと思います。

小阪 博之
日本M&Aセンター担当者コメント
西日本地域金融部 チーフ 小阪 博之(株式会社カツロン担当)
カツロン様の経営理念である「楽業偕悦」には、仲間と共にものづくりを楽しみ、良い結果を出し、皆で喜び合いたいという想いが込められており、日頃から石川社長が仰っているお言葉です。加藤社長、吉岡社長ともに素晴らしい経営者であり、「世の中にないものを創る」ことにご共感いただき、今回の成約につながったと思います。 ※役職は取材時