矢野経済研究所
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ゼロカーボンシティの実現に向けて、再エネ発電設備・蓄電池の普及拡大施策が拡充

~一方で、地域マイクログリッドの構築や再エネ発電設備の設置義務化条例の制定を目指す自治体はごく少数に留まる~

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、共同通信社の協力により、2023年8月末時点でゼロカーボンシティ(2050年二酸化炭素実質排出量ゼロ)の実現を目指すと宣言している973自治体を対象にアンケート調査を実施し、ゼロカーボンシティの実現に向けた施策の現状や課題を分析した。ここではその結果の一部として、276市区町村の集計結果を公表する。

【市区町村】再生可能エネルギー(再エネ)発電設備普及拡大施策の実施状況(左図)・蓄電池普及拡大施策の実施状況(右図)

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【市区町村】地域マイクログリッドの構築状況(左図)・再生可能エネルギー(再エネ)発電設備の設置義務化条例の制定状況(右図)

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1.調査結果概要

本調査は共同通信社の協力により、2023年8月末時点でゼロカーボンシティ(2050年二酸化炭素実質排出量ゼロ)宣言を表明していることが確認された973自治体を対象にアンケート調査を実施し、ゼロカーボンシティの実現に向けた施策の現状や課題について、ここでは276市区町村の集計結果をもとに分析した。

太陽光など再生可能エネルギー(以下、再エネ)発電設備と、家庭用・産業用蓄電池の普及拡大施策の実施・検討状況(単数回答)について尋ねたところ、前者は8割以上、後者は7割以上が、実施に意欲を示している(「実施中」及び「実施予定・検討中」とした回答の合計)。この背景には、自然災害に対するレジリエンス向上(※1)のほか、系統制約や出力抑制への対応が課題となっていることが挙げられる。

再エネ発電量の増加と引き換えに、元々電力需要の少ないエリアでは送電線の容量不足による系統制約が生じている。この場合、地域内で再エネ発電設備の導入を進めても、つくられた電力を送電線に流す逆潮流が難しい。また、太陽光による発電量が増える晴天時には、余剰電力が多く発生する時間帯があり、電力の需給バランスを一致させるため発電の出力を抑えるケースがある。日照条件の良好さなどから太陽光発電設備の導入が進んだ九州をはじめ、近年では他のエリアでも出力抑制が発生している。

系統制約や出力抑制の回避策として、再エネ発電設備を設置した需要家自らが電力を消費する自家消費を増やす手法が注目されている。そのためには、昼間時に消費しきれなかった余剰電力を蓄電池に貯め、電力需要が高まる夜間などに活用することが有効である。今回のアンケート結果からは、蓄電池の導入促進で再エネ電力を無駄なく活用し、再エネ発電設備の導入効果を高めたい意向があるものと考える。

※1. ここでは、公共施設や一般家庭等の電力需要家自身が非常用電源を確保することで、自然災害により停電が発生しても、エネルギーを継続的に利用できる体制を整えることを指す。その手法として、再エネ発電設備と蓄電池の活用がある。

2.注目トピック

地域マイクログリッドの動向と再エネ発電設備設置義務化の意義

地域マイクログリッドとは、大規模災害の発生等により停電が発生した際、自立電源への切り替え・供給により地域内の電力インフラを維持するシステムである。自立電源として太陽光などの再エネ発電設備や蓄電池を活用することで、平常時には再エネ由来の電力を無駄なく使用する。こうした電力の自給自足の仕組みを構築することにより、レジリエンス向上(※1)と脱炭素化の両方を実現できると考えられている。

しかし、今回のアンケート調査において地域マイクログリッドの構築状況(単数回答)を尋ねたところ、構築に前向きな市区町村は2割未満に留まる結果となった。その理由として、再エネ発電設備の設置や蓄電池の設置について、地域住民や施設所有者、及び施設関係者との合意形成が必要であることが挙げられる。このほか、系統制約エリアでは既存の送配電網の活用が難しく、新たに自営線を敷設するとしてもその分のコストが必要となることが阻害要因であるものと考える。

これを踏まえると、地域マイクログリッドのような特定地域をカバーする面的な取り組みの代替として、一戸単位でレジリエンス向上、脱炭素化を目指す取り組みも方向性の一つになり得る。防災機能の一つとして再エネ発電設備・蓄電池を保有する家庭等を徐々に増やしていく方が、自治体施策としても最小単位としての自家用需要を網羅でき、実効性が高いからである。

2025年4月には、東京都と神奈川県川崎市で新築戸建住宅へ再エネ発電設備の設置を義務付ける条例が施行される。再エネ発電設備の設置義務化条例の制定状況(単数回答 ※2)を尋ねたところ、制定に前向きな自治体は数%に留まる。再エネ発電設備の設置には、初期費用の掛からないPPAスキーム(※3)などの活用が広がっているものの、その認知はまだ不十分である。コスト増につながるとの懸念から、現時点では条例化を躊躇している様子がうかがえる。今後は、レジリエンス向上と脱炭素化への貢献という再エネ発電設備の導入効果を地域住民に訴求するとともに、導入支援策の拡充などを通じて、同設備の普及推進に対する理解を醸成する必要がある。

※2.再エネ発電設備の設置を義務付ける条例が都道府県条例で制定されている場合は、市区町村で制定されているとみなして回答。
※3.PPA(Power Purchase Agreement)とは、再エネ電源を保有する事業者(PPA事業者)が電力需要家と売電契約を結ぶこと。PPA事業者は原則、初期費用ゼロで再エネ発電設備を設置し、一定期間、電力需要家から電力料金やサービス料金を徴収する。

調査要綱

1.調査期間: 2023年10月~11月
2.調査対象: 2023年8月末時点で、ゼロカーボンシティ(2050年二酸化炭素実質排出量ゼロ)の実現を目指すと宣言している296自治体(20都道府県、276市区町村)
3.調査方法: インターネット、電子メールによる自治体アンケート調査
<ゼロカーボンシティの実現に向けた施策に関する自治体アンケート調査とは>
本調査は共同通信社の協力により、2023年8月末時点でゼロカーボンシティ(2050年二酸化炭素実質排出量ゼロ)宣言を表明していることが確認された973自治体を対象にアンケート調査を実施し、ゼロカーボンシティの実現に向けた施策の現状や課題を分析した。ここではその結果の一部として、276市区町村の集計結果を公表する。
<市場に含まれる商品・サービス>
自治体における再生可能エネルギーの普及、省エネ化の促進策

出典資料について

資料名2023年版 ゼロカーボンシティの実現に向けた課題と展望 ~脱炭素地域づくりに取り組む自治体・企業の最新動向~
発刊日2023年12月27日
体裁A4 184ページ
価格(税込)198,000円 (本体価格 180,000円)

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