2024年も3カ月が経過し、多くの企業で4月の新年度を迎えています。
今年度、自社の事業計画にはどのような事項が盛り込まれているでしょうか。
深刻化する少子高齢化に対応すべく、「人」に関わる施策に乗り出す企業では、雇用関係助成金の活用を前向きに検討しましょう。 とりわけ2024年度は、より使い勝手が良くなった「キャリアアップ助成金正社員化コース」に注目です。(文:丸山博美社会保険労務士、編集:日本人材ニュース編集部)
目次
キャリアアップ助成金正社員化コースの変更点
キャリアアップ助成金正社員化コースは、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者等のいわゆる非正規雇用労働者のキャリアアップ促進、処遇改善のため、正社員化の取り組みを実施した事業主に対する助成制度です。
数ある雇用関係助成金の中でも、企業において比較的幅広く活用されてきた助成金ですが、2023年11月29日以降に正社員化した対象労働者の支給申請より拡充と要件緩和が講じられ、さらに使いやすくなっています。
キャリアアップ助成金正社員化コースの4つの変更点を、まとめて確認しましょう。
変更点① 一人あたりの助成金額見直し
キャリアアップ助成金正社員化コースの助成金額は従来、最大「57万円」でしたが、助成金額の見直しが行われ、増額されています。
制度拡充後は2期(12カ月)で「80万円」、1期(6カ月)あたり「40万円」となっています。大企業の場合、支給額は最大「60万円」です。 なお、上記は有期から正規の場合の助成額であり、無期から正規の場合の助成額はそれぞれ表中の額の1/2となります。
変更点② 対象となる有期雇用労働者の要件緩和
有期雇用労働者を助成金対象とする場合、これまでは雇用期間が「6カ月以上3年以内」の労働者に限定されていました。
この点、2023年11月29日以降の正社員化では、雇用期間が「6カ月以上」に緩和され、長年継続勤務の有期雇用労働者を対象とすることが可能となりました。
ただし、有期雇用期間が通算5年超の有期雇用労働者については、転換前の雇用形態が契約上「有期」だったとしても「無期雇用労働者」とみなされ、助成金額が減額となる点に注意する必要があります(「変更点① 一人あたりの助成金額見直し」参照)。
変更点③ 正社員転換制度の規定に係る加算措置新設
キャリアアップ助成金の活用に伴い、初めて正社員転換制度を導入する企業に対する加算措置が新設されました。
本加算措置は、新たに正社員化制度を導入する事業主支援を目的としたもので、社内規程に正社員転換制度を新たに規定し、当該雇用区分に転換等した場合、1事業所あたり1回のみ、「20万円」(大企業の場合は「15万円」)が支給されます。
正社員化に加えて制度新設に係る加算要件を満たすことで、一人目の転換時に「正社員化80万円+制度新設加算20万円」の合計100万円が支給されます(中小企業の場合)。
なお、「無期→正規」の転換制度を新たに規定し、実際に正社員化した場合も、同額の加算を受けることができます。この場合、最大で「正社員化40万円(有期→正規の1/2)+制度新設加算20万円」の合計60万円が支給されます(中小企業の場合)。
変更点④ 多様な正社員制度の規定に係る加算措置拡充
さらに、正社員化の選択肢として「多様な正社員」を想定し、制度設計及び転換を行った企業への加算措置が拡充されました。
正社員制度設計にあたり、新たに勤務地限定・職務限定・短時間正社員制度を規定し、労働者を当該雇用区分に転換等した場合の加算措置が、表の通り拡充されます。
本来の正社員化に係る支給要件と、多様な正社員制度規定に伴う加算要件の両方を満たせば、一人目の転換時に「正社員化80万円+多様な正社員制度新設加算40万円」の合計120万円が支給されます(中小企業の場合)。
「人」に関わる施策をバックアップする、雇用関係助成金の活用を
今回は、「キャリアアップ助成金正社員化コースに係る4つの変更点」を解説しました。
助成金額の増額や加算措置の拡充、有期雇用労働者の要件緩和等、企業側にとって大きな制度改正であることが分かります。
少子高齢化に伴う人手不足や人材定着・育成に関わる課題等、企業を取り巻く雇用問題は多岐に渡ります。
限られた経営資源で人事労務関連の諸課題の解決に取り組む企業において、積極的に活用すべきが「雇用関係助成金」です。
支給要件や手順、申請手続き等の複雑さから、現状「関心はありつつも活用には至らず」の現場も多いと思いますが、専門家に相談することで、取り組みがぐんと前に進みます。
もっとも、助成金申請には「法律に則した労務管理の徹底」が大前提となり、この点が企業における助成金申請を頓挫させる原因となるようです。
しかしながら、法令遵守を意識することで必然的に労働環境が改善される他、一度しっかり基盤を作っておくことで、その後も次々と雇用関係助成金の活用を検討しやすくなる等、煩わしくとも取り組むべきメリットは少なくありません。
今春、助成金申請の大前提となる「労務管理の適正化」から、一つ一つ始めていきませんか。
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