2024年春の清涼飲料市場における最大の話題は緑茶飲料だ。飲料各社が市場活性化に向けて中味・パッケージで新たな提案を行っている。この春は4ブランドが大きくリニューアルすることを発表した。
日本茶飲料は、清涼飲料市場で最大規模の生産量を誇るカテゴリーだ。しかし、近年は止渇ニーズに応えるうちに各社の味わいが近くなり、価値が希薄化していたという。また、価格改定が相次ぐ中で、2023年はPB(プライベートブランド)商品や他の無糖飲料へユーザーが流出していた。そこで、飲料各社は緑茶飲料の大型リニューアルを行うことを相次いで表明。各ブランドが積極的に差別化を図っている。
3月21日に都内で「綾鷹」の商品発表会を行った日本コカ・コーラ社マーケティング本部緑茶事業部の助川公太部長は、各社が緑茶飲料のリニューアルに取り組んでいることについて次のように語る。「我々メーカーの使命は、緑茶のカテゴリーにどれだけ多くのお客様を取り込めるかだ。そういう意味では各社がリニューアルを積極的に行い、それぞれの良さをお客様に提案することは、緑茶飲料市場自体を大きくできるという面では非常に歓迎すべきことであり、我々も乗り遅れてはいけないと考えている」。
緑茶飲料市場は2023年に売上金額が約4570億円(伊藤園推計)と過去最高になった。気温の上昇と健康志向により、水分補給と止渇ニーズが高まったためとみられる。だが、一方でスタンダードな緑茶はすっきりした嗜好の商品が増え、代表的なブランドは比較的近い中味になっていた。
サントリー食品によれば、「喉を潤すためのペットボトル茶のひとつになってしまい、緑茶の価値が希薄化している状態だった」とする。その状況下で飲料・食品の価格改定が続き、緑茶飲料ではNB(ナショナルブランド)商品から、低価格のPB商品へユーザーが流出する事態が起きていた。サントリーの「伊右衛門」(本体)は、2023年販売数量が過去最低になったほか、他メーカーでも緑茶飲料の数量実績は減少していた。
そこで、飲料各社は今春、緑茶飲料の大型リニューアルやコミュニケーションの強化を行い、さまざまなアイデアにより緑茶飲料で差別化を図り、市場活性化に向けて取り組んでいる。
サントリー食品は、3月12日から緑茶「伊右衛門」(本体)の味わい・パッケージを刷新した。本体史上、最高レベルの濃さが特徴だ。イメージキャラクターも俳優の堺雅人さんと古川琴音さんに一新した。同社は濃い味わいにした背景について、「物価高が継続し、安さや量などに需要が流れる一方、わかりやすい質の良さを求める消費傾向もあり、濃い味わいのニーズが高まっている。新しい“伊右衛門”は、今できるわれわれの最高傑作だ」とした。
キリンビバレッジは、4月9日から「生茶」を大きくリニューアルする。容器・パッケージ・中味を全て刷新し、緑茶の新しい価値を創造した。特に注目はパッケージで、従来の深い緑のラベルから白を基調としたラベルへの変更により、他人と違う物を持っている“自己表現の媒体”としての価値を提供する。同社は、「生活に馴染む、お客様が生活に取り入れたくなる緑茶を目指した。飲んでいて満たされる。持っていても満たされる。そんな緑茶になりたいと考えた」としている。
アサヒ飲料は、4月2日から「アサヒ 颯」のパッケージを刷新して発売する。2023年4月に立ち上げた「アサヒ 颯」ブランドは、年間で約560万箱を販売するなどヒット商品に育っている。2年目となる今年は、販売目標を1000万箱に設定し、特徴である「微発酵茶葉」を使用していることを強調するためアイコンに加えて説明を側面に記載。“華やかで爽やかな香り”という独自価値の訴求を強化する。
コカ・コーラシステムは、4月15日から「綾鷹」を7年ぶりに大刷新する。新たな味わい・デザインにするほか、パーソナルサイズの容量は、これまでの525mlから650mlへ増量する。味わいは、生活者が求める嗜好に合わせ、「淹れたて一杯目のおいしさ」を目指して変更したという。しっかり本格的な旨みと軽やかな後味が特徴だ。茶葉選定を一から見直して旨み豊かな茶葉を選定することで、従来品に比べて旨みが約40%増加したとする。助川部長は、21日の発表会で「今回一番大事にしたのは、旨みと、飲み飽きない軽やかさのバランスだ。その点が“綾鷹”ならではの差別化ポイントだと思っている」と話した。
また、「綾鷹」の開発に協力している京都・宇治の老舗茶舗「上林春松本店」の第15代上林春松氏は、今回のリニューアルについて次のように語った。「お茶の世界は、客観的に見るとずっと変わらず、伝統を守っていくものと見られがちだ。だが、歴史を学んでみるといつの時代も嗜好やニーズの変化があり、それに応える歴史の繰り返しだった」。
「消費者ニーズの変化のスピードは目まぐるしい。“綾鷹”も大きな変更をする時期に差し掛かっているという認識はあった。とはいえ成熟したブランドであり、現行品の味わいの評価も高かったので、中味を変更するのは勇気のいる決断だった。だが、高い完成度に仕上がり、大変満足している」。
カテゴリートップシェアの伊藤園「お~いお茶」は、本体で大きなリニューアルをする予定はまだ聞こえてこない。ただ、同社は季節ごとに味わいを若干変化させるなど、その時々に合った製品設計に取り組んでいるという。また、契約栽培の茶葉の使用比率を高め、着実に品質向上を進めている。
大手各社が本腰を入れて取り組む緑茶飲料市場の動きは、2024年の清涼飲料市場全体の動向を左右しそうだ。