事業売却の事例3選

最後に、著名企業による事業売却の事例を3例ご紹介します。

オリンパスによる科学事業の売却


<事業売却の背景>
内視鏡事業と治療機器事業を中心とした医療分野への経営資源集中による経営基盤の強化

日本を代表する光学機器・電子機器メーカーのオリンパスは、2021年12月17日、顕微鏡や産業用の測定装置などの製造・販売を行っている科学事業部門を2022年4月1日付で分社化することを発表しました。

分社化された科学事業部門は、2021年11月30日付で新たに設立した株式会社エビデント(オリンパスの完全子会社)に吸収合併され、引き続き科学事業部門が承継されることとなりました。

オリンパスは持続的な成長を実現させるための経営戦略にもとづき、内視鏡事業と治療機器事業を中心とした医療分野に経営資源を投入し、持続的な成長を実現するための経営基盤の強化に取り組んでいました。その過程で、祖業である科学事業部門の持続的な成長と収益性向上に向けて、事業譲渡等を含むあらゆる選択肢を視野に今後の経営戦略について分析・検討を重ねてきました。

その結果、内視鏡事業や治療機器事業などの「医療分野」と、顕微鏡や産業用の測定装置などの「科学事業」を分け、それぞれの特性に合った経営体制を確立することが、それぞれの持続的な成長と収益性向上に向けた取り組みを加速させ、グループ全体の企業価値向上につながるとの判断に至り、科学事業の分社化が決定されました。

オリンパスの科学事業部門の売り上げは、21年3月期で958億円と全社の13%を占めており、今後は、科学事業部門を承継した新会社エビデントの全株式を第三者に譲渡することを念頭に置いた検討作業が進められているとのことです。

東京ガスによる導管工事事業の売却

東京ガスは、2022年5月11日、子会社のガス導管工事事業を日鉄エンジニアリングの完全子会社である日鉄パイプライン&エンジニアリング株式会社に売却することを発表しました。

今回の事業売却の発端は、2016年4月にさかのぼります。2016年4月からスタートした「電力の小売自由化」により、消費者が契約する電力会社を選択できるようになりました。

それに続く形で、2017年4月には都市ガスの小売自由化も実施され、公平なガス事業競争を行わせるために都市ガス大手3社(東京ガス、大阪ガス、東邦ガス)は、2022年以降、導管部門とそれ以外の部門をそれぞれ法的に独立した事業体に変更する法的分離が義務付けられました。今回の東京ガスによる導管工事事業の売却は、この法律にもとづく義務を履行する目的で行われました。今回の事業売却では、東京ガスの子会社で設備工事などを手掛けるキャプティの導管工事部門を売却することが決定されています。

キャプティは、東ガスが6割、NSPEが4割出資して設立された会社でしたが、事業譲渡後は、東ガス側がNSPEの保有する残り4割の株式をすべて買い取り、キャプティを完全子会社とすることが発表されています。

なお、キャプティの売上高は直近の決算で454億円(うち譲渡する導管工事事業はうち年間約140億円)で、主に家庭向けのガス導管工事や道路復旧工事を手掛けていました。導管工事事業部門を売却し、東京ガスの完全子会社となったあとは、空調など設備工事を手掛けていくことが予定されています。

日本郵政による宿泊施設「かんぽの宿」事業の売却

2021年10月1日、日本郵政グループは、全国で33ヶ所ある宿泊施設「かんぽの宿」をすべて事業売却することを発表しました。その第1弾として29施設を米投資ファンド「フォートレス・インベストメント・グループ」傘下の国内ホテル運営会社などに一括売却し、3施設については洋菓子などの製造販売している「シャトレーゼホールディングス」など3社に1施設ずつ売却が予定されています。

また、残る1ヶ所の「かんぽの宿 恵那」については、売却を恵那市と協議の上進めるとのことです。

かんぽの宿の歴史は古く、元々は簡易保険加入者向けの福祉施設として1955年に設置されました。しかし、他の宿泊施設と比べ人件費や食材費が高いことなどから赤字が続き、2008年には当時保有していた70施設を一括109億円でオリックスに売却することが発表されます。しかし、当時の鳩山総務大臣が「安すぎる」と反対したことや、世間の反発などもあり、結局計画は挫折してしまいました。その後、施設の閉鎖や個別売却を進めつつ、紆余曲折を経て念願の事業売却が叶うこととなりました。

33施設の売却総額は総額で88億円となり、2008年当時の売却総額(70施設で109億円)には及ばないものの、2007年の郵政民営化以降14年間で650億円にまで膨れ上がった累積赤字の解消に向けた第一歩として期待されています。