事業売却にかかる税金
事業売却によって課税される税金の種類は、売り手側と買い手側によってそれぞれ異なります。
売り手側には、売却益に対して法人税(個人であれば譲渡所得税)が課税されます。また、土地などを除く資産の譲渡については消費税が生じるため、売却価額に消費税を加えた金額を買い手側に請求する必要があります。
買い手側には、事業売却によって購入した資産のうち消費税の課税取引に該当するもの(機械などの設備や車両などの売買)が含まれている場合は、それらに対して消費税が課税されます。また、譲り受けた資産・負債の時価と支払った対価とに差額がある場合は、その差額を「のれん」として計上(資産調整勘定)し、それを5年間で定額償却(損金算入)しなければなりません。
したがって、のれんの償却分だけ法人税の節税効果が生じます。そのほか不動産取得税、登録免許税は、買い手側が負担する税金として挙げられます。
事業売却の手続き・流れ
それでは、実際に事業売却を行う場合の具体的な手続きやその流れについて確認しておきましょう。事業売却の手続きや流れは、以下の順で行います。
①売却事業・売却先の決定
事業売却にあたり、はじめに売却後の経営計画を策定しておかなければなりません。売却によって得た資金をどう活用し、今後どの分野へ進んでいくのかが明確に決まらなければ、どの部門を売却するのかが決定できないからです。
売却後のイメージと売却する事業部門が整理できたら、次は売却先を探します。取引先や同業者などにあたる方法もありますが、あらぬ噂が立ってしまい事業に影響が出てしまうリスクがありますので避けた方が良いでしょう。
したがって、M&A仲介会社などに依頼し、売却先を決める方法をおすすめします。また、M&A仲介会社であればM&Aによる組織再編を熟知しているため、新たなスキームによって事業売却以外の方法も提案してもらえるかもしれません。
②買い手側による条件提示・基本合意
事業売却の買い手が見つかったら、買い手側から意向表明書が提示され、売却に向けた諸条件などのすり合わせがはじまります。 お互いの条件が合致し、事業売却の意思が固まったところで、基本合意書の締結です。基本合意書には事業売却の金額やスキーム、対象となる資産・負債だけでなく従業員の雇用や最終的な契約日締結の目安まで盛り込まれます。
③デューデリジェンス
買い手側による売り手側に対する買収前の監査が、デューデリジェンスです。デューデリジェンスでは、財務・法務・税務などのさまざまな面から、売り手企業の抱えている問題点やリスクが検証されます。
なお、デューデリジェンスは公認会計士や弁護士、税理士などの専門家が中心となって短期間で集中的に行われます。売り手側は事業売却を円滑に進めるためにも、積極的に協力するよう心がけましょう。
④取締役会での決議
デューデリジェンスが終わったところで、最終的な契約に向けて取締役会で事業売却を決議します。なお、決議にあたっては、契約事項や作成された書類などに不備がないように事前に確認しておくと良いでしょう。
⑤事業譲渡契約書の締結
取締役会の決議が終わったら、両者で事業譲渡契約書を締結します。この締結をもって、売り手との事業売却は完了します。
⑥事業の移転手続き
事業売却の場合、事業譲渡契約書を締結しただけではすべての資産や負債を移動できません。したがって、債権や債務をはじめ従業員の雇用など、個別の契約が必要なものに関しては別途手続きを行いましょう。
⑦株主総会での特別決議、株主への通知・公告
事業売却を行う場合であっても、買い手が売り手の議決権の10分の9以上を持っている親会社である場合や、売却の対価として支払う金額が買い手の純資産額の5分の1を超えない場合などには、株主総会を開催して特別決議を行う必要はありません。
しかし、それ以外の事業売却については、株主総会の特別決議を経て3分の2以上の株主から信任を得なければなりません。 そのため、株主への通知や官報での公告が必要です。
⑧各所への届出・許認可の取得
最後に、事業売却に関して監督官庁への届出や業務に必要な免許や許認可などを取得すれば、事業売却に関する手続きはすべて終了します。