仲介だからこそ可能な国家課題の解決
―2023年9月には、中小企業庁の中小M&Aガイドラインが改訂されました。いま業界に求められていることは何でしょうか。
横山さん:大きく2つだと捉えています。 まず1つ目は、「ガイドラインの遵守を通じた業界全体での顧客利益保護の徹底」です。 今般の改訂で追記・盛り込まれた各論点は、支援機関の契約・手数料体系の煩雑性や、支援の質のばらつきにより生じる顧客の不安といった主要課題に対して、極めて有用であると感じています。こうした新たに浮上してきた課題に対して、私たちは「国家課題の解決」という責任を背負った新業界に所属しているため、可能な限り真摯に対応することで、顧客利益の最大化を常に求めることは必然だと考えていますし、それを可能とする仕組みづくり(=実効性の高いルール管理の枠組み)も必要です。
また2つ目には、「業界各社 が協力し合い、行政やアカデミアと一体となって、さらに業界を洗練させていく」ことも極めて重要であると考えています。 改訂後の中小M&Aガイドラインに追記されている事項は、「現時点での課題に対応するための最低限守るべき外枠」だと捉えています。日本M&Aセンターが創り出し、各社の尽力によりスケールしたこの新業界は、今後さらなる発展・成熟を経るにつれて、より多くの課題・解決策が浮き彫りになることが予想されます。こうした課題から目をそらさず、可視化や議論に資するため、公的機関や学術機関と連携することでM&A仲介機能の実効性を引き上げるとともに、より素晴らしいサービス・業界にしていくのだという「開拓精神」が、業界全体ひいては社員一人一人にこそ必要だと考えています。
余談にはなりますが、私はかつてどちらかというと規制を通じてこの新業界を統制していくべきである、と考えていました。具体的には、顧客保護を最上位概念に置き、M&A仲介業界に一定のモラルが醸成されなければ、立法を通じた新法に沿った政策実行にて縛ることで、その後法律に適応した市場とプレーヤーが勃興するだろうという趣旨の意見です。
このため、2022年の転職時には勤めていた日本銀行から経済産業省へ転じ、国家・行政による規制強化を通じて顧客保護に貢献しようかと本気で悩んだほどです。ただし、中小M&A分野について研究しているうちに、仲介機能の効率性や民間の力無くして「人口減少・高齢化・後継者不足」という根源的なイシューを解決することは極めて難しいと確信しました。結果として、民間最大手のM&A仲介会社である日本M&Aセンターに入社して、レバレッジに寄与することを決断した経緯があります。 その後、業界を揺るがす不祥事や自主規制団体の創設、学術機関との連携といったマクロイベントを通じて、M&A業界は「単なる高年収上位を独占する業界」などではなく、「国家課題を解決するという極めて高い社会的使命を背負った業界」であるという確信を深めています。
経営企画部 横山逸郎さん
横井さん:私が2010年に入社した当時は、M&A仲介の上場企業は日本M&Aセンター一社のみで、正直言って、”隙間産業”のようなものでした。風向きが変わったのは2013年です。この年から、M&Aキャピタルパートナーズ様をはじめとして、ストライク様、名南M&A様、オンデック様、M&A総合研究所様(現M&A総研ホールディングス様)などが相次いで上場され、立派な業界になりました。これ自体は業界が拡大・発展しているということで、素晴らしいことだと感じます。ところが、そうなってくると、今度は社会全体から公正取引ルールが求められるようになります。これは、我々業界が主導して自らやらなければなりません。なぜなら、行政とは違い、我々は業界の実態を熟知しているからです。実効的できめ細かなルールの策定は、我々業界団体にしかできません。不明朗で分かり難い料金体系を明確に公表した上で、具体的な例を挙げて丁寧に説明し、顧客に完全な理解を得ていただく必要があります。
また、仲介業特有の利益相反問題に自ら対処し、過度な広告や営業活動に対して、ルール化する必要があります。今後、M&A仲介協会に加入しているということは、そのようなルールを守っている企業であることの証明になりますので、売り手となる中小企業はもちろん、上場企業が多い買い手のM&A担当者なども、仲介会社を選ぶ際のひとつの基準になっていくでしょう。万が一、M&Aがうまく行かなかった場合、仲介業者をどのような基準で選定したのかが株主・ステークホルダーなどから問われる時代になってくると思われます。