自主規制ルール遵守=信頼性の高い仲介会社
―M&A仲介業界をより一層発展させていくために今後必要なことは何でしょうか。
横山さん:私は「国・行政からの更なる支援・協力」が最も重要であると考えています。 現在の市場環境を見ると、圧倒的にM&Aサービスの供給が不足していることから、補助金強化や税制緩和といったトラディショナルな後押しはもちろん、より広範な企画・支援・協力も必要です。
具体的には、地方での事業承継・引継ぎ支援センターの実効性を向上させるため、民間との役割分担の明確化も検討すべきと考えます。これは、ファイナンス分野でのカバレッジにおける、市中銀行と公的金融機関の領域区分のようなイメージです。また、アメリカでは自主規制団体のIBBA(International Business Brokers Association)による業界資格CBI(The Certified Business Intermediary)が機能しているように、日本においてもM&Aシニアエキスパート資格(M&A仲介協会監修、一般社団法人金融財政事情研究会運営)の強化や啓発が求められています。この点については、国家資格化により顧客目線での信頼性を高め、実効性を向上させることも検討すべきだと考えてきました。これらを実現するには民間とのノウハウ・現場感の共有が必須ですので、官民間での人材交流も必要です。
M&A仲介というビジネスモデルは、ともすると利益相反のリスクを指摘されることが少なくないことは事実です。一方で、①適切なマッチング、②取引価格の上昇、③効率性・敏捷性、といった圧倒的なメリットを有していることは不動産仲介における取引形態の実証研究や、横井さんの先行研究にて既に示されています。
世界に先駆けて、人口減少・少子高齢化・後継者不足社会に突入した日本経済にとって、そして今後同様の環境を確実に迎える世界経済において、このメリットの活用が必要不可欠であるため、「国家利益・顧客利益・業界利益のバランス」を共通ゴールとして、産・学・官の連携強化を通じた企業救済と経済全体に係る生産性向上を必ず実現させたいと考えています。
横井さん:何はともあれ、M&A仲介協会の会員を一社でも多く増やしていくことが必要です。現在、M&A仲介協会の会員数は20社で、これは約400あると推定されるブティックの5%に過ぎません。せっかく、しっかりとしたレベルの自主規制ルールを策定・運用していたとしても、わずか5%の会員が守っているだけでは業界の質・モラルの向上は実現しません。2024年1月の入会説明会にはすでに300社を超えるお申込みをいただいていますが、継続的に拡大・発展を続け、最終的には全体の7割はカバーして行きたいと思っています。
そのためには、今回の自主規制ルール策定の背景事情(自主規制機関の役割)や「M&A仲介協会加入企業=自主規制ルールを遵守している企業」であること対外発信し、信頼性を高めなければならないですし、会員にとってのベネフィットの整備も必要です。例えば、教育ベネフィットとして、M&A仲介協会が監修している「M&Aシニアエキスパート」の内容を刷新しさらに発展させる必要がありますし、自主規制機関特有の認証制度や、会員間の情報共有の仕組みなども検討していきたいと思っています。
プロフィール
横井 伸 M&A研究・産学官連携推進室長/法務部長/弁護士 神戸大学大学院経営学研究科 客員教授/博士(経営法)Ph.D. 東京大学経済学部卒業。2006年に司法試験合格、2007年弁護士登録。2010年日本M&Aセンターに入社。2023年に一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻博士課程修了。著書に「M&Aの視点からみた中小企業の株式・株主管理」(中央経済社,2023)、「買い手の視点からみた中小企業M&AマニュアルQ&A」(中央経済社,2019)などがある。
横山 逸郎 経営企画部 経営企画課チーフ 2009年日本銀行に入行後、調査統計局等にて物価統計作成やマクロ経済・景気動向分析におけるリサーチャー・エコノミスト、金融機構局にてファイナンスリスクコンサルティング業務(日銀考査員)に従事。2022年日本M&Aセンターに入社。