近年、米国教育において、子どもの算数の学力低下が深刻な課題となりつつある。米国では現在、中学3年生で算数・数学の学力水準が基礎学力に満たない子どもが約7割を占めているといわれている。さらに、コロナ禍の影響で、学校の授業を受けられなくなったことで、学力低下に拍車がかかっているという。こうした課題を解決するべく、日本式算数教育を取り入れたグローバル向け算数学習アプリ「Mathmaji(マスマジ)」を米国のホームスクールに展開しているのがMathmajiだ。今年9月にアプリを正式リリースし、その2ヵ月後の11月には、アジアの革新的で優れたEdTechサービスを表彰する「第4回AES GLOBAL AWARD」でGOLD賞(GOLD PRIZE)を受賞している。そこで今回、Mathmaji 取締役CFO&COOの大隅文貴氏に、「Mathmaji」の特徴やAWARD受賞の背景、今後の展望について聞いた。
「当社は、『誰もが、フラットに教育機会を得られる世界』をつくることをビジョンに掲げ、2021年8月に日本で創業した。生まれた地域や家庭、収入によって、子どもの将来の可能性が左右されるべきではないとの想いから、デジタルテクノロジーを駆使し、世界中の人々がどこにいても質の高い教育を受けられる社会の実現を目指して事業を立ち上げた」と、Mathmajiを起業した経緯を語る大隅氏。「この背景にあるのが米国の算数教育の実状だ。全米学力調査の結果によると、米国の中学3年生の73%が、算数・数学の学力水準が基礎学力に達していないというデータが出ている。また、そのうちの約4割は中間層・富裕層が占めており、収入とは関係なく算数の学力が低下していることが浮き彫りになった。さらにここ数年は、コロナ禍で学校の授業を受けられなくなったこともあり、学力低下が深刻な状況になっている」と、米国が抱えている算数教育の課題を指摘する。
「もう一つの動きとして、米国では親が家庭で義務教育を行うホームスクールが法律で認められており、コロナ禍をきっかけに学校の授業からホームスクールに切り替える家庭が急増した。しかし、ホームスクールで算数を教えることは、親にとってもハードルが高く、多くの親が子どもに適切な算数教育を提供するのに苦労している。特に米国では、日本のように系統的な学習カリキュラムがないため、親が自ら学習計画を作成し、教えていかなければならない。親自身が算数が苦手な家庭も多く、この点も学力低下の一因になっている」と、ホームスクールの増加も学力低下に拍車をかけているという。
「これに対して、日本の算数教育は世界的に優れており、学習指導要領に裏打ちされた系統的な学習カリキュラムが整備されている。例えば、1つの単元を学ぶために、事前に何をどういう順番で学べばよいのかが網羅的に紐づけられている。さらに、先生への指導書は、最小単位の授業にまで落とし込んであり、授業の目的や教えるプロセス、子どもへの発問などが具体的に記載されている。そこで、この日本式の算数教育を取り入れた学習アプリを開発し、ホームスクールに提供することで、米国の算数教育の課題解決に貢献できると考えた」と、日本式の算数学習アプリ「Mathmaji」を米国のホームスクール向けに展開する狙いを説明した。
「Mathmaji」は、日本の学習指導要領をベースにしながら、米国の学習指導に適合させた算数学習アプリとなっている。AIを活用した「継続的なパーソナライズ学習」を提供し、子どもが積極的に単元学習に取り組むことを促進する。また、理解したことを定着させるため、ゲーム感覚で学べるドリル学習を組み合わせ、子どもが楽しみながら繰り返し学習できるように工夫している。さらに「Mathmaji」では、指導書を反映させた、わかりやすい解説を用意している点も大きな特徴だ。これによって、子どもが一人で算数の学習を進めることができ、学校の授業ではできない先取り学習も可能となっている。この他に、単元ごとの理解度の表示や学習状況の可視化、学習スケジュールの自動作成といった保護者向けの機能も充実している。
同社では、「Mathmaji」のAndroid版を今年9月に正式リリース、12月からiOS版の提供を開始している。そして、11月には、アジアのEdTech企業の交流と協力のためのグローバルコミュニティ「AES(ASIA EDTECH SUMMIT)」が主催する「第4回AES GLOBAL AWARD」において、GOLD賞(GOLD PRIZE)を受賞した。このアワードは、アジアの革新的で優れたEdTechサービスを表彰するもので、これまでに、アマゾンジャパンの子ども向けサブスクリプションサービス「Amazon Kids+」や、ベネッセコーポレーションの英語パフォーマンステスト「Speaking Quest」など、多くの著名なサービスが受賞している。11月1日に「第20回(2023年度)eラーニングアワード」内で行われた表彰式には、大隅氏が出席し、GOLD賞の授与を受けた。
Android版の正式リリースからわずか2ヵ月後のアワード受賞となったが、この理由について、「アプリの正式リリースに先立ち、今年3月から5月にかけて米国でユーザーテストを実施したのだが、この結果、参加した子ども全員の算数の成績が向上し、九九も習得できた。また、7割の子どもが算数が好きになったと回答し、子どもの成績とやる気の両方に好影響をもたらすことが確認された。さらに、『Mathmaji』の継続利用を希望する家庭は92.3%に達していた。アプリ自体の革新性に加え、こうした高い学習効果が評価されたことも、今回の受賞につながったと感じている」との考えを示した。「現在は、米国でホームスクール人口が最大とされているテキサス州とカリフォルニア州にターゲットを絞り、それぞれ現地のホームスクール団体と協力してフォーカスグループを作って『Mathmaji』の導入を進めている。今後全米に展開していくうえで、今回のアワード受賞は、大きな追い風になると思っている」と、まずは順調なスタートを切ることができたと胸をなでおろしていた。
今後の展開について大隅氏は、「来年以降、『Mathmaji』のコンテンツや機能を順次拡充していく。特にコンテンツに関しては、現在小学3年生までを収録しているが、早期に小学6年生までカバーを広げていく。機能については、生成AIなどを活用することで、子どもの学習効果や学習体験をさらに向上する機能強化を検討している。そして、現在の無料版から機能を充実させた、月額・年額課金型の有料サービスを提供開始し、本格的なビジネス展開を推進していく」と力を込める。「将来的には、米国市場での実績を踏まえて、フィリピンやインドネシアなどアジア地域にも『Mathmaji』を展開し、世界のより多くの子どもたちの算数教育を支援していく。そして、いつの日か、子どもの頃に『Mathmaji』で算数を学んだという大統領が誕生することを願っている」と、世界展開を視野に入れた「Mathmaji」の将来展望を語ってくれた。
Mathmaji=https://www.mathmaji.com/