琳葉盆栽(りんはぼんさい)の主宰を務める岸本千絵さんは、現代のインテリアに合うように都心のベランダで育てられる盆栽を提案しています。現在では指導実績が10,000鉢以上となり、多くのメディアにも取り上げられています。スタイリッシュな盆栽を提案し続ける岸本さんに、盆栽の魅力や今後の展望について伺いました。
盆栽はペットと暮らすのと同じ感覚
現在は盆栽教室や盆栽ディスプレイアドバイザーとして活動をしておりますが、最初はただ部屋に盆栽を飾ってみたかっただけでした。盆栽を持っている家庭は少なく、「部屋にあるとかっこいいな」と思ったのがきっかけです。盆栽を初めて見た時、かわいいものがあったりかっこいい形があったりと、魅力的に感じたのが印象的です。
最初は観葉植物ですらうまく育てた経験もなかったので、盆栽を枯らしたこともありました。枯らしてしまったことがとても悲しく、うまく育てられるように盆栽教室に通いはじめました。植物を育てるのは、ペットを飼っているのと同じ感覚です。盆栽と毎日一緒にいますし、夏なら1日2回お水をあげないと枯れてしまいます。
ペットも赤ちゃんも、最初は何を欲しがっているかわからないこともありますが、植物も同様です。一緒に過ごす時間が増えると、「水を欲しがっている」「肥料が足りない」などの会話が徐々にできている気がしてきます。成長して綺麗になって、花が咲いたらうれしく感じます。
一方、盆栽には苦労するポイントもあります。植え替えやハサミで枝を切ったりすることがあるので、手がドロドロになります。また、盆栽は外で管理するので夏は暑く、冬は寒さが身にしみます。部屋の中で作業することもできますが、松の手入れなどで、手が松脂で真っ黒になることもあります。それでも盆栽が好きなので苦にはなりませんね。
現代のインテリアへ合うように盆栽を変化
盆栽は年数を重ねてより良くしていくことで美しくなります。葉もの盆栽の紅葉であったり、葉もの盆栽が好きなので、『琳葉(りんは)』と名づけました。実は、私が自分で付けた名称です。
一般的にイメージする盆栽と異なるのは、現代の家や床の間の無いマンションに合わせていることです。生徒さんは女性が多く、ベランダに大きな盆栽を置けない事情もあります。昔ながらの大きな鉢も素敵ですが、今のインテリアに合うように「部屋に飾って盆栽を楽しみたい」という声が多数あり、オリジナルで鉢をつくっています。
盆栽の樹だけでなく鉢にもこだわって、「この部屋にはこんな樹を飾りたいから、こういった鉢がこんな色で欲しい」と、窯元や作家さんに制作をお願いをしています。実は盆栽の“盆”は鉢のことも意味しているので、鉢はとても重要です。また、私が良いと思う鉢は生徒さんにも共感してくださることが多くて好評です。
盆栽は、年配の男性がやっているイメージがありますが、若い方、女性の方も楽しんでくれています。最近ではInstagramを見て来てくださる生徒さんも多く、現代のインテリアに合う盆栽も求められています。私は屏風なども含めて、「絶対これがかっこいい!」というものを、現代のインテリアに合うようにオーダーしてつくってもらっています。
世界に広がる盆栽の魅力
美しい盆栽をつくるために、鉢と樹のバランスにこだわっています。樹が小さく鉢が大きすぎたりすると、バランスが悪くなります。色合いも重要で、たとえばサルスベリのピンクの花にはトルコブルーの鉢が合うと考え、バランスを気にかけています。
日々、素敵な盆栽をつくる模索をしていて、伝統的な盆栽も学び続けています。薄い鉢に大きな樹が入っているのを見ると、バランスの重要性を感じます。色んな作品を見て、「この枝は切ってしまおう」とか、「この枝はこのままでいいか」とか試行錯誤しながらやっています。
私の取り組みは、ありがたいことに多くのメディアに取り上げていただいています。主にSNSで写真を見て問い合わせていただくため、子どもの写真をいっぱい撮るように盆栽の写真を撮り、自分のかわいい盆栽をInstagramに投稿しています。視覚的情報で共感いただくことが多く、DMからつながりが増えていくことは、とても嬉しいです。
一番うれしかったのは、イギリスのBBCが来てくれたことです。Instagramで見つけていただき、日本の庭園を巡る企画の一環で、狭い私の家に来て盆栽を見ていただき、苔玉をつくってくれました。他には、ウーバーイーツの黒柳徹子さんのCMで、盆栽制作の撮影に協力させていただきました。監督が琳葉盆栽を見つけてきてくれました。
盆栽には終わりがないので、死ぬ時に「いい盆栽をつくれた!」と思えるくらいずっとやっていきたいです。自分の盆栽で展示会を開催することも目標です。外国の方にも興味を持っていただけることが多く、言語の壁を越えて、気軽に盆栽を伝えていけたらと思います。