自営業者,年収,考え方
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澤田 朗
澤田 朗(さわだ・あきら)
日本相続士協会理事・相続士・AFP。1971年生まれ、東京都出身。日本相続士協会理事・相続士・AFP。相続対策のための生命保険コンサルティングや相続財産としての土地評価のための現況調査・測量等を通じて、クライアントの遺産分割対策・税対策等のアドバイスを専門家とチームを組んで行う。設計事務所勤務の経験を活かし土地評価のための図面作成も手掛ける。個人・法人顧客のコンサルティングを行うほか、セミナー講師・執筆等も行う実務家FPとして活動中。

会社員と同様に自営業者もさまざまな場面で「年収」を証明する書類の提出や記載を求められる。ただし会社員とは提出する書類や年収の考え方が違うことが多い。今回は自営業者の年収の考え方や計算方法、証明書類について解説する。

目次

  1. 自営業者の収入と支出の内訳
    1. 自営業者の収入
    2. 自営業者の支出
  2. 自営業者と会社員の年収の確認方法は?
    1. 会社員は源泉徴収票で確認できる
    2. 自営業者の年収は確定申告書で確認する
  3. 自営業者の「税込年収」「手取り年収」はどう計算する?
    1. 税込年収計算方法
    2. 手取り年収計算方法
  4. 自営業者の「年収」はこのような時に申告が必要
    1. 住宅ローン審査
    2. クレジットカード申し込み
  5. 自営業者の年収・税金は会社員とは異なるため情報収集はかかさずに

自営業者の収入と支出の内訳

会社員の多くは勤務先から受け取る給与所得で生計を立てているのが一般的だ。一方で自営業者は自身の事業活動から得る事業所得などの収入で生活をしている。また自営業者は会社員にはない仕入れや経費などさまざまな支出が必要だ。そこでまずは自営業者の収入と支出の内訳を説明していく。

自営業者の収入

自営業者の業種はさまざまだが、大きく3つに分けてみる

・営業職
卸売業・小売業・飲食店業・製造業・建設業・金融業・運輸業・修理業・サービス業など

・自由職業
医師・弁護士・作家・俳優・職業野球選手・外交員・大工など

・その他
漁業や農業等の事業、個人が土地・建物など不動産から得る収入など

これらの1年間の収入合計額が「売上金額」だ。自営業者の場合にはこの金額を「年商」と呼ぶ場合もある。

自営業者の支出

売上を得るためにはさまざまな仕入れや経費の支出が必要だ。業種によってはない場合もあるが、代表的なものは「売上原価」、商品の仕入金額や製品を製造するための原価などが当てはまる。経費は従業員を雇用したり外注業者に業務を委託したりしている場合には「給料」や「外注費」が必要だ。事務所・店舗・駐車場などを借りている場合は「地代家賃」が経費となる。

その他「減価償却費」「水道光熱費」「交通費」「通信費」「広告費」「接待交際費」「消耗品」などを合計して1年間の経費の額が決まるのだ。また自営業者は会社員とは違い税金や社会保険料を自身で納付する必要がある。所得税や住民税、国民健康保険料は確定申告を行うことによって決まる所得に応じて納付額が決まるのだ。国民年金保険料は年度ごとに定められた金額を納付する。

このように自営業者の場合には会社員にはかからない支出があるほか、税金や社会保険料を納付する手間も生じるのだ。

自営業者と会社員の年収の確認方法は?

自営業者と会社員では年収の確認の方法が異なる。ここでは自営業者と会社員の確認方法について見ていく。

会社員は源泉徴収票で確認できる

会社員の場合の年収は、年末ごろ勤務先から個人へ渡される「源泉徴収票」を確認すれば税込(額面)年収や手取り年収の目安が確認できる。税込年収は「支払金額」に記載されている金額で、この金額が一般的に「年収」と呼ばれている税込年収のことだ。税込年収は税金・社会保険料などがひかれる前の金額である。

そのため支払金額から源泉徴収票に記載の「社会保険料等の金額」と「源泉徴収税額」を引けば手取り年収が算出可能だ。この金額から1年間の住民税額を差し引けば「手取り年収」が把握できる。住民税は毎年翌年の5~6月ごろに勤務先から受け取る「住民税決定通知書」に記載の金額か、ある月の給与明細などに記載されている住民税額に12を掛ければ確認することができるだろう。

このように会社員の場合は源泉徴収票と住民税額を確認することで「税込年収」と「手取り年収」が把握できる。また税金・社会保険料などの支払いは勤務先を通じて行うため、原則として会社員本人が確定申告などの手続きを行う必要はない。

自営業者の年収は確定申告書で確認する

自営業者の「税込年収」と「手取り年収」は確定申告書をもとに確認する。前述した自営業者の「売上収入」を「税込年収」とする考え方もあるが、この収入はさまざまな支出や経費を引く前の金額だ。会社員の税込年収は「給与所得控除」を差し引く前の金額となるが、みなし経費の意味合いが強く実際にかかった経費よりも少ない場合もある。

そのため自営業者の場合、会社員の「税込年収」にあたる収入は、収入(売上金額)から事業活動に必要な支出・経費を引いた所得金額の合計で考えるのが一般的だ。実際にさまざまな手続きの際に必要な「年収」も所得を申告することが多い傾向である。売上がいくら多くても支出・経費も多ければ手元に残る金額も少なくなるため、売上金額は年収イコールではなく、あくまでも「年商」ととらえられている傾向だ。

所得から税金・社会保険料等を納付し手元に残った金額が「手取り年収」になる。

自営業者の「税込年収」「手取り年収」はどう計算する?

自営業者の「税込年収」「手取り年収」の計算方法の考え方を押さえておこう。こちらも基本的には毎年提出する確定申告書に記載の金額をもとに計算することができる。

税込年収計算方法

まずは1年間の売上である「売上(収入)金額」から「売上原価」を差し引く。売上原価には商品の仕入れ金額のほか、期首(1月1日)の商品・製品の棚卸高も含まれる。この金額から期末の棚卸高を引いた額が「差引原価」となり、この金額がいわゆる売上総利益(粗利益)だ。この売上総利益から事業活動にかかるさまざまな経費を差し引いた額が法人の決算書でいうところの「営業利益」になる。

なお自営業者本人と生計を一にする配偶者その他の親族がいて自営業者の事業に従事しているなど一定の要件を満たした場合には「専従者給与の控除」や「専従者控除」が認められることも。「営業利益」からこれらの金額を引いた額が「所得金額」だ。さらに青色申告者の場合には「青色申告特別控除」が認められ控除後の額が確定申告書の所得金額の欄に記載されることになる。

このように計算した金額が自営業者の「税込年収」だ。

手取り年収計算方法

税込年収(所得金額)から基礎控除や扶養控除をはじめ社会保険料控除や生命保険料控除、医療費控除などの金額が差し引かれ所得税算出のもととなる「課税される所得金額」が計算される。課税される所得金額に応じて5~45%の税率を乗じると所得税が算出可能だ。配当控除や源泉徴収されている場合は控除をし、その年の収入に対する最終的な所得税の「申告納税額」が決まる。

税込年収からこの所得税や住民税、社会保険料などを差し引けば「手取り年収」を計算することが可能だ。1年間に支払った社会保険料の額は確定申告書に記載された「社会保険料等控除」の額で例えば国民健康保険料や国民年金保険料が含まれる。また住民税については確定申告した年度の翌年5~6月ごろに郵送される住民税納税通知書で金額が確認可能だ。

このような手順で自営業の「税込年収」「手取り年収」を計算し確認することができる。

自営業者の「年収」はこのような時に申告が必要

自営業者の年収はどのような場面で申告する機会があるのだろうか。手取り年収は申告する必要はないが自身の実収入を把握するために確認しておきたい。しかし「税込年収」は主に「住宅ローン審査」「クレジットカード申し込み」などで申告が必要となる。

住宅ローン審査

住宅ローンの審査では主に借入希望者の収入をもとに融資額が決定される。収入を証明する書類として会社員の場合には源泉徴収票を提出し一般的には「支払金額」に記載の額、つまり額面の収入を年収としてみなし借入可能額や年間返済額を算出していく。言うまでもないが、みなし経費である「給与所得控除」を差し引く前の金額となる。

一方自営業者の場合には、収支内訳書や青色申告決算書の明細書を含む所得税の確定申告書類と納税証明書の提出が必要だ。金融機関によっては直近2~3年分の確定申告書類の提出を求められ会社員よりも収入を細かく審査される傾向にある。「住宅ローン審査でどの部分の金額を収入として見られるか」というと前述の自営業者の税込年収を計算する部分の「所得金額」だ。

つまり会社員は経費を差し引く前の金額で審査されるが、自営業者はさまざまな経費を差し引いた金額で審査されるケースが多い。同じく前述の計算では収入(売上金額)から「専従者給与」「専従者控除」「青色申告特別控除」を経費として差し引いた金額が「所得金額」となっている。このため実際の所得金額よりも低い金額で審査されるケースが多いのだ。

ただこれらの控除を経費としてみなさずに所得として計算をする金融機関もある。専従者給与は配偶者をはじめ生計を一にしている親族に支払っている給与だ。例えば配偶者の給与を専従者給与として経費にしている場合、これを所得としてみなしてもらえば配偶者を連帯債務者としたり収入合算して住宅ローン審査を依頼したりすることも検討できる。

青色申告特別控除は、複式簿記により記帳し貸借対照表と損益計算書を添付することで受けられるもので実際にはかかっていない経費である。このような控除について経費とみなさない金融機関もあるため、住宅ローンを検討している場合には申し込み前に複数の金融機関に相談してみることも重要だ。

クレジットカード申し込み

ショッピング枠のみを利用する場合には必要ないが、キャッシング枠の利用を希望する場合には収入を証明する書類として確定申告書・納税通知書などが必要だ。またカード会社によっては事業内容を確認する書類の提出を求められる場合がある。ここでも住宅ローン審査と同様に確定申告書の「所得金額」の額をもとに審査が行われることが多い。

自営業者の年収・税金は会社員とは異なるため情報収集はかかさずに

今回解説したように自営業者の年収の考え方は会社員とは大きく異なる。また自営業者の場合は税金・社会保険料などが会社員のように天引きされていないため払込方法も違う。特に税金・社会保険料などは、会社員の場合あらかじめ差し引かれた金額を給与として受け取るのに対して自営業者の場合には1年間の事業活動の成果によって後から決まる仕組みだ。

また経費を増やすことで所得金額も納税額も下がり手取り額も多くなるが、各種控除を活用することによって納税額を下げながら将来の自身のための所得を増やすこともできる。例えば小規模企業共済・個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛け金は「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除となるため、全額を所得金額から控除することが可能だ。

また生命保険には「新生命保険料控除」「介護医療保険料控除」「新個人年金保険料控除」の3つの控除があり、2012年1月1日以降に契約した保険についてはそれぞれ最高4万円の所得控除がある。まずは今回解説した方法で現在の手取り年収を確認し、今後の手取り年収を増やす方策を検討してみよう。

文・澤田朗(フィナンシャルプランナー・相続士)

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