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1 はじめに

税務当局において「譲渡所得の審理上の留意点」(Q&A)が作成されていますが、そのうち、「居住用財産の譲渡所得の特別控除(3,000万円控除)」「特定事業用資産の買換え特例」「相続財産に係る譲渡所得の課税の特例」の適用の可否などについて、以下で簡単に説明いたします。

2 居住用家屋に措置法35条、その敷地に措置法34条を適用することの可否

1)措置法35条の控除対象となる居住用財産の譲渡について

個人の有する資産が居住用財産を譲渡した場合に該当することとなったときは、その年中にその該当することとなった全部の資産の譲渡に対して3,000万円控除を適用することができます(措置法35➀)。
ここに、措置法35条の控除対象となる「居住用財産を譲渡した場合」とは、「居住の用に供している家屋…の譲渡」又は「居住用家屋とともにするその敷地の用に供されている土地…の譲渡」を言います(措法35➁一)。

2)措置法35条の3,000万円控除と措置法34条の2,000万円控除の適用関係

その年中に特定土地区画整理事業等のために譲渡した土地等の譲渡に対して2,000万円の控除を適用することができます(措置法34➀)。
そして、その適用の対象となる土地等から、措置法35条1項の3,000万円控除の適用を受ける部分は除外されています(措法34➀柱書かっこ書き)

3)具体例

《事例》

Xは、土地区画整理事業に伴って、居住用家屋及びその敷地を譲渡しました。なお、本件家屋に居住用以外の部分はなく、全てが居住の用に供されているとします。
本件家屋及び本件宅地が、措置法35条第1項の適用要件を満たしており、また、本件宅地が措置法34条1項の適用要件も満たしている場合、本件家屋について3,000万円控除、本件宅地について2,000万円控除を適用して譲渡所得を計算することができるでしょうか。

《結論》

本件家屋に3,000万円控除を適用する場合には、本件宅地に2,000万円を適用することはできません。

《理由》

本件家屋及び本件宅地は同時に譲渡されていることから、「居住用家屋とともにするその敷地の用に供されている土地…の譲渡」に該当します(措法35➁一)。
そして、本件家屋はその全てが居住の用に供されていることから、本件家屋及び本件宅地の全部が居住用財産を譲渡する場合に該当します。よって、この全部の資産の譲渡は措置法35条の3,000万円控除の適用対象となります。
そして、上記に説明したように、措置法35条の3,000万円の控除の適用を受ける部分については、措置法34条の適用範囲から除外されているため、本件宅地について措置法34条の2,000万円の控除を適用することはできません。

3 事業用資産の買換えの特例を適用する場合の買換資産の面積要件について

1)事業用資産の買換えの特例の概要

事業の用に供しているものを譲渡した場合で、その譲渡の日の属する年の12月31日までに買換資産を取得し、かつ、その取得の日から1年以内に、その取得をした資産を事業の用に供したとき、又は供する見込みであるときは、収入金額の100分の80に相当する金額を超える部分について譲渡があったものとされます(措置法37➀)。※1※2

※1:譲渡資産とは「国内にある土地等、建物又は構築物で、当該個人により取得されたこれらの資産のうちその譲渡の日の属する年の1月1日において所有期間が10年を超えるもの」を言います(措置法37➀表七)。
※2:買換資産は「国内にある土地等(事務所その他政令で定める施設(以下「特定施設(※3)」という)の敷地の用に供されるもの…で、その面積が300㎡以上に限る)、建物又は構築物」を言います(措置法37①表七)。
※3:特定施設とは、事務所、工場、作業場、研究所、営業所、店舗、倉庫、住宅その他これらに類する施設(福利厚生施設に該当するものを除く)(措置法37➀表七、措置令25⑬)を言います。

《300㎡の面積要件の判定》

上記300㎡の面積要件の判定ですが、買換資産が土地等である場合には、その取得した土地等毎に行います。というのも、取得した土地等毎に特定施設の敷地の用に供されているかどうかについて判定すべきだからです。
ただ、次のような例外があります。
➀隣接する複数の土地等をまとめて取得し、これらの土地等を一の特定施設の敷地の用に供する場合、②隣接する複数の土地等をまとめて取得し、これらの土地等がそれぞれ複数の特定施設の敷地の用に供されている場合で、これらの特定施設を一体として事業の用に供すると認められるときは、これらの土地等の合計面積をもって買換資産に係る土地等の面積要件を判定することが相当であるとされています。
(参考:国税庁HP質疑応答事例「特定資産の買換特例(第7号)において買換資産が複数の土地等である場合の面積要件の判定について」

2)具体例

《事例》

Xは、平成31年2月に、事業の用に供していた建物及びその敷地(各所有期間は10年超)を譲渡(以下「本件譲渡」とします)しました。その後、同年3月に、互いに隣接する甲土地、乙土地、丙土地を取得し、令和元年11月にこれらの土地の上に1棟の工場を建築して、その翌年5月から、これらを一体として事業の用に供しています。
この場合、Xは、本件譲渡について、措置法37条第1項の表の第7号に規定する特例を適用することができるでしょうか。

(買換え資産の概要)

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《結論》

Xは、本件特例を適用することができます。

《理由》

本件では、甲土地、乙土地、丙土地は、いずれも、単独では、本件特例の買換資産に係る土地等の面積要件である300㎡を満たしていません。
しかし、Xは、互いに隣接した甲土地ないし丙土地を取得し、これらの土地の上に1棟の工場を建築しこれらを一体として事業の用に供しているので、上記の例外要件にあるように、甲土地ないし丙土地の合計面積320㎡により、面積要件300㎡を判定することになります。
よって、本件では、面積要件300㎡を満たしており、本件特例を適用することができます。

4 相続開始時に売買契約中であった土地等に係る措置法39条の適用の可否(売主のケース)

1)措置法39条の特例の概要

措置法39条第1項は、相続又は遺贈(死因贈与を含みます)による財産の取得をした個人で当該相続又は遺贈につき相続税法の規定による相続税額があるものが、当該相続の開始があった日の翌日から当該相続に係る申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に当該相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産の譲渡をした場合に適用されます。

この場合の譲渡所得に係る所得税法第33条第3項に規定する取得費は、以下の算式のように、「当該取得費に相当する金額に当該相続税額のうち当該譲渡をした資産に対応する部分として計算した金額を加算」することとしています。

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※2:債務控除(相法13)適用前の金額

2)売買契約中の土地等(土地又は土地の上に存する権利を言います)及び建物等(建物及びその附属設備又は構造物を言い、土地等と併せて、以下、土地建物等と言います。)に係る相続税の課税について(売主のケース)

土地建物等の売買契約締結後、売主から買主への土地建物等の引渡日前に当該売主が死亡し、相続が開始した場合には、当該相続に係る相続税の課税上、当該売主たる被相続人の相続人その他の者が、当該売買契約に関し当該被相続人から相続又は遺贈により取得した財産は、当該売買契約に基づく相続開始時における残代金請求権となります。

3)売買契約中の売主に相続が開始し、その相続人が譲渡所得の申告をする場合の本件特例の適用について

相続開始時に売買契約中だった土地建物等について、売主が死亡し、相続が開始した場合、その相続人が譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期を当該土地等の引き渡しがあった日として譲渡所得の申告をするのであれば、当該相続人が当該土地建物等を譲渡したことになります。よって、この場合、本件特例を適用することができることとなります。
そして、譲渡所得の計算上、取得費に加算する相続税額の計算は、上記1)の算式を以下のように修正した算式によるものとします。

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※2:債務控除(相法13)適用前の全額

4)具体例

《事例》

平成30年12月20日に、売主Xと買主Yが甲土地に係る売買契約を締結しました。本契約の譲渡代金は3億円、引渡日は平成31年3月1日とし、Xは、本件契約締結日において手付金1億円をYから受領しました。
その後、平成31年2月1日に、Xが死亡し、Xの相続人は長女Zのみでした。
平成31年3月1日に、ZはYに甲土地を引き渡し、その際に、Zは残金2億円をYから受領しました。
令和元年9月1日、ZはXに係る相続税申告書を提出しました。その申告内容としては、相続財産が「甲土地に係る残代金請求権2億円及び現金1億円」、債務が「ゼロ円」、相続税額は「4860万円」でした。

甲土地の譲渡について、Zが譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期を引渡日(平成31年3月1日)として譲渡所得を申告する場合、措置法39条の特例の適用ができるでしょうか。また、本件特例の適用ができる場合、Zの譲渡所得の計算上、取得費に加算する相続税額はいくらになるでしょうか。

《結論》

Zには本件特例を適用することができます。また、Zの譲渡所得の計算上、取得費に加算する相続税額は3,465万円となります。

《理由》

本件において、Xは、甲土地に係る売買契約締結後、Yに甲土地を引き渡す前に死亡しています。その後、Zが甲土地について譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期を引渡日として譲渡所得を申告する場合、本件特例の適用が可能となります。
また、この場合、Zの譲渡所得の計算上、取得費に加算する相続税額の計算をすると、下記の通り3,645万円となります。

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※1:Zに係る甲土地の譲渡収入金額
※2:ZのXの相続税に係る課税価格(債務控除適用前の金額)
※3:甲土地に係る残代金請求権の価額

5 相続開始時に売買契約中であった土地等に係る措置法39条の適用の可否(買主のケース)

1)売買契約中の土地等(土地又は土地の上に存する権利を言います)及び建物等(建物その附属設備又は構築物をいい、土地等と併せて、以下「土地建物等」と言います)に係る相続税の課税について(買主のケース)

土地建物等の売買契約締結後の当該土地建物等の売主から買主への引渡日前に当該買主が死亡し相続が開始した場合、当該相続に係る相続税の課税上、当該買主たる被相続人の相続人その他の者が、当該売買契約に関して当該被相続人から相続又は遺贈により取得した財産は、その売買契約に係る土地建物等の引渡請求権等とし、その財産取得者の負担すべき債務は、相続開始時における未払金となります。

ただし、当該土地建物等を相続財産とする申告があったときには、これを認め、当該土地建物等の価額は、財産評価基本通達により評価した価額とし、当該土地等について、措置法69条の4第1項(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)の適用がある場合には、これを適用して差し支えないとされています。

2)売買契約中の買主に相続が開始し、その相続人が譲渡所得の申告をする場合の本件特例の適用について

相続開始時に売買契約中だった土地建物等について、買主が死亡し、買主の相続人が当該売買契約に係る資産を転売したときは、当該相続人が相続により取得した資産を譲渡したことになることから、本件特例を適用することができます。

この場合の譲渡所得の計算上、取得費に加算する相続税額の計算方法は、上記4(3)の算式により計算します。

3)具体例

《事例》

平成30年12月1日に、売主Xと買主Yが乙土地に係る売買契約を締結しました。本契約の譲渡代金は3億円、引渡日は令和元年5月1日とし、Xは、本件契約締結日において手付金1億円をYから受領しました。
その後、平成31年2月10日に、Yが死亡し、Xの相続人は長男Zのみでした。
平成31年3月1日に、XはZに甲土地を引き渡し、その際に、Xは残金2億円をZから受領しました。
令和元年9月1日、ZはYに係る相続税申告書を提出しました。その申告内容としては、相続財産が「乙土地に係る引渡請求権3億円及び現金4億円」、債務が「乙土地に係る残代金支払い債務2億円及び借入金1億円」、相続税額は「1億4,000万円」でした。

Zには措置法39条の特例の適用ができるでしょうか。また、本件特例の適用ができる場合、Zの譲渡所得の計算上、取得費に加算する相続税額はいくらになるでしょうか。

《結論》

Zには本件特例を適用することができます。また、Zの譲渡所得の計算上、取得費に加算する相続税額は5,999万円となります。

《理由》

本件において、Yは、乙土地に係る売買契約締結後、Xから乙土地の引き渡しを受ける前に死亡しています。その後、Yの長男であるZが相続により乙土地を取得し、その後、乙土地を転売していることから、本件特例を適用することができます。

この場合、Zは、当該相続により取得した資産を乙土地の残代金請求権額3億円として申告していますので、譲渡所得の計算上、取得費に加算する相続税額は、算式に当てはめると以下のように5,999万円となります。

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※1:乙土地の引渡請求権の価額
※2:ZのYの相続税に係る課税価格(債務控除適用前の金額)

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