最近はネット環境が充実しているのでパソコンさえあれば場所を選ぶことなく誰でも事業を始められるようになった。しかし、事業を始めたあとに税務調査等で大慌て、という落とし穴にはまらないように、事業に必要なパソコンやソフトウェア、備品などの減価償却資産を購入した場合の会計処理や税務処理について、その概要を事前に抑えておくことがとても重要である。
目次
資産の種類は2種類!「減価償却資産」と「それ以外の資産」
事業などの業務のために用いられる「資産」は、時の経過によって価値が減少する資産と、時の経過によって価値が減少することがない資産に分けることができる。価値が減少することを「減価」という。
前者の資産は「減価償却資産」といわれ、ある程度長期間使用することを前提とした建物、建物附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具などの資産がこれに該当する。一方、時間の経過によって価値が減少しない資産には、土地や美術品などがこれに該当する。
減価償却資産の価値を減少させる?「耐用年数」と「減価償却」がキーワード
業務用として購入した資産は、原則として経費として認められるが、取得時に全額経費として認められるわけではない。資産の経費を計上するには「減価償却」という計算や手続きが必要となる。資産の種類や購入金額、計上方法によって経費として計上する金額は異なる。
その際に考慮しなければならないのが、「耐用年数」だ。時の経過によって「減価償却資産」の価値がどのように減少するかという鍵を握るのが「減価償却」と「耐用年数」という2つのキーワードである。
「減価償却」とは?
「減価償却資産」が事業に有効利用されるのは初年度だけではない。2年目以降も有効利用されるため、
その資産が有効に利用できる期間の全期間にわたり、分割して必要経費として計上するための計算手続が「減価償却」である。
例えば、自動車という「減価償却資産」を100万円で購入した時に、「耐用年数」が5年だったら、その5年間は毎年20万円ずつ「減価償却」が行われて、「減価償却資産」の価値が減少していく、ということである。つまり、「減価償却資産」は、「耐用年数」を利用し、「減価償却」という方法によって必要経費として計上されていくことになる。
「耐用年数」とは?
「減価償却資産」本来の目的による利用を前提とした場合に、その資産を有効に使うことができる年数のことをいう。例えば、自動車という「減価償却資産」を取得した場合に、本来の利用方法で5年くらいは利用することが見込まれるのであれば、その資産の「耐用年数」は5年ということになる。
「耐用年数」は自由に決められる?
「減価償却資産」にはそれぞれ法令で定められた「耐用年数」があり、これを利用して「減価償却」を経費として計上する。この定められた「耐用年数」のことを「法定耐用年数」ともいう。上場会社や上場を目指す必要のない会社のほとんどはこの「法定耐用年数」に応じた「減価償却」を行う。
しかし、耐用年数を納税者が自由に設定することもできる。その際には設定した耐用年数が妥当である説明をしなければならない。もし、その説明が認められない場合は、法定耐用年数により計上することとなる。
「減価償却」の2つの方法 「定額法」と「低率法」
「減価償却資産」の価値の減少手続きである「減価償却」には「定額法」と「低率法」の2つの方法がある。ちなみに、「減価償却」により費用計上される金額を「減価償却費」というのであわせて押さえておきたい。
「定額法」とは?
「減価償却資産」を「耐用年数」に均等に減額させる方法である。100万円の自動車の耐用年数が5年である場合には、「減価償却費」は20万円(100万円÷5年)となる。
計算方法:取得価額×定額法の償却率(※)
※定額法の償却率は1÷耐用年数となるので、耐用年数が5年の場合は1÷5で「0.2」となる。
そのため、100万円を耐用年数の5年で除した場合と同じ結果となる。
「低率法」とは?
減価償却の額は減価償却資産を取得した初年度ほど多く、年とともに減少する方法である。ただし、定率法の償却率により計算した償却額が「償却保証額」に満たなくなった年度以後は、毎年同額となる。
計算方法:未償却残高×定率法の償却率(以下「調整前償却額」という。)
※上記の金額が償却保証額に満たなくなった年分以後は次の算式による。
改定取得価額×改定償却率
例えば、100万円の「減価償却資産」があって定率法の償却率が0.4の場合、初年度の「減価償却費」は40万円(100万円×0.4)となる。2年目は、100万円から初年度の償却額40万円を引いた残額の60万円に0.4をかけてもとめた24万円が「減価償却費」となる。
「減価償却」の方法はどのように決める?納税者が選択できる!
「定額法」「定率法」のどちらを選択するかは納税者の選択次第となる。「定額法」よりも「定率法」のほうが、「減価償却資産」を事業に利用した時点から早めに多くの必要経費を計上できる性質がある。商売がうまくいっており、必要経費を早めに多く計上したい、という事業者は「定率法」を選択することで、利益が圧縮され節税メリットがある。
一方、外部からの借入もあり赤字にしたくないという事業者にとっては、「定額法」を選択しておくことで、「減価償却費」が一定額になり、費用計上額を安定させるメリットがある。しかし、事業年度の途中から計上方法を変更できないため、事前に税の専門家と償却方法の選択について打ち合わせをしておく必要がある。
「減価償却資産」にも例外が!全額が必要経費になる場合あり
減価償却資産でも、初年度に消費して2年目には本来の用途として有効に利用できない資産や購入価額が10万円未満の資産は全額経費として計上する。その場合、資産としてではなく、「消耗品」としての計上となる。
また、10万円以上20万円未満で取得した減価償却資産は、取得価額の3分の1に相当の金額を、3年にわたり経費として計上できる。一般的な減価償却資産の耐用年数は3年以上で設定されているものが多い。それを3年で償却してしまえば、早めに多く費用として計上し節税につながる。
さらに、個人事業主や中小企業者といった青色申告者が2006年4月1日から2020年3月31日までに取得した取得価額10万円以上30万円未満の減価償却資産が複数ある場合は、その合計額が300万円までは業務に利用した年度の会計に経費として全額計上することができる。
価値は減少しないが「減価償却資産」になるものは?
実は、1点100万未満の美術品は、「減価償却資産」として必要経費に算入できる場合がある。
美術品は減価償却資産ではないとされているが、取得価額が1点100万円未満である美術品等は「減価償却資産」として扱われる。また、取得価額が1点100万円以上の美術品等でも、一定の条件を満たせば減価償却資産として計上可能である。その条件は以下の通り。
・不特定多数の者が集まる施設のホールのような場所を飾るためのもの(有料で公開するものを除く。)
・固定されているためにほかの場所へ移設することが難しく、設置されている場所でしか用をなさないものであることが明白であること。
・ほかの場所や違う目的として使用する場合、美術品としての市場価値がなくなってしまうもの。
私見ではあるが、100万円を超える美術品であるが、そのロケーションにしか意味がなく、物理的に転用ができない固定式の彫刻などはこの類に含まれるのではないかと推測される。いずれにせよ、その場合は個別実態を考慮して判断することとなるため適用には注意が必要である。
前項の例外を組み合わせると、30万円未満の美術品を購入した場合、取得した事業年度の経費に算入できるケースがあるということだ。現代アートなどに興味がある方々には注目の制度ではないだろうか。
パソコンを購入した場合の減価償却方法はどうなる?
さて、冒頭のパソコン購入をした場合の会計税務の処理について、パソコンの値段を変えて以下考えてみたい。
ケース1. パソコンの購入価額が税込9万9,000円のケース
スペックを必要最小限にした場合には、仕事利用とすることができるギリギリの値段ともいえる。回答としては、10万円に満たない値段であるため、全額を必要経費として計上することが可能である、ということになる。
ケース2. パソコンの購入価額が税込19万9,000円のケース
通常の仕事には十分な処理スピードをもつ比較的高度なスペックの機種がこの価格帯になると思われる。回答としては、10万円を超えるため原則として全額必要経費にすることはできないが、青色申告者で一定の条件を満たす事業者であれば、30万円未満の資産は事業に利用した年度の必要経費として全額計上することができる、といえる。
ただし、30万円未満の資産を複数購入している場合には、総額の上限である300万円を超えていないかに気をつける必要がある。仮に、総額300万円を超えている場合は、全額必要経費にすることはできないが、20万未満であるから今後3年間で3分の1ずつ(6万6,333円)必要経費に計上する特例を利用することになる。
ケース3. パソコンの購入価額が税込29万9,000円のケース
高度なスペックをもつ機種の価格帯で、映像グラフィックや動画編集を行う場合には必要であろう。PCゲームを利用するゲーマーもこの程度のスペックが必要かもしれない。回答としては、10万円を超えるため全額必要経費にすることはできないが、青色申告者で一定の条件を満たす事業者であれば、30万円未満のため事業に利用した年度の必要経費として全額計上することができる、といえる。
ただし、同じように30万円未満の資産を複数購入している場合には、総額300万円を超えていないかどうか気を付ける必要がある。超えていた場合には、パソコンの「耐用年数」を利用し、「減価償却資産」として「減価償却」を行うことになる。
身近なパソコン1つとっても、会計税務で考えるポイントがいくつもある。資産を購入する際にはスペックと支払額に注目しがちだが、「減価償却」はどうなるのかを少し考えてみてはいかがだろうか。
文・風間啓哉(公認会計士・税理士)