税務調査には、強制的な調査と任意のものの2種類があります。
強制調査は、裁判所の令状に基づき悪質な場合に行われます。
一方、通常の調査は任意で行われ、このような令状に基づく強制的なものではありません。
しかしたとえ任意でも、調査が行われるとなれば、あらかじめ調査について知っておけば心構えができます。
対象にされやすい場合の特徴、調査の流れと対応のポイントについてご紹介します。
こんな特徴があると税務調査の対象にされやすい
税務調査は、納税者が正しく税務申告しているかを確認するために、税務署などの調査官が行います。
毎年法人の約6%が対象となっていますが、対象にされやすい特徴があるのです。
税務調査では、国税庁の下部組織である税務署などが、申告内容を実際の帳簿や証拠書類などで確認し、誤りや不正がないかを調査します。
脱税や所得隠しの疑い
税務調査を受けやすい会社の特徴として、利益が急増したケース、一般的とは言えない多額の経費が計上されているケース、消費税の還付を受けたケースなど、収支に大きな変動があった場合に多いと言われます。
一方で、事業所得が赤字の状態が続いている、消費税の課税事業者となる1,000万円の所得をギリギリ超えない状態が続いているなど、脱税や所得隠しが疑われるような場合も、調査の対象にされやすいと言えます。
▼何年間も事業所得が赤字
事業で赤字が発生しても、正当に事業を営んだ結果であれば、数年続いたとしても問題にはなりません。
総合課税として、他の所得から差し引くことも正当な税務処理の方法です。
しかし、一般的に赤字の事業を数年間も継続できることが多いとは言えません。
このような場合、事業の実態があるかどうかが疑問視されます。
これを確認する目的で政務調査の対象とされることがあります。
実際に、給与に課される所得税について、不正な還付を受けるために実態がない事業で私的な経費を計上しているようなケースが調査で摘発されています。
また、数年間にわたって事業が赤字であり、かつ給与や年金など他の所得がない状態であれば、生活費の出所が疑問視されます。
退職金や貯金などを切り崩して生活している場合もあるでしょう。
しかし生活費の出所が想定されず、所得隠しによる脱税が疑われる場合、調査の対象とされることがあります。
▼1,000万円ギリギリの売上が続く
消費税の課税対象となる売上は1,000万円です。
この額を超えると、2年後は消費税の納税義務者となり、消費税を納めなければなりません。
逆に言えば、毎年、消費税が免税となるギリギリの売上を申告している場合、消費税が課税されない範囲に収まるように、故意に所得を隠している疑いを持たれます。
また、売上の計上時期に間違いがあれば、その年の売上が1,000万円以上となって、消費税の課税対象事業者となることも考えられます。
このような場合は、消費税の課税対象事業者であるかどうか、不正の有無や適正な経理が行われているかどうか確認するため、調査の対象にされやすいと言えます。
経費や控除の水増しの疑いがある
所得そのものを少なく装う所得隠しに対し、>経費や控除を水増しして所得隠しを行うケースも摘発されています。
具体例を紹介しましょう。
▼同業種に比べ費用の内容や構成割合が極端に異なる
同じ業種同士を比べると、経費の内容や構成割合が似通っていることが一般的です。
しかし、新たな固定資産を導入したり、事業の幅を広げたりするなど、正当な経営活動が理由で異なることもあります。
同じ業種の事業所同士を比較して、極端な違いがあるような場合は、その理由を確認するため調査の対象にされやすいと言えます。
▼医療費と所得の整合性が矛盾する
医療費控除を受けるためには、10万円以上となる医療費の合計と内訳を整理して、控除を申請します。
一般的に、医療費が多ければ多いほど、働く時間や減ったり質が落ちたりして所得が減少することが考えられます。
そのため、事業主の医療費が多く、なおかつ事業所得も大きい場合は整合性が疑われるでしょう。
医療費の対象とならない人間ドックの費用や歯科矯正、入院時の差額ベッド代などが含まれていることが考えられるようなケースでは、税務調査の対象にされやすいと言えます。
経過年数や納税への協力度合い
収入や所得の隠ぺい、経費や控除の水増しのほかにも、記帳内容の誤りや不正、税務行政への非協力などの様子が見られれば、調査の対象にされやすいと言えます。
▼事業が軌道に乗り始める3年目
一般的に、起業したてのころは利益も少なく、調査の対象となる可能性は少ないと言えます。
それが事業開始から3年程度たつと、収入や経費が増えるとともに記帳処理のボリュームも増え、取引の内容も複雑化していくことが多いでしょう。
忙しさで適正な処理が間に合わない、複雑な経理処理が適正にできていないなどの状態が生じる傾向があります。
故意ではないにしても、適正な経理や税務処理ができているかどうか、確認される対象になりやすい時期と言えます。
▼税務署からの照会に回答しない
税務署からは、郵便などで税金に関する照会をされることがあります。
その内容は税務調査の連絡、連絡先や還付先口座の照会、納税の確認、書類の不備など様々です。
これらは何気ないシンプルな照会に見えても、税務処理の一環として行われているものです。
単純な回答で済むものも多くありますが、このような照会に回答しない場合や、その意味がよく分からないまま放っておいたような場合、不正などが疑われる可能性もあります。
税務調査の流れとチェックされるポイント
通常の税務調査が任意調査であるとは言っても、調査官の職務権限によって行われるため、きちんとした対応が求められます。
どの事業者でも調査の対象となる可能性がありますから、調査の流れと税務署がチェックするポイントを確認しておくと安心です。
調査の流れ
任意調査は抜き打ちで行われるわけではなく、事前に電話や郵送で調査の連絡が来ます。
不正を犯しているわけでなければ、恐れる必要はありません。
税務署からの連絡にきちんと対応することが重要です。
質問に対しては、丁寧に、また誤りがないように内容を説明します。
黙秘や虚偽の申告をすると、罰則が科される可能性もあるからです。
調査日程は、事前に税務署と調整します。
期間は1日~2日程度で、午前中から事務所で調査が始まることが一般的です。
挨拶が終わると、法人では代表者である社長、個人事業主では事業主から、事業の概要を説明するよう要求されます。
その後は、申告した内容を確認するため帳簿類のチェックや領収書と帳簿の突き合わせ、経理仕訳のチェックなどが行われます。
税務署から指摘事項がある場合は、調査の最後に社長や事業主に伝えられます。
社長や事業主が指摘事項に納得すれば、追徴される税額の納付書が手渡されます。
追徴税額がある場合はこれを納付すれば完了です。
チェックされるポイント
資料の不備や経理仕分けの妥当性、前年度からの繰り越しや次年度への繰り越し、減価償却費の経理処理など、適正な経理が行われているかが大きなチェックポイントです。
調査はこのように、確定申告の内容が正しいか確認するために行われます。
しかし、もうひとつの目的もあります。
それは、申告の間違いを見つけ納税額を増やすということです。
そのため、申告されているもの以外の売上がないか、申告された経費のうち経費に該当しないものがないかといった点も、大きなチェックポイントとなります。
売上が増えても経費が減っても、納税額が増えることになるからです。
調査への対応のポイント
税務調査が入ることが決まったら、日程の調整や場所の設定などを行います。
特に、記帳や経理の仕分けなどが適正かをチェックするために必要な帳簿や領収書など、申告の証拠書類を準備しておく必要があります。
日程の調整
事前に電話や郵送で、調査日程について連絡が来ます。
日程調整には応じてくれることが一般的です。
必要以上に遠慮せず、都合の良い日を調整しましょう。
場所の設定
調査の方法は、原則として事業所での現地調査を求められます。
普段の事業所の状況を確認することも、調査の一環です。
事業の実態があるかないかについては、固定資産や経費の有無など事業所を確認するだけで明らかになることもあります。
一般的に、経理を依頼している税理士事務所や税務署での説明など、事業所以外での調査は受け入れられる可能性が低いです。
資料の準備
青色申告か白色申告かによって準備する資料は異なりますが、備え付けるべき帳簿類が定められています。
まずは、備え付けるべき書類をそろえておいてください。
会計ソフトなどを利用しパソコンだけで管理している場合は、あらかじめ印刷しておきます。
また、帳簿や領収書などの資料が膨大な場合、税務署に持ち帰って調べるケースもあり、この場合は資料の貸し出しを依頼されます。
貸し出している間に困らないように、コピーを持ち帰ってもらうという方法もあります。
経理を依頼している税理士などへの立会依頼も可能
経理や申告書類を税理士に任せている場合、一人で税務調査に対応することに不安を持つ方もいるかもしれません。
調査には、税理士などの同席も可能です。
どうしても税理士などに同席を依頼したい場合は、依頼したい相手に相談すると良いでしょう。
しかし、実際の調査では通常、専門的な知識がない事業者などに対しても、分かりやすく丁寧に説明してくれるはずです。
当日の接待は不要
税務調査を担当する調査官は、利害関係者からの接待や便宜供与について、厳格な規制を受けています。
茶菓や食事などを事前に準備する必要はありません。
調査で指摘を受けないためのポイント
調査で指摘されないためには、当然ながら適正な経理と申告を行っていることが一番です。
しかしプロの税理士ではない事業者は、税務のすべてを知っているわけではありません。
一般的に指摘されやすい事項や、気をつけたいポイントについて知っておきましょう。
調査で指摘されやすい事項
経費に含めることができない費用を、経費として計上している場合に指摘されるケースが目立ちます。
中でも、外注費の実態について指摘されることが多いです。
外注の実態がない、架空の外注費を計上している、給与とすべき費用を外注費として計上しているなどが指摘されやすい事項として挙げられます。
また、社長や事業主の個人的な支出を事業の経費に充てるケース、交通系プリペイドカードで買い物をして交通費として処理しているケースなども指摘されやすい事項と言えます。
また、売上に対応する仕入経費と売上の時期のずれの問題もあります。
例えば、前年に経費として処理した仕入品を今年売り上げた場合、経費は売上と同じ年に計上しなければならないため、指摘されることがあります。
悪質なものとしては、領収書の偽造や事実のない取引の記帳などが挙げられます。
悪質な場合は会社名が公表され、最悪のときは逮捕されるケースもあります。
そうなれば追徴課税だけではなく、社会的な信用を失うなどの制裁が伴うでしょう。
指摘を受けないために気を付けるべきポイント
適正な経理処理を心がけていても、誤りやミスが発生することもあります。
日頃気を付けておきたいポイントや、調査前に気を付けるべきポイントについてご紹介します。
▼日常的に気を付けたいポイント
もちろん、適切な経理処理や節税を心がけることが一番大切です。
その反面、過度な節税意識は場合によって不正な経理処理につながることも多いので、不正や脱税とならないように適度な節税を意識しましょう。
日々の取引については、取引を証明する見積書や請求書、領収書など関連する資料を保存しておく習慣をつけることが重要です。
また、帳簿はこまめに記帳しておくことをおすすめします。
あとからまとめて整理する場合は、記憶が曖昧な部分が増えてしまうでしょう。
調査では、多少でも曖昧なことがあれば深く追及され、あらぬ疑いをもたれてしまうことも起こり得ます。
複式簿記で記帳する場合、帳簿間の整合の確認など必要なチェックを怠ると、ミスが発生しやすくなります。
手書きの帳簿に慣れていない場合は、会計ソフトを利用することで自動的なチェック機能が働き、ミスを防ぐことができます。
▼調査前に気を付けるべきポイント
税務調査が入ることになったら、過去の申告書を見直しましょう。
見直しているうちに、誤りに気付くことも案外多いものです。
謝りに気付いた場合は、調査を待たず修正申告します。
申告に誤りがあって過少申告となってしまった場合、自ら誤りを修正して申告すれば、税務署の指摘によって修正するよりも罰則が軽く済みます。
まとめ
税務調査が入ることが決まったら、日程調整や資料の準備をします。
それとともに、過去の申告書をチェックしましょう。
調査でチェックされるポイントや指摘されやすい事項を念頭に確認すれば、自信をもって調査に臨むことができるか、あるいは修正申告が必要になるか、かなり判断がつくようになります。
なお調査で指摘を受けた際は、依頼している税理士などがいる場合、指摘事項に納得できるかどうかについて、税理士などに相談した後で回答することも可能です。
税務調査は、どの事業者でも対象となる可能性があります。
適正な処理を心がけていてもミスは起こり得ます。
意図的に不正な処理や脱税をしていない限り、過大に心配するには及びません。
適正な処理を心がけることが大切です。(提供:ベンチャーサポート税理士法人)