矢野経済研究所
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2023年8月
フードサイエンスユニット
主席研究員 中川 純一

化学肥料原料は、肥料原料の国際価格に大きく影響を受ける

日本は、主な化学肥料の原料である尿素、リン安(リン酸アンモニウム)、塩化加里(塩化カリウム)のほぼ全量を輸入に依存している。農林水産省によると、2022年度で尿素は輸入量の8割以上をマレーシアと中国に、リン安は7割を中国に、塩化カリウムは8割をカナダに依存している。
世界的な人口増加や経済発展に伴う食糧需要の高まりに加え、コロナ禍における物流の混乱や、2021年10月から中国が尿素の輸出規制を始めたため、需給の逼迫度合いが高まっている。さらにロシアのウクライナ侵攻が起き、肥料原料や原油の有数の輸出国であるロシアやベラルーシからの輸入規制が世界的に広がり、肥料原料の需給はより逼迫しており、化学肥料原料の国際価格が高騰しており、国内の肥料原料の調達が不安定化している。
国内における化学肥料は、製造コストの約6割を原材料費が占めており、原料の多くを輸入に頼っていることから、肥料価格は、化学肥料原料の国際価格や運送費の影響を大きく受ける構造となっている。
農林水産省が2023年6月30日発表した「農業物価指数」によると、2020年を100とした指数で、肥料価格は2023年5月時点で1年前(2022年5月)に比べ38.2%上昇し155.2となった。生産者の使用量が多い高度化成肥料(N15%、P15%、K15%)では、1年前(2022年5月)に比べ55.1%上昇し170.6と高騰している。
こうした中、農林水産省では化学肥料の使用量を2割以上低減する取組みを2つ以上行う生産者に対して、2022年6月~2023年5月に購入した肥料を対象に、肥料コスト上昇分の7割を補填する肥料高騰対策を講じている。

化学肥料原料の国際価格の影響を受けづらい国内資源肥料原料の構築を目指す

生産者に対して、肥料価格上昇分の助成以外にも、農林水産省では、肥料原料の国際価格の影響を受けづらい生産体制づくりに向けて、2022年度第2次補正予算の中で、畜産由来堆肥や下水汚泥など肥料成分を含有する国内資源原料の利用を拡大し、輸入依存した肥料原料からの転換を進めている。
また、下水道施設を管轄している国土交通省も下水汚泥の肥料利用に今を好機と受け止めている。2015年の下水道法改正で下水汚泥を肥料などとして再利用することが自治体の努力義務となったが、国内で発生する約230万tの下水汚泥の内、肥料に活用されているのは1割程度となっている。下水汚泥は、リンや窒素等の資源を有しており、特にリンについては、年間汚泥発生量の約230万tの内、約5万tを含有するなど、肥料利用のポテンシャルを大きく秘めている。国土交通省では、今後肥料の国産化と肥料価格の抑制につなげるべく、農林水産省と緊密に連携し、下水汚泥の肥料利用を大幅に拡大させる方向である。

国内資源肥料が普及拡大するためには、利用者・排出事業者の「相互理解」が不可欠

農業生産に欠かせない肥料原料の大半を少数の国に依存する状況は、食糧安全保障上もリスクであり、調達先の多元化や、国内資源の家畜ふん尿や下水汚泥などの国内資源の活用が重要である。さらに、国際的に環境負荷低減の取組みが必要になっており、農林水産省でも「みどりの食料システム戦略」を推進しており、この中で化学肥料の低減や堆肥を利用した土作り等の持続的な調達等を進めている。
こうした中、農林水産省では国内肥料資源の利用の拡大を図るため、原料供給事業者(畜産事業者、下水事業者等)、肥料製造事業者、耕種農家(JA等)の関係者が一堂に会し、関係者が連携した取組を推進するため、全国推進協議会を2023年2月に設立した。推進協議会の発足で、国内資源肥料の利用拡大を後押しし、全国で事業者が連携した取組みを創り出したい方向にある。

国内資源肥料の普及を推進するためには、まずは排出事業者(下水処理場、食品工場、産業廃棄物処理事業者等)と利用者(肥料メーカー、JA、生産者等)が連携し、具体的な品質基準を持って、排出事業者と利用者が協議し、相互理解することが重要である。
特に、下水汚泥や地域資源(家畜ふん、鶏糞、食品残渣等)の事情に詳しい自治体の積極的な関与は必要不可欠である。まずは、自治体の下水道課と農政課(農業試験場)が連携し、地域の残渣肥料の特性や、利用するための品質基準をお互いに話し合うことが、国内資源肥料の普及拡大の第一歩である。