相続税,いくらかかる,節税
(写真=ベンチャーサポート法律事務所編集部)

近親者が亡くなって相続が開始された場合、亡くなった方(被相続人)が有していた財産の額によっては、相続人に相続税がかってくることがなります。

本稿では、そのような相続税の計算方法の基本を確認し、具体的な事案において相続税がいくらくらいかかるのかについて基本的な考え方を理解していただくとともに、相続税の軽減となる各種の控除制度や特例について、どのような制度があるかを確認しておきたいと思います。

1. 相続税とは

1-1. 相続税とは何か

相続税とは、人が亡くなって、その被相続人が有していた財産が相続人に承継される場合に、相続人に対して、相続した財産の額に応じて課せられる税金を言います。

1-2. 相続税が課せられる場合

相続税は相続が開始された全ての場合にかかるわけではあありません。

相続人に相続される財産の額が、基礎控除額を超える場合に限って課せられることになります。

1-3. 相続税の税率

相続財産の額が基礎控除額を上回った場合、その相続税の税率は一律ではありません。

相続税の税率は超累進課税制度を採用しており、相続財産の額が多ければ多いほど、相続税の税率も高くなっていき、それだけ負担がかかることになります。

1-4. 節税の基本的な考え方

このように、相続税は、相続財産が基礎控除額を超える場合に課され、かつ、その税率も相続財産の額が大きいほど高くなるため、相続税対策としては、相続財産の額(評価額)を可能な限り最小化することが好ましいということになります。

2. 相続税の計算方法

ここでは、相続税がいくらくらいかかるのかを把握できるようにするために、相続税計算の基本を確認しておきましょう。

2-1. 基礎控除

相続税がかかるか否かの基準となる基礎控除額は、以下の算式で計算されます。

基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)

たとえば、父親が亡くなって、相続人が配偶者と子供2人(長男・長女)の場合、法定相続人は3人ですので、基礎控除額は以下の通りとなります。

基礎控除額=3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円

2-2. 相続税の計算の流れ

▼相続財産の価額を合計

まず、相続財産の評価額を算出します。

ここでは、現金や預金のほか、土地・建物などの不動産、株式などの他、本来は相続財産とはならない生命保険金、相続開始前3年以内になされた贈与之価額なども、みなし相続財産として、相続税計算の際の相続財産として加算されることになります。

一方で、被相続人が負担していた債務の額も、マイナスの財産として相続財産の額から減額評価されます。

▼基礎控除額を控除

基礎控除額は、既に述べたとおり、「3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)によって計算されます。

ここでいう法定相続人の人数には、相続放棄をした相続人もカウントされます。

▼各相続人の法定相続分による税額を計算

基礎控除額を超える相続財産の額について、法定相続人が法定相続割合に従って相続した場合、各相続人がいくらの財産を取得することになるかを算定します
先に述べた相続人が配偶者と子供2人(長男・長女)で、相続財産が8,000万円の場合、基礎控除額は4,800万円ですので、相続財産の額が基礎控除額を3,200万円ほど超過することになります。

したがって、この事例では相続税がかかることになります。

この場合、配偶者、長男、長女の法定相続分は、配偶者が1,600万円(3,200万円×1/2)、長男・次男がそれぞれ800万円(各3,200万円×1/4)となります。

▼相続税の総額を算出

各法定相続人が法定相続分によって財産を取得すると仮定して、各相続人の法定相続分による相続額に相続税率を乗じて、控除額を減じて、相続税の額を算定します。

前述の例では、配偶者については相続額が1,600万円のため税率は15%、控除額は50万円となり、相続税は190万円となります。

長男・長女は、相続額が800万円のため、税率は10%、控除額はゼロとなり、相続税は80万円となります。

以上の結果、相続税の総額は各相続人の相続税額を合計した金額となり、190万円(配偶者)+80万円(長男)+80万円(長女)=350万円となります。

▼各相続人の相続額に応じた負担額を算出

実際の相続人間の遺産分割協議により、8,000万円の相続財産総額のうち、配偶者が5,000万円、長男が2,000万円、長女が1,000万円を取得することになったとすると、それぞれの相続人が実際負担する相続税の額は、以下の通りとなります。

配偶者=350万円×5,000万円/8,000万円=2,187,500円
長 男=350万円×2,000万円/8,000万円=875,000円
長 女=350万円×1,000万円/8,000万円=437,500円

3. 相続税の控除制度

ここまでは、相続税がいくらになるかを理解するために、相続税の基本的な計算方法をみてきました。

ただ、これで相続税の額が決まるわけではありません。

相続税については、各種の控除や税額を軽減する特例が設けられています。

ですから、上記によって算定された相続税額からこれらの特例や控除による処理をして、初めて、いくらの相続税がかかるかが確定することになります。

まず、ここでは、控除制度をみていきます。

相続税の控除制度とは、上記のように計算された相続税について、一定の範囲で相続税を課さないとする制度です。

3-1. 配偶者控除

▼配偶者控除制度とは

配偶者控除とは正式には「配偶者の税額の軽減」といい、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈によって実際に取得した遺産の額について、1億6千万円、または、配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額までについては、相続税を課さないという制度です。

つまり、配偶者が相続した分については、その金額が1億6千万円以下である場合には相続税が課されないことになります。

なお、配偶者控除は配偶者が最終的に取得した金額について認められるものですので、遺産分割協議などによって最終的に当該配偶者が取得する遺産の金額が確定していなければなりません。

▼配偶者控除を受けるための手続き

配偶者控除を受けるためには、相続税の申告をする必要があります。

つまり、相続開始後10か月以内に、相続税の申告書の提出をしたうえで(申告書の第5表)、その際に、取得した財産の額を、遺言書の写しや、遺産分割協議書の写しなどで、配偶者が相続により主とした相続財産の額を証明する必要があります。

「配偶者控除を受けられるから、相続税は払わなくていい」と考えて、相続税の申告自体を行わなかった場合には、この控除を受けられなくなる可能性がありますので注意が必要です。

3-2. 贈与財産の税額控除

▼贈与財産の税額控除とは

相続税の算定に際しては、相続開始前3年以内になされた贈与は、相続財産に含めて相続税の計算を行います。

その為、贈与がなされた時点で暦年課税方式によって贈与税を納めていた場合には、その贈与に対して二重に課税されることになります。

そこで、この場合には、既に贈与時に納めていた贈与税の額が、計算された相続税の額から控除されることになります。

▼手続き

贈与税の税額控除によって相続税の減免を受ける場合も、相続税の申告書の中でその旨を記載して、相続税を申告することになります(申告書の第4表)。

3-3. 未成年者の税額控除

▼未成年者の税額控除とは

法定相続人の中に未成年者がいる場合には、その年齢に応じて一定の控除を受けることができるとされています。

▼控除額

未成年者の税額控除によって控除される額は、20歳になるまでの年数1年について10万円として計算した額です。

この際、1年未満の期間は1年に切り上げることになります。

たとえば、相続により財産を取得した時の年齢が15歳10か月であった場合には、20歳になるまではあと4年と2か月となります。

そして1年未満の期間は1年に切り上げるため、20歳になるまではあと5年として計算することになります。

この結果、1年につき10万円の控除が認められる為、この者については5年×10万円=50万円の控除が認められる事になります。

これを先の例で、長男が15歳10か月だったとすると、相続税額875,000円から50万円が控除されるため、実際に納める相続税の額は375,000円となります。

また、長女が15歳10か月だったとすると、長女の相続税額は437,500円だったため、全額が控除され、相続税は収めなくてもいいことになります。

▼手続き

未成年者の税額控除については、相続税の申告自体は必要です。

この中は相続税申告書の第6表に必要事項を記載して申告することになります。

3-4. 障害者の税額控除

▼障害者の税額控除とは

障害者の税額控除とは、法定相続人が障害者で、相続または遺贈により財産を取得した時点で85歳未満だったときに、相続税の額から一定の金額を控除することを認める制度です。

▼控除額

障害者の税額控除により控除される額は、当該障害者が満85歳になるまでの年数1年につき10万円で計算した額です。

この際1年未満の月数は1年に繰り上げされます。

たとえば、先の例で相続人である長男が障害者で、その年齢が65歳5か月であったとすると、85歳まではあと19年7か月あることになります。

7か月は1年に繰り上げられるため、20年×10万円=200万円が控除されることになります。

先の例では長男が納めるべき相続税の額は875,000円でしたので、控除額が相続税の額よりもおおきくなり、結局、長男は相続税を納めなくてもいいことになります。

▼手続き

障害者の税額控除を受けるにも相続税の申告をする必要があります。

相続税申告書第6表に必要事項を記載して申告することになります。

3-5. 数次相続控除

▼数次相続控除とは

先に生じた相続(一次相続)によって相続、遺贈または相続時精算課税による贈与によって財産を取得した者が、その相続から10年以内に亡くなったことにより相続(二次相続)が開始された場合に、その二次相続によって相続、遺贈または相続時精算課税による贈与によって財産を取得した相続人について、納めるべき相続税額から一定の額を控除する制度をいいます。

▼控除額

数次相続控除によって控除される額は、一次相続によって課税された相続税額から、1年につき10%の割合で逓減した残額です。

具体的な計算式については、国税庁のホームページに詳しく掲載されていますので、そちらを確認してみてください。

参考:国税庁ホームページ「相次相続控除

4. 相続税の特例

4-1. 小規模宅地等の特例

▼小見出し小規模宅地等の特例とは

小規模宅地等の特例とは、被相続人の自宅、または、被相続人が事業の用に使っていた宅地を相続した者が一定の要件を満たす場合には、その宅地の氷塊に際して、一定割合の減額評価をすることを認める制度です。

▼小規模宅地等の特例の効果

小規模宅地等の特例の制度を利用した場合、当該宅地の評価額が減額されることから、相続によって取得した財産の評価額が低下し、その結果、相続税自体も軽減されることになります。

▼小規模宅地等の特例の種類

小規模宅地等の特例にはおおきく分けて3つの種類があり、それぞれ減額評価が認められる面積および減額割合が定められています。

宅地の種類 適用面積 減額割合
特定居住用宅地 被相続人が居住用に使用していた宅地 330㎡ 80%
特定授業用宅地 被相続人が事業の用に供していた宅地 400㎡ 80%
不動産貸付用宅地 被相続人が賃貸事業に供していた宅地 200㎡ 50%

ただ、小規模宅地等の特例については、様々な要件が定められています。

詳しくは国税庁のホームページの小規模宅地等の特例についての説明をご確認ください。

参考:国税庁のホームページ「小規模宅地等の特例について

4-2. 各種贈与による特例

以下は、相続開始後に適用されるものではなく、被相続人が生前に行うことにより、相続財産を減額させておくことにより、相続税を軽減させるのに有効な制度です。

▼暦年贈与

相続財産を減らす最も容易な方法は生前贈与をしておくことです。

しかし、贈与額が年間110万円を超える場合には、贈与税が課せられることになります。

そこで、これを回避するために、年間110万円未満の贈与を長期間にわたって行うという方法で、贈与税を回避しつつ財産の生前に移転するという方法があります。

▼住宅資金等資金の贈与

親や祖父母が子供、孫に対して住宅購入や増改築費用の贈与がなされた場合に、一定の範囲で贈与税が非課税になるという制度です。

非課税になる上限金額は当該家屋が取得された時期がいつか、それが省エネ住宅か否かによって決定されます。

▼教育資金の一括贈与

親や祖父母から30歳未満の子供・孫への教育資金の贈与について、受贈者1人につき最大1,500万円までの贈与が非課税とされます。

但し、この贈与は、現金をそのまま贈与する方法ではなく、銀行などにその資金を預け入れる方法で行う必要があります。

▼結婚・子育て資金の一括贈与

父母または祖父母等の直系尊属から子や孫に対して、結婚または子育て資金に充てる為の贈与について受贈者1名につき最大1,000万円までの贈与が非課税とされます。

これも、現金を直接受贈者に交付する方法ではなく、金融機関に贈与額を預け入れる方法で行う必要があります。

5. まとめ

以上、相続税の計算の基礎と、相続税に関して認められる控除制度、特例についてみてきました。

控除や特例の詳細については、本稿では触れることができませんでしたが、具体的な計算方法や細かい要件については、それについて説明している国税庁等のホームページなどで確認してみてください。

また、それらの要件は複雑なものが多いため、分からない場合には、専門家に確認してみることをおすすめします。

要件に該当しているのに、詳細が分からないからといってその恩恵にあずかれないということのないようにしましょう。(提供:ベンチャーサポート法律事務所