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産経ニュース エディトリアルチーム
1909年の創業から114年。群馬県高崎市で文房具やオフィス用品の販売を行っている株式会社清水商事は、時代に合わせて様々な変化を遂げながら、現在へと至った。「もともとは神奈川県の横須賀市で、曾祖父の清水良平が創業したものです。何かの機会でヨーロッパに行った曾祖父が、使われているステーショナリー(文房具)を見てこれからの日本に必要なものだと感じ、日本に帰って文房具の商社を起業しました」(清水正樹代表取締役)。(TOP写真:シェアオフィス「ippo」の入り口に立つ清水商事の清水正樹代表取締役)
1909年に横須賀で創業し海軍御用達に
清水商事が創業した頃の横須賀は、横須賀海軍工廠(こうしょう)があって造船の街として栄え、大日本帝国海軍の横須賀鎮守府も置かれて軍人や関係者が多く暮らしていた。モダンな気風もあった海軍だけに、西洋のステーショナリーは重用されたそうだ。事業は海軍御用達となって大きくなっていった。「他にレストランなども運営していて、横須賀では名士だったそうです」(清水正樹代表取締役)
しかし、太平洋戦争が進んで日本本土にも戦火が及ぶようになったことから、「親戚のいた高崎に祖父が曾祖母や妹を伴って疎開し、そこで文房具店を始めました」(清水社長)。見知らぬ地での再スタートに苦労もあったようだが、横須賀時代からの仕入先を頼って商材を確保し、必死に販売先を開拓していった。やがて群馬県や高崎市などの役所や学校、地元の有力企業が顧客となり、高崎市にしっかりとした地盤を持った文房具商社になっていった。
デジタル化の波に合わせて商材も文具から少しずつ変化
1970年代後半になるとOA(オフィス・オートメーション)化という波が訪れる。筆記具や各種用紙が並んでいた商材のカタログに、パソコンやプリンター、サプライ用品といったデジタル関係のアイテムが並ぶようになっていく。そして現在、同社が取り扱っているものには、「ドラッグストアで売られている日用品もあれば、メモリーやICレコーダー、タブレットといったデバイス類もあって、多岐に及んでいます」(清水社長)。
もちろんパソコンやプリンター、複合機といったデジタル機器も取り扱い、ネットワーク関連機器の注文も受ける。「パソコンに入れる帳票関係のソフトも取り扱いますし、デジタルサイネージやホームページを作って欲しいという依頼も受けます」(清水社長)。自社でエンジニアを抱えて開発を請け負う。SI(システムインテグレーター)会社ではないため、外部の協力会社に仕事を回す形をとっているが、ICTに関するある程度の知識がなければ注文自体を受けられない。「事業に携わる中で、自然とそうした知識がついていきました」(清水社長)
資材と経験を生かしてシェアオフィスを開設
清水社長は、大学を出て大手コンビニエンスストアに入社し、その後システム販売会社に転職してパソコンや複合機などをシステムとともに販売してきた。その経験を生かしつつ、文房具業界に急速に進むデジタル化に対応していった。2016年1月に、本社や倉庫のある高崎市問屋町に当時としてはまだ珍しかったシェアオフィス「ippo」をオープンできたのも、そうしたデジタル環境を備えたオフィス作りの経験があったからだ。
「人が集まる場を作って、地域の活力となるような事業が立ち上がるのを支援したいという思いから始めた事業です」(清水社長)。始めるにあたって今のオフィスに必要な環境は何かを考え、LANやWi-Fiといったネットワーク環境をしっかりと備えた部屋を作った。首都圏のように起業が盛んというわけでもない土地柄だが、新型コロナでオフィス需要が大きく後退した後の現在でも、8部屋あるうちの5部屋が埋まっている。整った設備と雰囲気の良さが好評を博している理由だろう。
どうしてシェアオフィス事業だったのか。紙からデジタルへと商材が移り、倉庫とデリバリー機能を持った大手卸売業の代理店業務も増えていく中で、自社で倉庫を持つ必要がなくなりスペースが余ってきた。「テナントを入れることも考えましたが、会議室やトイレなどの設備を自社でも使うことを考えたら、シェアオフィスが良いのではと思い至りました」(清水社長)。当時、シェアリングエコノミーという言葉が流行り始め、一般社団法人シェアリングエコノミー協会という団体も立ち上がっていた。そうした状況にいち早く対応したと言える。
本業を少しずつずらしながら環境の変化に対応
「本業を元に少しずつずらしていくことで新しい事業に参入していくことができればと、いつも考えています」(清水社長)。シェアオフィス事業の場合は、スペースの有効活用を狙っていたところにオフィス作りの経験が乗るという、今までの事業の延長として参入した恰好だ。賃貸物件や新しくビルを建てて、シェアオフィスを作ろうとしたら、入居費や建設費などがかかって採算がとれなくなる。自社の物件を使い設備を共用する形としたことで、インテリアにもこだわり、参入投資も抑えられた。
もう一つの利点は「自社で取り扱う商材を試す場にもなります」(清水社長)。新しいオフィス機器やデジタル機器が出てきた場合、カタログを見ただけでは使い勝手がわからないところがある。これをいったんシェアオフィスで使ってみることで、「実際に販売する時の言葉に、説得力を持たせることができるのです」(清水社長)。一種のショールームでありアンテナショップとして機能させることで、採算の部分をカバーしている。
動画配信スタジオをオープン
7年ほどのシェアオフィスの運営で、新たな経験を積んできた同社が次に挑もうとしているのが、動画配信スタジオの運営だ。コロナを経てオンラインで会議を行ったり、ウェビナーと呼ばれるオンラインセミナーを配信したりといった活動が盛んになってきた。YouTuberのように、コンテンツを配信することで収益を上げる人も生まれている。そうした環境に対応し、高品質の動画配信を行える施設を作ることで、シェアオフィスの価値を高め企業全体の持ち味も増やしたいと考えた。
3月にオープンしたスタジオは、4台のカメラを切り替えながら講演などを配信できる。高画質の大型モニターも用意し、データなどを映しながら講演することも可能だ。「合成に必要なグリーンバックはまだ用意がありませんが、必要があれば揃えます。他にも、背景に棚などを設置し自由に物を置いてもらって、雰囲気を作れるようにしたいと考えています」(清水社長)
リアルタイムでの配信はもちろん、録画配信も可能だ。「手近にスタジオがあることで、ここで映像を撮影して自分たちの機材で編集・配信することを考えている事業者が利用してくれたら嬉しいですね」(清水社長)。オープンからまだ日が浅いため、今は自前の配信を実験的に行っている程度だが、いずれシェアオフィスと同様に存在を認知されれば、利用してみたいと思う事業者も出てきそうだ。
ICT時代に対応した人材確保を
こうして事業を少しずつずらしていきながら、変化に対応している清水商事。人材についても、取り扱う商材にICT関連の機材やシステムが出てきていることから、ある程度の知識を持った人が採用できればと考えている。ただ、「少人数で営業を行っているため、一つの分野に精通している人がいいのか、浅いけれども広い知識を持っている人がいいのか、迷っているところがあります」(清水社長)。動画配信スタジオの運営が軌道に乗ってくれば、そうした方面に強い人も欲しいところ。状況を見ながら良い人材が来てくれることを願っている。
もちろん、本業におけるICT対応への業務はまだまだ大きな柱だ。「最近では、GIGAスクール構想に沿って学校に導入されたタブレットに充電するボックスを、高崎市の小中学校に納めました」(清水社長)。教育現場におけるデジタル機器の活用は、オフィスのデジタル化に続く大きなマーケット。そこで老舗ならではの営業力を使ってしっかりと仕事をとっていく。
一方で、「ChatGPTなどが出てきて、ホワイトカラーの仕事がどんどん置き換わっていくことも考えられます。そうした環境でどのようなビジネスが可能かを考え、本業をうまくずらしてくことで対応していきたいと思っています」(清水社長)。明治の西洋化や昭和の大戦といった大きな波を越えてきた同社なら、デジタル化という波にもしっかりと乗り、やがて越えていけるだろう。
企業概要
会社名 | 株式会社清水商事 |
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住所 | 群馬県高崎市問屋町西1丁目1-3 |
HP | https://shimizu-shoji.com/ |
電話 | 027-362-8484 |
創業 | 1909年 (設立1951年7月11日) |
従業員数 | 5人 |
事業内容 | 印鑑・ゴム印、文具・文具別製・オフィス雑貨、各種印刷・印章・ギフト(ノベルティ)、オフィス家具・オフィス移転・オフィスレイアウト、IT機器・クラウドサービス・ネットワーク・セキュリティ、防災用品・企業防災ソリューション、シェアオフィス運営、投資業務 |