(本記事は、本間 英俊氏の著書『「P2Cブランド」の教科書』=きずな出版、2023年7月26日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
「サステイナブルブランド」が日本でブレイクしない理由
「地球にやさしい」はコストがかかる
では、日本の消費者に目を向けると、どうでしょうか?
結論からいえば、環境問題や社会問題よりも「値段」がいちばんの購買動機になっているのが現実です。
「地球にやさしい服」と「財布にやさしい服」。この2つが並んでいたら、多くの日本人は後者を選びます。現に、日本のアパレル市場はユニクロ、ワークマン、しまむらの3社で1.5兆円もの売上があります。大手セレクトショップの「ユナイテッド・アローズ」「ビームス」「ベイクルーズ」の3社の売上を足しても4000億円にもならないことを考えると、低価格品の市場がどれだけ大きいかわかります。
ちなみに、私は自分で服をつくる立場なので、ユニクロやワークマン、しまむらでは買い物をしません(これらのブランドが嫌いなのではなく、職業人としてのプライドの問題です)。
しかし、アパレルに関係のない仕事をしていたら、きっと全身ユニクロを買うと思います。休日はワークマンプラスの服を着てキャンプ場へ行き、+Jを着て贅沢な気分に浸っていたでしょう。
これはアパレルに限った話ではなく、100円ショップでも同じです。とにかく日本のマーケットには安くて、品質のよいものが多い。外食も安くてうまいものだらけで、世界最高峰のコストパフォーマンスです。だから、結局安いものが選ばれて、さらに、また安くていいものが市場に投入される。このループがずっと続いています。
一方、地球にやさしい服はコストがかかります。たとえば、リサイクルのコットンは新品に比べて着心地は悪く、発色も悪い。
コストも約40%高くつきます。安くていいものが選ばれるのは当然です。
「安くて、品質がよくて、何が悪いんですか?」と思うかもしれませんが、たしかに短期的に見れば財布にもやさしいし、企業の売上もあがる。
ただし、安いものは大量生産せざるを得ないので、資本勝負になって大企業がさらに大きくなります。需要よりも供給が多くなると、モノ余りになり、また商品の価格が下がる。大企業ばかりが大きくなると、いずれ社会的な格差が広がります。そうなれば、低収入の人は安いものに飛びつかざるを得なくなる。これを繰り返すことで、中国をはじめとする生産国へお金が流れていきます。
そんな状況下で、近年は国際問題などから物価の上昇が上がり、ますます低収入の人の生活は苦しくなっています。
日本のアパレルブランドが向き合うべき問題
ここ数十年の間、日本の商社は世界中の貧困国に進出し、安くつくれる工場を探してきました。最たる例が、中国ウイグル地区の強制労働者が低賃金でつくっていると怪しまれているコットン工場です。商社は、それらの工場を日本で販売店舗や流通網をもつ企業にマッチングさせてきました。
こうした今の日本のビジネス構造が簡単に止まるとは考えられませんが、世界のどこかで月1万円以下の収入で日本のホームレスより酷い生活を強いられている人がたくさんいるのも現実です。こうしたやり方は、地球の寿命を加速度的に縮めています。
アパレルブランドもこうした社会問題と無関係ではいられません。今後も同じようなビジネスを続けるのか、それとも、どれだけ安くて質のよいコットンでも強制労働でつくられたものは仕入れないよう徹底するのか。どちらのあり方が正しいのかがわかるには、もう少し時間がかかりそうですが、アパレルブランドに携わる人なら、誰もが考えなければいけない問題だと思います。