(本記事は、本間 英俊氏の著書『「P2Cブランド」の教科書』=きずな出版、2023年7月26日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
進化する購入スピードに対応する
AIDMAとAISAS
P2Cブランドを展開するうえでキモになるのが「ストーリーテラー」です。ストーリーテラーを考えるうえで重要なポイントが3つありました。振り返っておきましょう。
- 誰が
- どこで
- どうやって
「誰が」「どこで」の2つを理解したら、次は「どうやって(HOW)」を考えていきましょう。具体的に、どうやってブランドのストーリーを伝えていけばよいでしょうか。
大前提として言えるのは、今のお客様はECページを見て商品を欲しくなるわけではないということ。
ブランドの販売に興味がある人なら、AIDMA(アイドマ)やAISAS(アイサス)というマーケティング用語を聞いたことがあるかもしれません。
「横文字ばっかりで難しそう」という人のために、カンタンに解説しておきましょう。
A=Attention(注意)
I=Interest(関心)
D=Desire(欲求)
M=Memory(記憶)
A=Action(行動)
人がモノを買うときの購買決定プロセスの頭文字をとって、AIDMA(アイドマ)と言います。あるブランドの商品をはじめて知った見込み客の心の声で表現すると、次のようになります。
Attention: 「おっ、このブランドなんだ?」
Interest :「へ〜、こんなブランドあるんだぁ」
Desire :「イケてるじゃん。でも、今回は買わないでおこう」
Memory :「それにしてもあのブランドはイケてたなぁ」
Action :「やっぱり買いに行こう!」「これください!」
最初に認知してから購入に至るまでの心理状態のステップがAIDMA(アイドマ)です。また、インターネットショッピングが普及し始めてからは、広告代理店の電通により提唱されたAISAS(アイサス)という考え方も登場しました。
A=Attention(認知・注意)
I=Interest(興味・関心)
S=Search(検索)
A=Action(行動)
S=Share(共有)
基本的な流れはAIDMAに似ていますが、関心をもった商品をSearch(検索)して、ネットで商品のことを調べる。そしてポチッと購入してから、最後に購入した商品をSNSなどでShare(共有)するまでがAISASです。
このようなステップを踏んで、お客様はモノを購買すると考えられてきました。他にもAIDCA(アイドカ)やAMTUL(アムツール)など派生した横文字がありますが、小難しいことは覚える必要はありません。
なぜなら、SNSを使ったマーケティングは、これまでの購買の心理ステップを一気にぶっ飛ばすものだからです。「じゃあ、こんな話すんなよ!」とツッコミたくなるかもしれませんが、今からする話は、こうした基本の概念を知っておくと、より深く理解できます。
いつまでも見てしまうSNS
極端なことをいえば、今のお客様は、眠っているとき以外は、ほぼスマホと一緒です。起きてすぐスマホを確認して、寝る直前までスマホを見る。電車での移動中や、待ち時間なども、ほとんどの若者はスマホを見ています。
ここでのポイントは、SNSを使っている人は、自分が好き好んでそのアプリを使っているということ。インスタやツイッターが直接「使ってくれ」と押し付けているわけではなく、利用者が自分の意思でアプリをインストールし、そこから情報を得ているのです。
私もそうですが、多くの人は誰に頼まれたわけでもないのに、勝手にSNSを見て、勝手に何かを欲しくなったりするのです。インターネットの発展を境に、メディアは大きく様変わりしました。
旧来のテレビ、ラジオ、雑誌、新聞などはプッシュ型のメディアといえます。一方、検索やSNS、ユーチューブなどの動画コンテンツ、ブログなどはプル型のメディアです。
プッシュ型は広告を含めたコンテンツを不特定多数に発信しているのに対して、プル型はお客様からアプローチします。誰が見てもプル型が今っぽくて、プッシュ型は昭和感があるのに気づくでしょう。2つは同じメディアでも性格を異にしています。
大事なのはここからです。プル型の中でも、特にインスタ、ユーチューブ、TikTokの3つのメディアは、ついつい見続けてしまいます。みなさんも、気づいたらずっとSNSや動画を見ていたという経験をしているかもしれません。
なぜでしょうか。これは、単純にお客様から情報を取りに行くプル型メディアだから、という話ではありません。AIのリコメンドが優秀という面もありますが、実はもっと単純です。
「目的がなくても、見ているだけで楽しい」
これに尽きます。無目的だからこそ見続けられる。いつでもやめられるから、いつまでも見てしまう。スマホゲームにも言えることですが、目的のなさと気軽さが、結果、多くの時間をアプリに費やす原因になっているのです。
脳内ですでに購入している
さて、少し話がそれましたが、SNS時代の購買プロセスについて話を戻しましょう。
お客様は、SNSを見ているときは、たいして目的もなく、買い物をする気もなかったはずなのに、インフルエンサーの情報を追っているうちに「これ欲しい!」と商品が欲しくなる。そして間髪入れずにECサイトに飛んで、購入ボタンをポチリと押しています。
脳科学的な視点からいえば、商品を「買っている」のは、ECで最後にポチった時点ではなく、「これ欲しい!」と衝動が起こった瞬間といえます。
服のサイズをチェックして、決済方法を選んでいるのは、単に手続き踏んでいるだけであって、脳内ではすでに購入済みの状態です。
つまり、なんとなくインスタグラムをチェックしているだけだったのに、いつのまにか脳内で商品を買っている、という現象が起きているのです。
この購買プロセスは、先ほど説明したAIDMAやAISASのステップが極端に短くなっていることに気がつくでしょうか。
もはやAttention(注意)すらなく、スマホを見ているうちに出てきた誰かの投稿にInterest(関心)を抱き、インスタグラム内でタグSearch(検索&ブランド検索)をする。そして、「イケてる! 欲しい!」というDesire(欲求)が湧いたら、すぐにECで購入というAction(行動)を起こす。
ECですぐに購入できてしまうから、「欲しい!」から「購入」までの速さがすさまじいのです。
今の若者たちは、インスタグラム内の誰かの投稿を見て、頭の中のイメージで「試着」します。そして「これ、いいな」と思う。この時点ですでに買っている状態なのです。
その後、スタッフスタート(店舗スタッフがコーディネートや商品レビューをECサイト上に簡単に投稿できるサービス)やWEAR(モデルや俳優、ショップスタッフの着こなしの中からコーディネートを探せるサイト)などで、自分の体型に近い販売員の着こなしをチェック。サイズ感が問題なさそうなら、ECサイトへ飛んで購入ボタンをポチリと押します。
こうした購買プロセスの変化から言えることは、実はイケてるECサイトはそれほど重要ではないということ。なによりも大事なのは、共感を生む設計をもとにしたインスタグラムの投稿やストーリーズです。