(本記事は、本間 英俊氏の著書『「P2Cブランド」の教科書』=きずな出版、2023年7月26日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
爆進し続ける中国発ファストファッション
ユニクロを超えた「SHEIN」
サステイナブルトレンドとは反対にあるファストファッションについても見てみましょう。
飛ぶ鳥をすべて撃ち落とす勢いの北京発のファストファッション「SHIEN(シーイン)」。2022年11月には、原宿に日本初のショールーム店舗を出店したのも記憶に新しいところです。今後は日本でも大学生までの若者を中心に、売上を伸ばし続けていくことでしょう。
SHIENは、中国発のファストファッションで、直近の資金調達ラウンドで、その価値は1000億ドル(当時:約12兆3000億円)と評価されました。
時価総額はあっという間にユニクロを抜き、ZARAとH&Mを足した額よりも大きくなりました。
そもそも時価総額が10兆円を超えるインデックス(ZARA)やユニクロを、創業からたった10年弱で超えてしまうのが世界的に見ても異例なことですし、世界では日本で感じているよりもファストファッションの勢いがあることがわかります。
事実、SHEINはAmazonを抜いてアメリカで最もダウンロードされたショッピングアプリとなり、Z世代を中心に爆発的な人気を博しています。そして、いまやファッション衣類だけでなく、パーティーグッズやコスメ、生活雑貨など取り扱うカテゴリーのラインナップが増えています。
この成長過程を見ていると、最初、書籍のECからスタートしたAmazonが、ファッションや生活雑貨、食品を取り扱い、世界一のライフラインを支えるプラットフォームに成長したプロセスと似ていると感じます。
SHEINはいずれ、ファストファッションという枠からライフラインを支えるプラットフォームになり、近い将来、世界最大規模のプラットフォームAmazonの脅威になるのではないでしょうか。
しかし、SHEINについては、この成長過程で、工場の労働環境や地球環境への悪影響、生産過程での不透明さ、さらにデザインの盗作問題など、ネガティブなニュースがあとを絶ちません。
これはSHEINに限った話ではなく、ファストファッション、大量生産・大量消費モデル全般にいえることですが、今のやり方ではいずれ地球環境の限界に達し、大きくシフトチェンジを迫られるときが来ると思います。
ファストファッションが地球環境に与える深刻な影響
ファストファッションが地球環境に与える深刻な影響についてネットメディア『Life Insider』の記事から一部抜粋しましょう。
- 衣類の生産量は、2000年のほぼ2倍になった
- 2014年に消費者が購入した衣類は、2000年に比べて60%増加したが、着用する期間は半分に
- ヨーロッパでは、ファッションブランドが毎年開催するコレクションの平均回数は、2000年は2回だったが、2011年には5回に増えた
- もっと多くのコレクションを開催するブランドもある。ZARAは年に24回、H&Mは12~16回も開催する
- 最終的には多くの衣類が捨てられる。毎秒トラック1台分の衣類が、焼却あるいは埋め立て処分されている
- ファッション産業は、世界で2番目に水を多く消費する産業
- 木綿のシャツを1着つくるのに、約2650リットルの水が必要となる。これは、1人の人が1日に8杯の水を飲んだとして、3年半飲める量に相当する
- ジーンズを1本つくるのに、約7600リットルの水が必要となる。これは、1人の人が1日に8杯の水を10年飲める量に相当する
これらの現実を突きつけられると、私自身もファッション業界で20年以上活動する身として、大いに責任を感じます。
特に若い頃は毎シーズン新作の服を求めていました。お客様にも「新作こそ最も価値があり、話題性がある」と啓蒙してきました。それによって喜んでくれたお客様がいたのも事実ですし、結果みんながハッピーになったのかもしれません。
しかし、いよいよ厳しい事実を知ってしまうと、ファッション業界の人間として何ができるのかを考えざるを得ません。大量生産・大量消費ではない、価値の創出が地球のためにも必要です。
Z世代は「デジタルネイティブ」や「反ブランド主義」といった特徴をもつほかに、「社会問題への意識が高い」「平等性や合理性を求める」といった特徴をもつ世代といわれます。
世界でのSHEINの爆進ぶりを見ると、若者の収入に余裕ができるまでの間は、これまでの「安い」「高回転」「多品種」で売上を伸ばし続けると思います。しかし、Z世代の収入が増えてくる3~5年後くらいからは、だんだんと市場の求める価値が変わっていくと予想しています。