法人が事業活動で得た所得には法人税や法人住民税、法人事業税等が事業年度単位で課せられます。本記事では、法人税について概要や計算方法を解説します。
法人税とは
法人税とは、法人が事業活動によって得た所得に対して課せられる税金です。事業年度内で獲得した課税所得に、一定の税率を乗じて計算されます。
法人税の課税対象は後述しますが、株式会社や合同会社、有限会社などの法人です。個人事業主やフリーランスのような個人による事業は、所得税の対象となります。
法人税の課税対象とは
法人の種類、目的によって、法人税の課税対象となる法人、課税対象に当てはまらない法人にわかれます。
法人税の課税対象となる法人
課税対象となる法人は「普通法人」と「協同組合等」の2種類です。
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【普通法人】
株式会社、有限会社、合名会社、合資会社、医療法人、相互会社、企業組合、日本銀行等
原則として、普通法人はすべての所得に対して法人税が課せられます。ただし、期末時点の資本金が1億円以下の中小法人等に対しては軽減税率が適用されます。
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【協同組合等】
生活協同組合、農業協同組合、漁業協同組合、労働者協同組合、信用金庫、労働者協同組合等
普通法人と同様にすべての所得に対して法人税が課税されますが、軽減税率が適用されるため、税負担が軽減されます。
法人税の課税対象にならない法人
課税対象にならない法人は、「公益法人等」「公共法人」「人格のない社団」の3種類です。
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【公共法人等】
地方公共団体、金融公庫、国立大学法人、地方独立行政法人、日本中央競馬会、日本年金機構、日本放送協会等
公共法人等は公益事業を運営する法人のため、法人税は課せられません。
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【公益法人等】
公益社団法人、公益財団法人、学校法人、宗教法人、社会福祉法人等
公益法人等も公益に関する事業を運営しているため、原則として非課税ですが「収益事業」から生じた所得は課税対象になります。
「収益事業」は、法人税法で規定されており、物品販売業、不動産販売業、金銭貸付業、製造業などが該当します。
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【人格のない社団等】
PTA、マンション等の管理組合、各種研究会等
人格のない社団等は、法律上の法人ではありませんが、税法上は法人とみなされます。公益法人と同様に原則として非課税ですが、収益事業から発生した所得は課税対象になります。
法人税の計算方法
法人税の計算方法の流れは、大きく3つのステップに分かれます。それぞれについて見ていきます。
①課税所得を計算する
法人税を計算する際には、最初に課税所得を計算します。課税所得は会計上の利益ではなく、課税される所得金額(税法上の所得)を指し、「益金-損金」で求めます。
- 課税所得 = 益金(売上収入・売却収入・利益)- 損金(費用・損失)
「益金」は製品の売上収入や、不動産を売却したことによる収入など、「損金」は売上原価や販売費等の費用が該当します。いずれも参入・不算入の調整が必要になる場合があります。
益金の加算調整には、例えば役員報酬や寄付金などの損金不算入が挙げられます。また益金の減算調整には、益金不算入となる税金の還付金や、保有資産の評価益などの益金不算入が挙げられます。
②法人税率を確認する
課税所得を求めたら、法人税の税率表に該当する法人税率を求めます。法人の種類や規模によって税率はそれぞれ定められており、普通法人で資本金が1億円を超えている場合、税率は23.2%になります。
協同組合等その他の法人は、普通法人に比べて税率がやや低くなります。協同組合等では、所得金額が年800万円を超える部分で19%、800万円以下の部分で15%です。
【普通法人の法人税率確認表】 ※開始事業年度が2022年4月1日以後の場合
資本金 | 所得金額 | 法人税率 |
1億円以下の法人等 | 年間800万円超の部分 | 23.2% |
1億円以下の法人等 | 年間800万円以下の部分 | ・適用除外事業者(※):19% ・上記以外の事業者:15% |
上記以外の普通法人 | ー | 23.2% |
※適用除外事業者:過去3年間の平均所得金額が15億円を超える法人等
【その他の法人の、法人税率確認表】 ※開始事業年度が2022年4月1日以後の場合
法人の種類 | 所得 | 法人税率 |
協同組合等 | 年間800万円超の部分 |
19% |
年間800万円以下の部分 | 15% | |
公益法人等 | (収益事業から生じた所得のうち) 年間800万円超の部分 |
23.2% |
(収益事業から生じた所得のうち) 年間800万円以下の部分 |
15% |
*法人税率確認表は、国税庁「No.5759 法人税の税率」をもとに作成
中小企業の場合には法人税の軽減措置があり、資本金が1億円以下や他社法人との関係性など条件を満たした場合に適用されます。どの税率が適用となるか確認しましょう。
③法人税額を計算する
法人税額は以下の式で算出します。なお法人税法119条によると、1円未満の端数が生じた場合には切り捨てになります。
- 法人税額 = 課税所得× 税率
軽減措置制度を適用した場合の計算方法
納税負担を軽減するために、中小企業に対しては法人税の軽減措置制度が定められています。資本金1億円以下の普通法人(適用除外事業者は除く)には、所得800万円以下の部分に対しては低い税率である15.00%が設定されています。この税率は、軽減措置特例によって引き下げられたもので、本則では19.00%が設定されています。
法人税の計算シミュレーション
それでは、実際に事例を設定して計算シミュレーションを実施しましょう。
- 事例1:資本金1億円以上、課税所得3,000万円の普通法人の法人税額
法人税の税率表では、資本金1億円以上の普通法人の法人税率は「23.20%」です。
この場合は、3,000万円(課税所得)×23.20%(法人税率)=696万円(法人税額)となります。
- 事例2:年間所得2,000万円の公益法人(公益社団法人や公益財団法人)の法人税額
法人税の税率表では、公益法人の場合は年間所得2,000万円のうち、800万円以下の部分の法人税率は15%ですが、800万円超の部分の法人税率は23.20%です。
【所得額800万円以下の部分】
800万円×15%(所得額800万円以下の法人税率)=120万円(法人税額➀)
【所得額800万円超の部分】
1,200万円×23.20%(所得額800万円超の法人税率)=278万4,000円(法人税額②)
法人税額は ➀+②=398万4,000円(➀と②を合計した法人税額)となります。
このように所得額800万円以下と800万円超の場合で法人税率が異なるため、それぞれ対応する所得額と税率で法人税額を計算して合計することが必要です。
法人税の申告方法 ・申告書について
法人税を申告する場合は、法人税申告書と添付資料を税務署に提出する必要があります。法人税の申告期限・納付期限は、ともに期末(事業年度の終了日)から2ヶ月以内と定められています。
法人税申告書は、法人が事業で獲得した各年度の所得に対して課せられる法人税を申告する書類です。別表一~十九までの複数の書類で構成されます。
それぞれの別表の内容は、下表のとおりです。なお、法人の決算内容によって必要となる別表の種類が異なるため注意が必要です。
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【法人税申告書の別表の一例】
・別表一:各事業年度の所得に係る申告書
・別表二:同族会社等の判定に関する明細書
・別表三:特定同族会社の留保金額に対する税額の計算に関する明細書
・別表四:所得の金額の計算に関する明細書
・別表五:利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書
※出典:国税庁「令和4年4月以降に提供した法人税等各種別表関係(令和4年4月1日以後終了事業年度等又は連結事業年度等分)」より一部抜粋
また、主な添付資料としては、法人事業概況説明書・別表・勘定科目内訳明細書・貸借対照表・損益計算書などがあります。
法人税の納付方法
法人税を納付する方法には、主に以下の4種類があります。法人税を納付する際には、納付書も忘れずに提出する必要があります。
現金納付
金融機関や税務署の窓口では、現金で納付することができます。またコンビニエンスストアで、専用の納付書やQRコードを用いて現金納付することも可能です(納付金額30万円以下の場合)。
いずれも手数料はかかりません。コンビニエンスストアの場合、領収証書は発行されませんが払込金受領証を受け取ることができます。
クレジットカード納付
「国税クレジットカードお支払サイト」を利用して、クレジットカードで納付することができます。この場合、納税金額に応じて決済手数料がかかります。
ダイレクト納付
e-Taxでダイレクト納付口座を届け出て、金融機関あるいは税務署に届出書を出しておくことで、e-Taxによる申告後に預貯金口座から振替納付ができます。
インターネットバンキング納付
e-Taxの利用開始手続きを行って、インターネットバンキング等から納付することも可能です。あらかじめe-Taxの利用や、インターネットバンキングの口座開設をしておく必要があります。
それぞれの納付方法における手数料の要否や領収書発行の可否は、下表の通りです。
納付方法 | 手数料の要否 | 領収証書発行の可否 |
現金納付 | なし | 〇 |
クレジットカード納付 | 必要 (納税金額に応じた決済手数料) |
✕ |
ダイレクト納付 | なし | ✕ |
インターネットバンキング納付 | なし | ✕ |
法人税の計算・納付にあたっての注意点
法人税の計算・納付に際しては以下の点に注意が必要です。
法人税は赤字決算の場合発生しない
法人税は利益(所得)が出たときに課税されるため、法人が赤字決算の場合は、原則として法人税の支払いは不要です。ただし、資本金1億円超の大企業や一部の業種においては、法人税が全額免除になるわけではない点に注意が必要です。
また、会計上の赤字と税務上の赤字は異なる点にも気を付けなければなりません。会計上の利益と税務上の利益が異なる理由は、計上できる収益や経費に違いがあるためです。会計上は赤字でも、税務会計上は黒字(課税所得がある状態)であれば法人税が発生します。
申請期限までに余裕をもって進める
法人税の計算は、申告期限までに間に合うように手続きを進めることが重要です。万が一、税務署に指摘されるまで申告をしなかった場合には督促が行われます。それでも法人税の申告・納付をしない場合には、財産の差し押さえなどの重いペナルティが課される可能性も考えられます。
悪質な場合には重加算税が課される可能性もあるため、必ず期限内に法人税を申告・納付することを忘れないようにしましょう。
中間申告に気を付ける
法人によっては、法人税の中間申告(予定納税)が必要になる場合があります。中間申告は、事業年度の途中で当該事業年度の法人税の申告および納付手続きを指します。事業年度が6ヵ月以上となる法人は、ほぼ中間申告の対象となり、当該事業年度の開始日から6ヶ月を経過した日から2ヶ月以内に中間申告を行わなければなりません。
また、前事業年度が赤字決算の法人や納付した確定法人税額が20万円以下の法人は、中間申告する必要がありません。つまり、前事業年度の確定法人税額が20万円を超える場合(中間申告での納税額が10万円超の場合)に、法人税の中間申告を行う必要があります。
設立1年目の法人やNPO法人も中間申告は不要です。ただし、合併した法人は事業初年度でも中間申告する必要があります。
終わりに
以上、法人税についてその概要や計算方法などご紹介してきました。法人税率は、法人の形態や規模によって異なるため、自分の会社の法人税率がどのくらいなのか確認しておきましょう。
また、法人税は雇用促進税制や中小企業投資促進税制など、一定の条件を満たした場合に法人税額の特別控除が可能になるものがあります。こうした特別控除を利用して法人税の軽減を検討することも、企業経営における有用な施策のひとつと言えるでしょう。
法人税を含む税務手続きは複雑で専門性が高い分野のひとつです。そのため必要に応じて、税理士などの専門家のサポートを受けて、手続きを実行することをおすすめします。
著者
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