百貨店の売上が改善基調にある。日本百貨店協会によると5月の全国百貨店の売上高は前年同月比+6.3%(店舗数調整後)、入店客数は同+4.5%、いずれも15か月連続で前年を上回った。要因は新型コロナの感染症区分の変更とインバウンド需要の戻りである。総売上の約95%を占める内需は前年同月比+2.3%、15か月連続の増収、インバウンドは同+250%、こちらも14か月連続でプラスとなった。5月の訪日外国人数は約189万9千人、コロナ前の2019年比で▲31.5%(日本政府観光局)、6月の訪日客が200万人を突破したことを鑑みてもインバウンドの回復余地は大きい。
商品別では婦人服、身の回り品、雑貨、食料品など、主力商材がいずれも好調、旅行、ビジネス、行事、催事など外出機会の増加が売上を牽引した。地区別では京都、大阪、神戸、福岡が二桁の伸び、名古屋、東京がこれに続く。
こうした中、百貨店を販路とするメーカーや卸も “復調” に期待を寄せる。とりわけ、百貨店市場の縮小とともに苦戦を強いられてきた “百貨店アパレル” も一息つく格好だ。その代表格オンワードホールディングスは2024年2月期業績予想を上方修正、売上は前期比+7.2%、営業利益同+91.8%を見込む。
とは言え、“復調” はあくまでも前年比、すなわちコロナ禍3年目の2022年との比較であって百貨店の競争力低下そのものに歯止めがかかったわけではない。確かに内需もプラス基調であるが、コロナ禍前の2019年5月と比較すると▲2.7%という水準にとどまる。また、全国ベースにおける “復調” を支えているのはあくまでも都市部の需要であって、主要10都市を除く百貨店の売上は前年同月比▲0.1%、厳しい状況に変わりはない。
コロナ禍の3年間、筆者は「新型コロナは構造変化を加速、変革のための猶予期間を短縮させた」と書いてきた※1。果たして従来型百貨店市場の縮小に後退はないだろう。上記オンワードの基本戦略は構造改革、すなわち “脱百貨店” であり、ECの売上比率は既に3割に迫る。つまり、百貨店は自らの “復調” によって離反する側に一時的な猶予を提供していると言える。一方、それは百貨店自身にとっても同様である。“復調” によって稼ぎ出した時間と原資を従来型ビジネスモデルからの脱却にどれだけ投資出来るか、今、百貨店に問われているのはまさにそこだ。そう、渦中の「そごう・西武」こそ未来に向けての新たな一歩を踏み出していただきたく思う。
※1 「コロナ禍、収束へ。後戻りはない、この3年間の経験を未来へ」今週の"ひらめき"視点 2023.4.30 – 5.11
今週の“ひらめき”視点 7.16 – 7.20
代表取締役社長 水越 孝