コロナ禍以降、2022年の夏頃まで世界的に海上物流は大きく混乱した。特に米国西岸港においては、入港できずに沖待ちする船が100数隻海上に留まり、深刻なコンテナ不足を引き起こした。
現在は海上物流やコンテナの需給も通常の状態に戻っており、懸念された米国西岸港湾の労働組合のストライキも回避された。物量のオーダーは米国の景気の問題もあり、日本発、中国発とも思っているほど伸びていないという。
荷物が少ないと運賃が下がるが、今後、北米のホリデイシーズンに向けて需要が増えると運賃がアップする可能性もある。グローバル物流企業である日新(横浜市中区)の複合輸送営業部、岡祐子部長と奥村美光課長に現状の海上物流の状況と今後の見通しについて話を聞いた。
西岸の港湾の労使交渉を振り返ると、2000年以降では、2002年と2014~2015年にストライキが行われた。2022~2023年の労使交渉は6月14日に暫定合意しており、労使間で6年間の協定が締結され、賃金アップでの妥結になる見込みだ。一方、2024年9月30日に米国の東岸の協定が失効する。
「東岸は今までトラブルになったことはないが、西岸がそれなりの賃金アップになるのでどう出るか」と動向を注視する。また、「カナダ西岸では7月1日からストライキが行われており、カナダの物流に大きな影響が出始めている。妥結見込みは立っておらず大きな懸念になりつつある」とする。
東岸については、今まで西岸ほどの取扱TEU(Twenty-foot Equivalent Unit:20フィートコンテナ1個分)はなかったが、ここ数年で急激に増えているという。米国では西岸のLA(ロサンゼルス)港、LB(ロングビーチ)港が長らくツートップで、2014年時点では米国主要港で取り扱うTEUの3分の2は西岸が占めていた。
ところが、2022年には半々近くにまでなったという。そのため、「東岸の需要が高くなっており、東岸での労使交渉は少し気にしている。妥結はすると思うが、今までよりは注視が必要だ」としている。
〈東岸の取扱TEUが増加、米国荷物のピークシーズンは先延ばしに〉
東岸ルートはパナマ運河を通る。東岸の取扱TEUが増えたのは、2016年にパナマ運河が拡張された影響が大きい。2022年には、西岸労使交渉に巻き込まれることを懸念した荷主が東岸揚げを多数利用した結果、NY/NJ(ニューヨーク・ニュージャージー)港は、初めてロングビーチ港を抜いて取扱TEUで2位となっている。
ただ、パナマ運河は深刻な干ばつで水位が下がっているため、積み荷を減らして2mほど船体を上げている状況だという。「この2カ月ほどそういった状況が続いている。東岸に運ばれる荷物が減っているのは少し気になるが、全体的に荷動きが少ないので影響は小さいと思う」と説明する。
喫水制限は7月19日に13.11mと過去にないレベルで下がる予定だという。「東岸が重要になるにつれて、パナマ運河を気にしないといけなくなった。欧州でも石油や石炭が運んでいるライン川の水位が下がって電気代が高騰した。今までは人的な問題が多かったが、自然災害の問題が心配になっている」と述べる。
東岸ルートの方が運賃は高いため、これまで中西部の荷物は西岸を利用すれば良かった。だが、2022年のように労働争議で西岸に船が入れず、海上で滞留することもあるため、「西岸だけに依存するのはリスクがある」と指摘する。代替ルートとして、東岸から鉄道で内陸に運ぶ方法がある。
運賃相場は2022年の秋頃から落ち着いており、すでにコロナ前に戻っているという。「しばらくは荷主としてもコストに影響を与えることはない。ただし、円安はどうしようもない。海上運賃はドル建てになるので、為替で割高になるのは避けようがない」と説明する。船会社は日系の方が安心だが、外資を使ってコストを下げる方法もあるという。
今後の需要の見通しについて、例年8月に米国向けの荷物は増えるが、2023年は9月に後ろ倒しが予想されているという。「米国は新車の販売台数を見ても購買力が落ちている。2024年の大統領選挙に向けて、バイデン大統領は景気を盛り上げる必要があり今年は期待したいが、今のところ荷物が増えてくる兆しが見えていない。ピークシーズンは先延ばしになっている」と述べる。仮に米国の輸入が伸び悩むことになれば、米国から大豆を輸出する際、必要なコンテナが不足してくる可能性はありそうだ。
〈大豆油糧日報2023年7月14日付〉