巻込み力 国内外の超一流500人以上から学んだ必ず人を動かす伝え方
(画像=Cagkan/stock.adobe.com)

(本記事は、下矢 一良氏の著書『巻込み力 国内外の超一流500人以上から学んだ必ず人を動かす伝え方』=Gakken、2022年12月15日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

ジャパネットたかた創業者に学ぶ、敵を味方に変える向き合い方

一流の起業家たちの危機対応で参考としたいもうひとりは、「テレビ通販王国」を一代で築き上げたジャパネットたかたの創業者、髙田明氏です。

2004年、ジャパネットたかたは創業以来、最大の危機を迎えていました。元従業員が50万人もの顧客情報を流出させるという不祥事が起きたのです。再発防止策を徹底するため、ジャパネットたかたは49日間にわたって営業停止することになりました。

ジャパネットたかたの再生の過程を、なんとか映像に収められないだろうか。そう考えた私は、ジャパネットたかたに取材を依頼することにしました。

新聞や雑誌といった活字媒体の場合、再発防止策がまとまって事件がひと段落した後にインタビューすれば、記事をつくることができます。ですが、テレビは映像で表現するメディアです。「全て終わった後」では、せいぜいインタビューくらいしか撮影できません。「再生に向かって取り組む現場」にテレビカメラと一緒に立ち会わなければ、番組にならないのです。

情報 漏洩(ろうえい) 事件が起こるまで、私はジャパネットたかたとは一切、付き合いはありませんでした。当然、広報担当の連絡先もわかりません。そこで代表番号を調べて広報担当につないでもらい、取材依頼をかけたのです。

取材したい旨を伝えると、電話の相手は「検討して、後ほど携帯に連絡する」とのことでした。しばらくすると、折り返しの連絡が来て「取材には応えられない」と断られてしまいました。

私は「なんとか再考してほしい。多くの視聴者がジャパネットの再生に注目している」と食い下がりましたが、答えは変わりませんでした。取材に応じられない理由について、明確な説明はありません。私は「再考してほしい」ということを再度伝えたうえで、電話を置きました。

私は割り切れない思いを抱いたまま、その日を過ごしていました。すると、私の携帯に見知らぬ番号から、連絡が入ります。「誰からの電話だろうか」と(いぶか) りながら、電話を取りました。電話に出て、私は驚きます。声の主は髙田明社長本人だったからです。髙田社長の声はテレビで聞き慣れた高い調子よりも低く、話し方もゆっくりと落ち着いたものでした。

髙田社長は取材を受けられない理由を語り始めました。「今は再発防止策に専念したいので、取材は受けられない」という趣旨でした。

取材交渉は「断られてからが本当のスタート」とも言えます。社運を賭けた現在進行中のプロジェクトなど視聴者が「本当に」見たいものは、逆に企業としては外部に見せることをためらうものがほとんどだからです。断られてからの取材交渉が、取材者としては「腕の見せどころ」です。電話越しであっても、髙田社長と直接話せる機会はまさに「再交渉のチャンス」だったのです。

私は「多くの視聴者がジャパネット再生の行方を注目していること」、さらには「再生への歩みが確かなものであることを広く示すことは、企業としての責務ではないか」と、髙田社長に食い下がりました。

しかし、どんなに食い下がっても、髙田社長の答えは変わりません。私の「説得」は1時間近くに及びました。私の「説得」に対し、髙田社長は「なぜ、今は取材を受けることができないか」を極めて丁寧に、そして紳士的に説明します。

結局、最後まで私の望む「回答」は得られませんでした。それにもかかわらず、髙田社長の誠心誠意の対応に、いつしか私自身が髙田社長の「ファン」になってしまったのです。

中途半端な「誠意」や「説明」では、納得もできなかったでしょう。髙田社長のように徹底的に誠実に対応したからこそ、私も全て断られたにもかかわらず、ファンになってしまったのでした。

何事も包み隠さず、ごまかそうとしない。しかも相手が納得するまで、自分の想いを「徹底的に」丁寧に説明する。「危機に際しては、徹底的に誠心誠意、対応すること」の、まさに「最高の事例」です。

巻込み力 国内外の超一流500人以上から学んだ必ず人を動かす伝え方
下矢 一良(しもや・いちろう)
PR戦略コンサルタント
周囲に溶け込むのが苦手で「技術者になれば、人付き合いをせずに済む」という理由で、早稲田大学理工学部に入学。しかし就職活動を迎えると、「自分の好きなことを仕事にしよう」と、テレビ局を目指す。面接を勝ち抜くための「アピール方法」を分析し発揮した結果、倍率100倍以上の面接を突破しテレビ東京に入社。『ワールドビジネスサテライト』『ガイアの夜明け』を経済部キャップとして制作。スティーブ・ジョブズ氏、ビル・ゲイツ氏、孫正義氏、三木谷浩史氏、髙田明氏、藤田晋氏、前澤友作氏らにインタビュー。500人以上の一流ビジネスパーソンを取材し、彼らに共通する「うまく伝える法則」を見出す。併せて、7万通以上のプレスリリースを読んだことで、典型的な「伝え方の失敗例」も知ることに。その後、ソフトバンクに転職。孫正義社長直轄の動画配信事業(Yahoo!動画、現・GYAO)を担当。この際、孫社長の情報発信術を間近で学ぶ。年に1組しか選ばれない「ソフトバンク・アワード」を受賞。現在はPR戦略コンサルタントとして中小企業のブランディングや宣伝のサポート等を行う。

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