(本記事は、下矢 一良氏の著書『巻込み力 国内外の超一流500人以上から学んだ必ず人を動かす伝え方』=Gakken、2022年12月15日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
「巻込み力」は「ストーリー」「資料」「体当たり」から成る
この「巻込み力」は大きく分けて、次の3つの「伝え方の技術」によって構成されています。
1つ目は「ストーリーを語る」技術。ストーリーこそ、「巻込み力」を発揮するためには最も重要な要素です。「巻込み力」を生み出すための、まさに「核」となります。
まず、あなた自身を「大きな目標」に挑むストーリーの主人公として、イメージしてください。そして、その目標を周囲に思い切って、宣言してしまうのです。
アフリカのことわざに「早く行きたければ、ひとりで行け。遠くまで行きたければ、みんなで行け」という言葉があるそうです。ひとりでできることには、限界があります。大きな目的を達成するには、味方が必要です。
ストーリーの主人公は味方をつくるために、正論で相手を説き伏せるようなことはしませんし、利益で釣るような真似もしません。同じ目標を共有する「味方」として、自分の側に「巻き込む」のです。
この「巻込み力」を発揮するために、場面に応じた「伝え方のパターン」をいくつも覚える必要は全くありません。最初に自分のストーリーをパターンに沿って設定し、そのストーリーに沿って自分自身を伝える。それだけで十分なのです。
このストーリーを伝える技術を用いれば、正論をぶつけあうような「上司との勝ち目のない戦い」の泥沼に陥らずに済みます。
「巻込み力」の2つ目の技術は、「資料のつくり方」。具体的には、ストーリーを資料に落とし込むための技術です。
資料をつくることのメリットは、2つあります。
ひとつは本番で勝負せずに済むこと。「伝え下手」な人の特徴は、「本番」に弱いことです。資料を用意しておけば、「本番」は資料に沿って淡々と進みます。資料はいわば、舞台の脚本のようなもの。脚本通りに進むので、瞬発力を鍛える必要はないのです。
もうひとつは、目の前にいない対象までも動かせるということ。企業であれば、ひとりで意思決定しているということは、まずありません。
例えば、商談を想像してみてください。目の前にいる担当者を味方に「巻き込めた」とします。しかし、それで終わりではありません。
その担当者は最終決裁を上司に仰がなくてはならないからです。担当者が自分よりもその商品に詳しく、的確に説明できるなどということは、まずありません。もしかしたら、その担当者が社内で的確に説明できずに、上司の最終決裁を得るのに失敗してしまうこともあります。自分は担当者には会えても、その担当者の上司に直接会える立場にはない。そんなとき、担当者から上司に資料を見せてもらうのです。この資料づくりによって、目の前にいない「評価する人」まで「巻き込む」ことができるようになります。
そして3つ目は、危機を乗り切るための技術、「体当たり」です。
どんな人間でも、必ずピンチと向き合わなくてはいけないときがあります。大きなミスを犯してしまったとき、目標未達となってしまったときなど、どのように対処すべきなのでしょうか。危機に陥ると、つい「失敗してしまった理由」や「やむを得なかった事情」を真正面から説明することで乗り切ろうとしてしまいがちです。
ですがどんなに正論を語ったとしても、相手から見ると「言い訳をして逃げようとした」という印象しか残りません。「語る言葉の中身」よりも強く印象に残るのは、「逃げたという態度」のほうだからです。
こんなとき、どのように乗り切ればいいのでしょうか。「攻撃は最大の防御」ともいいます。実は「体当たり」こそ、危機を乗り切る最上の方法なのです。
「巧みな言い訳」を繰り出そうと知恵を絞るのではなく、事実を基に、誠実に、逃げることなく「敗因」を相手に伝えるということ。そして「敗因」を伝えるだけではなく、「次の一手」も併せて伝える。謝罪や挽回策は常に相手の期待値を上回るものであること。
有名ベンチャー企業の経営者は謝罪会見などのピンチを、こうした「体当たり」で乗り切ってきました。「体当たり」することで、厳しい質問を投げかける記者たちを、いつの間にか味方に「巻き込んで」きたのです。
一流起業家たちが駆使してきた、相手を動かすための伝え方の技術、「巻込み力」。その設計図をこれから解き明かしていきます。
周囲に溶け込むのが苦手で「技術者になれば、人付き合いをせずに済む」という理由で、早稲田大学理工学部に入学。しかし就職活動を迎えると、「自分の好きなことを仕事にしよう」と、テレビ局を目指す。面接を勝ち抜くための「アピール方法」を分析し発揮した結果、倍率100倍以上の面接を突破しテレビ東京に入社。『ワールドビジネスサテライト』『ガイアの夜明け』を経済部キャップとして制作。スティーブ・ジョブズ氏、ビル・ゲイツ氏、孫正義氏、三木谷浩史氏、髙田明氏、藤田晋氏、前澤友作氏らにインタビュー。500人以上の一流ビジネスパーソンを取材し、彼らに共通する「うまく伝える法則」を見出す。併せて、7万通以上のプレスリリースを読んだことで、典型的な「伝え方の失敗例」も知ることに。その後、ソフトバンクに転職。孫正義社長直轄の動画配信事業(Yahoo!動画、現・GYAO)を担当。この際、孫社長の情報発信術を間近で学ぶ。年に1組しか選ばれない「ソフトバンク・アワード」を受賞。現在はPR戦略コンサルタントとして中小企業のブランディングや宣伝のサポート等を行う。
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