巻込み力 国内外の超一流500人以上から学んだ必ず人を動かす伝え方
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(本記事は、下矢 一良氏の著書『巻込み力 国内外の超一流500人以上から学んだ必ず人を動かす伝え方』=Gakken、2022年12月15日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

「たくさん書けば、どれかが刺さるかも」と期待する愚

私はほとんど毎月のように、講演やセミナーで 登壇(とうだん) しています。受講者アンケートを取ると、ありがたいことに毎回95%以上の方が「満足した」と答えてくれています。とはいえ、私は決して話術に秀でているわけではありません。好結果を獲得できる理由のほとんどは、講演やセミナーで用いる資料にあります。

聞き手を巻き込むためには、資料に何を書き込むべきでしょうか。私は資料には、要点のみしか書きません。詳細な情報は資料には書かずに、あえて口頭で伝えるようにしています。要点しか書かないのは、そのほうが聞き手が話に入り込んでくれるからです。

要点しか書かない資料のほうが「巻込み力」を発揮できる理由は、3つあります。

理由の1つ目は、要点しか書いていないことで、相手は集中して聞かざるをえなくなること。

全ての情報を資料に書き込んでしまうと、会議や打ち合わせの場は「資料を読み上げるだけの会」になってしまいます。聞いている側も「全部資料に書いてあるから、今、聞かなくても大丈夫」と安心して、集中力も途切れがちになってしまいます。

対照的に「要点しか書いていない」と、載っていない情報を「聞き漏らすまい」と集中して話を聞いてもらえます。資料には要点しか書いていないので、資料にない細かな情報は、聞き手がメモを取らなくてはなりません。つまり、話に巻き込まれざるをえなくなるのです。

2つ目の理由は、相手の意識を、伝えるべきこと〝だけ〟に誘導すること。情報を書きすぎてしまうと、どの情報が最も重要なものなのか、焦点がぼやけてしまいがちです。資料の中で、情報の「主」と「従」が明確にわからないようだと、読み手は混乱してしまいます。あるいは重要なほうの情報は覚えずに、逆に重要ではないほうだけを記憶してしまうかもしれません。

最後の理由は、自分自身の考えを研ぎ澄ますことができること。要点だけ書くということは、どの要素が幹で何が枝なのか、自分の頭を整理しなくてはなりません。

資料作成の過程を通して、自分の思考を整理することができます。資料では要点に絞り込むべき理由を書いてきましたが、実際に絞り込むのは難しいものです。

マスコミ向けに自社の情報を伝える書類として、「プレスリリース」があります。A4サイズの紙、2、3枚に、新商品などの情報をまとめたものです。『ワールドビジネスサテライト』のようなニュース番組には、1年間に10万通を超えるプレスリリースが舞い込みます。

私もテレビ東京の記者として、そして現在はPR戦略コンサルタントとして、20年以上にわたって9万通を超えるプレスリリースを読んできました。長年、多くのプレスリリースに目を通すうちに、中小・ベンチャー企業が犯してしまう資料づくりの敗因には、共通のパターンがあることがわかってきました。

最も多いのは、「アピール材料をたくさん書き込んでしまう」というパターン。まさに「数を打てば、どれかは当たるだろう」という発想です。

しかし、このやり方が成功することは、まずありません。というのも、相手はそれほど真剣に資料を見ていないから。読み手からすると、たいていの場合は、いくつもこなさなくてはならない打ち合わせや何通も届くメールなどの、ひとつに過ぎません。あなたの資料は、それほど丁寧に見てもらえないものなのです。

ですから、資料づくりの心構えとしては「丁寧に読んでもらえなくても、相手に伝わる」ようにつくらなくてはならないのです。

コンサルタントとしてプレスリリースや事業提案といった資料作成を指導していると、このような「数を打てば当たる」式の資料に頻繁に出くわします。そういうときには、こう問いかけるようにしています。

「この中で伝えたいことをひとつだけ選ぶとすると、どれですか?」

2つでも3つでもなく、「ひとつ」なのです。そして伝えるべき要点をひとつに絞り、残りの情報は全て、その「ひとつ」を際立たせるための補足でなければならないのです。

巻込み力 国内外の超一流500人以上から学んだ必ず人を動かす伝え方
下矢 一良(しもや・いちろう)
PR戦略コンサルタント
周囲に溶け込むのが苦手で「技術者になれば、人付き合いをせずに済む」という理由で、早稲田大学理工学部に入学。しかし就職活動を迎えると、「自分の好きなことを仕事にしよう」と、テレビ局を目指す。面接を勝ち抜くための「アピール方法」を分析し発揮した結果、倍率100倍以上の面接を突破しテレビ東京に入社。『ワールドビジネスサテライト』『ガイアの夜明け』を経済部キャップとして制作。スティーブ・ジョブズ氏、ビル・ゲイツ氏、孫正義氏、三木谷浩史氏、髙田明氏、藤田晋氏、前澤友作氏らにインタビュー。500人以上の一流ビジネスパーソンを取材し、彼らに共通する「うまく伝える法則」を見出す。併せて、7万通以上のプレスリリースを読んだことで、典型的な「伝え方の失敗例」も知ることに。その後、ソフトバンクに転職。孫正義社長直轄の動画配信事業(Yahoo!動画、現・GYAO)を担当。この際、孫社長の情報発信術を間近で学ぶ。年に1組しか選ばれない「ソフトバンク・アワード」を受賞。現在はPR戦略コンサルタントとして中小企業のブランディングや宣伝のサポート等を行う。

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