好奇心がオジサンを救う? マニア気質の元プロ野球選手、山本昌の今
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(本記事は、中溝 康隆氏の著書『プロ野球から学ぶ リーダーの生存戦略』=クロスメディア・パブリッシング、2023年3月31日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

趣味での学びを仕事に活かすためには?

そんな球界きってのマニア気質で凝り性の昌さんが、最もハマったと自著『笑顔の習慣34仕事と趣味と僕と野球』(内外出版社)で紹介するのがラジコンだ。

2年連続最多勝に輝いた栄光から一転、翌95年に故障して失意のリハビリ生活を送っていた時期、近所を散歩していたらラジコンサーキットを見つけて何気なく立ち寄る。そこで愛好家たちに誘われ、試しにやってみると瞬く間にラジコンの奥深さに魅かれていくのである。

愛好家たちは他に本職の仕事を持ったアマチュアにも関らず、ラジコンノートに詳細な走行データを記録してコンマ1秒のタイムを縮めようと没頭する。その求道者のような姿勢に昌さんは「俺はプロにも関わらず、彼らのラジコンほど野球を追究していないんじゃないのか」と気付かされ愕然とするわけだ。

マシンの部品をどれだけ調整しても、思ったような結果が得られない時がある。だが、そのセッティングがうまくいかないとわかっただけでも、調整は進んでいるのだ。レジェンド左腕は、ラジコンから失敗を繰り返して前進する意味を学んだ。そして、それからはひとつ上のレベルで野球と向き合えるようになったという。

趣味のラジコンをきっかけに本職の野球人生を変えた男。一度好きになったらとことん突き詰める性分の昌さんは、2002年には約2000人が参加したラジコンの全日本選手権で4位入賞を果たす。

だが、現役晩年はラジコンを封印していたため、引退後に久々に復帰した大会では50人中39位と惨敗を喫する(なんと優勝は中学生)。

しかし、ここで折れないのが50歳まで現役を続けた山本昌の真骨頂だ。かつてのチームメイト山崎武司とラジコン大会〝山山杯〞を復活させ、CS放送フジテレビONEでは『山本昌のラジ魂道場』という冠番組まで持った。

中学生に負けたことにより、再び火がついたラジコン熱。地元東海テレビでは、こちらも趣味を生かした昆虫採集で子ども達と野外ロケに出かけ、カブトムシとクワガタを捕りまくる姿も話題に。さらに野球解説の合間を縫って、食レポや講演会にも飛び回る日々だ。

「まずは、トライ!」そこから見えてくるものがある

そのいつ何時、誰とでも戦う山本昌イズムの根底にあるのは、過去に縛られないこと。偉大な実績を残した野球を基準にすると、それ以外の選択肢を考えられなくなってしまう。

大切なのは、昔の栄光を振り返ることではなく、今〝とりあえずなんでもやってみる〞という前向きな姿勢である。野球解説だけではなかなか食べていけないこの時代、元プロ野球選手、いやすべての中年男に必要なのはカテェ〝プライド〞よりも、柔らかい〝好奇心〞だ。

そうか、大人の趣味に対してひとつの結論が出た気がする。年齢を重ねるとどうしても「今さらこんなことできねぇよなぁ」なんて思いがち。いや格好付けたってしょうがない。筋トレ、ロードバイク、野球観戦、洗体エステとか少しでも興味を持ったらとりあえずなんでもいいから一度チャレンジしてみた方がいい。

昌さんの本にも「初体験をやってみる」という章があるくらいだ。いや下ネタじゃなくて、「なにか面白そうなものを見つけた時、まずは気楽にやってみてほしい」と。30代じゃ遅い、40代からじゃ恥ずかしい……って冷静に見たらまだ人生の折り返し地点にも来てないからね、俺ら。

愛は地球を救う。それと同じく趣味は社会人を救うのである。

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中溝 康隆
1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。ライター兼デザイナー。
2010年より開設したブログ『プロ野球死亡遊戯』が人気を博し、プロ野球ファンのみならず、現役選手の間でも話題になる。『週刊ベースボールONLINE』『Number Web』などのコラム連載の執筆も手掛ける。
主な著書に『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)、『現役引退──プロ野球名選手「最後の1年」』(新潮新書)、『プロ野球 助っ人ベストヒット50 地上波テレビの野球中継で観ていた「愛しの外国人選手たち」』(ベースボール・マガジン社)、『キヨハラに会いたくて 限りなく透明に近いライオンズブルー』(白夜書房)などがある。

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