BIGBOSSに学ぶ 状況に合わせたクレバーなセルフブランディング
(画像=Alex/stock.adobe.com)

(本記事は、中溝 康隆氏の著書『プロ野球から学ぶ リーダーの生存戦略』=クロスメディア・パブリッシング、2023年3月31日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

常にどう見られるかを意識していたSHINJO

阪神時代は天才だと思われたくて練習嫌いのフリをしていたが、実は隠れて自主トレやマッサージのケアは欠かさなかった。一方で、晩年の日本ハム時代は逆にあえて若い選手たちにトレーニング風景を見せて、プロの姿を学ばせる。

トライアウトに落ちた翌年、日本ハム二軍の鎌ケ谷スタジアムへ足を運んだのは、野球の勉強と同時に「僕は、監督になる準備をしています」という球団へのアピール込みの行動だったという。

常に熱狂の中心にいながら、自分がどう見られているのかを考え行動するクレバーさを忘れていないわけだ。

条件度外視で年俸を大きく下げてのメジャー挑戦や試合前のダースベイダーに扮しての始球式パフォーマンスなど、人生において夢や楽しさを優先させてきた男だが、実は目の前の仕事に対しては真摯で真っ当なスタンスで臨んでいる。

選手時代、死球を受けて戦線離脱したシーズンでゴールデングラブ賞に選出されるも、「今年の俺のゴールデングラブ賞はおかしい。1年間この賞を心の中で目指して取り組んでいた選手に申し訳ない。来年からは、印象ではなく数字で選んで欲しい」と異例のコメントを発表。

その派手なスター選手の印象とは裏腹に、守備にこだわり、新人時代に7500円で買ったグラブを手入れしながらずっと使い続ける職人肌の一面も持っていた。

誰もが様々な顔を併せ持つ。本当の自分なんて、職場ですべてさらけ出す必要はないのだ。例え、誰かから嫌われて否定されようと、それは仕事用キャラのほんの一部分にすぎない。そう思えるだけでもラクになる。

なお、新庄は外野守備でフライを追う際、片目でボールを視野に入れつつ、もう片方の目でときどきフェンスの位置を確認することを意識していたという。

そう、頭の片隅では常に働く自分を俯瞰するイメージを忘れずに。

そして、激動の監督1年目を終えた指揮官は、〝BIGBOSS〞のユニフォームをグラウンドに置いて別れを告げ、23年から〝SHINJO〞として新本拠地のエスコンフィールド北海道での再出発宣言(って、武藤敬司とグレート・ムタのキャラ使い分けじゃないんだから!)。なんて突っ込んだファン多数。

だが、会社員だって、毎朝ネクタイを締めたり、鏡の前で時間をかけてヒゲを剃り、意図的にプライベートとは別キャラモードに入るのも悪くない。成功しても、失敗しても、今何ができて何が足りないのか、〝仕事用の自分〞を客観視できるからだ。

さぁ、あなたも大きなミスをして上司に激怒されたら、スーツを脱ぎ、フロアの床に置き、「今日限りでコイツは退職しますが、明日からは新しいオレが出社しますから」宣言だ。

球場でも、職場でもそのくらいの心の余裕はなくさずにいたいものである。

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中溝 康隆
1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。ライター兼デザイナー。
2010年より開設したブログ『プロ野球死亡遊戯』が人気を博し、プロ野球ファンのみならず、現役選手の間でも話題になる。『週刊ベースボールONLINE』『Number Web』などのコラム連載の執筆も手掛ける。
主な著書に『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)、『現役引退──プロ野球名選手「最後の1年」』(新潮新書)、『プロ野球 助っ人ベストヒット50 地上波テレビの野球中継で観ていた「愛しの外国人選手たち」』(ベースボール・マガジン社)、『キヨハラに会いたくて 限りなく透明に近いライオンズブルー』(白夜書房)などがある。

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