プロ投資家の先の先を読む思考法
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(本記事は、藤野 英人氏の著書『プロ投資家の先の先を読む思考法』=クロスメディア・パブリッシング、2022年5月2日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

成長する企業は「なぜ」を考え続ける

前章までは、私が日頃から「先の先」を読むためにやっていることをお伝えしてきました。10年後、20年後の未来を予測し、その未来に向けて成長する企業を見つけるためにさまざまなインプットを重ねています。

本章では、私が個別企業を見る際に、なにを重視しているかについてお伝えしたいと思います。

成長する企業とはどんな企業かと尋ねられたら、私は「Why(なぜ)を考え続ける会社」だと答えます。

自分たちが手掛けているビジネスについて、なぜやるのか、なぜ今なのか、なぜ私たちがやるのかといった「Why」を無限に問いかけ続けている会社が伸びるのです。

例えばGAFAM(Goog le、App le、Facebook、Amazon、Microsoft)と呼ばれるメガテック企業には哲学者がいて、Amazonなら「買うとはどういうことだろうか?」、Facebook(現・Meta)は「コミュニケーションとはなにか?」といったことを考え続けている人がいるといいます。

そのような「Why」を問う議論を重ね、仮説にもとづいたトライアンドエラーを重ねてきた結果が、今のGAFAMをつくってきたのではないかと思います。

ところが日本の会社では、「Why」を聞くことはあまり歓迎されません。例えば資産運用会社で、「そもそもなぜ私たちは資産運用をするのでしょうか」と尋ねる社員がいたら、「いいから仕事をしろ」と言われるでしょう。

あるいは「あいつは空気が読めない」「面倒くさいやつだ」などと言われてしまうのではないでしょうか。

哲学的な問いやそもそも論のような話をすることの重要性は、日本ではほとんど理解されていないと言っていいでしょう。

映画『マトリックス』は、マトリックスというコンピュータが世界の調和を考えて支配する「完璧な世界」を前提として描いています。

『マトリックス』が面白いのは、マトリックスという完全なAIがわざとシステムのバグを発生させることによって、つねにマトリックスを不安定な状態にし、その「不安定を安定化させる努力」によって結果的にマトリックスの完全性を担保しているというところだと思います。

私が『マトリックス』を見ていて思うのは、つねにシステムを疑い、システムに対して挑戦をすることによってシステムをリフレッシュし続けていくことがとても重要なのだということです。

これは別の言葉で言えば、「サスティナブルである」ということだと思います。

近年はSDGs(持続可能な開発目標)が重視され、企業の成長もサスティナブル(持続可能)なものであるべきだと考えられるようになっていますが、サスティナブルというのは「システムを否定し続け、そのシステムをアップデートし続ける」ことによってこそ、可能になるはずなのです。

そして「Why」を考え続けることは、現状を疑い、ときには否定し、不完全さを受け入れてアップデートし続けることだと言うこともできます。

ところが日本社会には、「自分たちが間違えているということなどあってはならない」「自分たちは完全である」という前提に立ち、その完全性を担保するために新しいものを排除しようとするところがあります。

この結果、システム全体が時代遅れなものになってしまったというのが、日本が世界における競争力を失っていった大きな背景ではないかと思います。

言い換えれば、日本は「Why」を考えることをせず、「すでにある完璧なものを守る」ことに腐心し、オールドファッションなシステムや社会体制に対して疑いを持つこと、アップデートし続けることに失敗してしまったのです。

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藤野 英人
投資家・ひふみシリーズ最高投資責任者。レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役会長兼社長。1966年富山県生まれ。早稲田大学法学部卒業。国内・外資大手投資運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークスを創業。東京理科大学MOT上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師、叡啓大学客員教授。一般社団法人投資信託協会理事。主な著書に『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)、『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)。

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