細胞性食品(いわゆる『培養肉』など)に関する研究団体(一社)細胞農業研究機構(東京都中央区、吉富愛望アビガイル代表理事)は5月22日、東京都目黒区の東京大学先端科学技術研究センターで設立総会を開いた。
今後、細胞性食品の情報収集や発信、枠組みの提言などの活動を行っていく。この日は、吉富代表が同機構について紹介したあと、中山展宏衆議院議員(前国交副大臣、細胞農業によるサステナブル社会推進議員連盟事務局長)ら関係者が祝辞を述べた。
細胞農業研究機構は、細胞性食品と日本の関連産業や消費者とのより良い関係の構築に向けて、関係者が一丸となって考え、透明性の高いコミュニケーションや国内産業・消費者に貢献するような仕組みづくりを目指す研究組織として、2022年12月に発足・法人化された。細胞性食品の国内外のルール形成に一丸となって取り組む必要性に共感する、約50の企業やアカデミア、団体で構成されている。
吉富代表理事は、細胞農業や細胞性食品の概要や現状、商品化を目指す日本企業のダイバースファーム(株)とインテグリカルチャー(株)の取組み、海外での実例などを説明、日本は情報の蓄積が進んでおらず、国の対応が決まらず、細胞性食品への投資や開発が海外に比べて進んでいない現状を指摘した。
そのうえで、「日本食や高級食材などの食の領域での存在感、再生医療の知見などで、本来、日本は細胞性食品の領域で発言力を持ち、リードできるポテンシャルを持つ」と指摘。その現状を打破するために高い質の情報収集、透明性の高い発信、枠組みの提言を行っていくと同機構の役割を説明し、「細胞農業の領域に関してよりよい議論を進め、広い意味での国益になるように尽力していく」と締めくくった。続いて、中山議員や農水省の高木徹男氏(大臣官房新事業・食品産業部企画グループ調査官)、日本ハム中央研究所の岩間清所長ら6人が、祝辞を述べた。
岩間氏は現在の社会情勢や自社の取組みに触れ、「ニッポンハムグループの『Vision2030』を達成するために5つのマテリアリティを設定しており、その一つに『たんぱく質の安定調達・供給』がある。日本ハムが細胞性食品の研究開発に取り組む背景として、将来のたんぱく質不足を前提とし、〈1〉従来の畜産物を中心とした経営を継続しながら、植物性代替肉をはじめ多様なたんぱく質を供給し、両立していく〈2〉細胞性食品は持続可能な動物性たんぱく質として可能性が期待できる〈3〉細胞性食品についても一般消費者に手の届く価格で販売することを目標にする〈4〉国内で生産の可能性がある――の4つを挙げている。いのちの恵みからいただいた、たんぱく質の可能性を広げていきたいと考えている」とし、細胞性食品実現のために関係各所の協力や助言などの必要性を示し、同社も実現に向け取り組んでいくと述べた。
総会後は、「細胞性食品の可能性といま向き合う~2050年の食料問題に備えて」というテーマで、中山議員、御手洗誠氏(マルハニチロ事業企画部課長役)、羽生雄毅氏(インテグリカルチャー(株)代表取締役CEO)、吉富代表理事がトークセッションを行い、細胞農業の食品の安全性や細胞性食品認可のハードルなどについて議論が交わされ、会場からも細胞性食品の消費者需要の可能性などについて質問が挙がった。
最後に、細胞性食品の炙り実演も行われ、培養肉未来創造コンソーシアム(伊藤ハム米久ホールディングス、大阪大学、島津製作所、凸版印刷、シグマクシス)が3Dプリントでサシを入れた細胞性牛肉を、ダイバースファーム(株)は細胞性鶏肉を、東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設は細胞性牛肉について、それぞれ炙ってみせ、香りや音を体験してもらった。参加者からは、肉が焼けるような香りがするという声や、肉のように焼けていく様子に驚く声が上がった。
〈畜産日報2023年5月24日付〉