天才IT大臣オードリー・タンが初めて明かす 問題解決の4ステップと15キーワード
(画像=bloomicon/stock.adobe.com)

(本記事は、オードリー・タン(Audrey Tang)氏の著書『天才IT大臣オードリー・タンが初めて明かす 問題解決の4ステップと15キーワード』=文響社、2021年12月9日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

見開き2ページを2秒で読むオードリー式高速スキャン読書法

私は今、ほとんどの本をデジタル形式で読んでいます。紙の本しかない場合も自動スキャナーでページをスキャンし、全文検索できるようにOCR(光学式文字読み取り装置、Optical Character Recognition:画像化された文字をコンピューターが識別可能な電子信号に変換するもの)を使ってデジタルファイルに変換しています。

ですから本を読む際にはたいてい、タブレット端末とタッチペンを使っています。最近読んだ約400ページの『The Routledge Handbook of Epistemic Injustice(未邦訳)』でしたら、画面に同時に表示される左右の見開きページを私が読み取るのに2秒かかりますから2秒×200回で400秒、つまりこの本を読み取る所要時間は10分以下です。ですから、性急に判断を下すことなく一気に200ページ読むことは可能なのです。

ページを読むときは、すべての行の文字が見えます。一文字一文字読むわけではなく、視線が常にスキャンし続けるような状態になっています。しかし声には出しません。

ポイントはやはり、頭の中で流れを止めないことです。流れを止めてしまったら読み取った内容を覚えておくことは私にもできず、記憶に残るのは私が流れを止めてしまった部分だけでしょう。

この読み方を練習する場合は、最初から分厚い本は選ばず、まずはA4サイズの文章1枚くらいから始めることをお勧めします。

そして読み終えたらすぐに眠って、翌朝目覚めたら前日に読んだ内容を思い出してみましょう。

するといくつかのキーワードが自然に浮かんできて、頭の中で一つの構造が形成されます。人間は睡眠中に、短期記憶の中で印象深かったことや将来的に役立ちそうなものを長期記憶に書き込むからです。

これが、脳が要点を仕分けるプロセスです。これは感覚記憶ではないので、文字の大きさや色を覚えておくことはできませんが、キーワードやキーワード同士の関連性は記憶できます。人間は連想することによって長期記憶を書き込んでいます。つまり私がキーワードや画面、映像などを思い出したときに、文脈構造のつながりが形成されているのです。

そこで、私はデジタル形式ならではの全文検索機能を多用しています。紙媒体の書籍などの場合、ある概念と別の概念との関連性を覚えておくことはできますが、全文検索機能なしでは目当てのページに一瞬で跳ぶことはできませんから。私の読書法はこの機能があるからこそ成り立っていると言えるでしょう。

ですから私が人に『The Routledge Handbook of Epistemic Injustice』の内容を説明するとしたら、全文検索機能を駆使してキーワードを追いかけ、根拠となる記述を文中から探すでしょう。

私の頭の中にはすでに構造ができあがっているので、その構造に関連するデータを調べるのに時間はかかりませんし、しかもランダムアクセスが可能なので、順番に読み返さなくても読みたい部分に直接跳ぶことができます。ですからこの検索機能を使えば、必要な部分をすぐに見つけられるのです。

大切なのは、判断してはならないのではなく、判断を下すのは一区切り読み終えてからだということです。相手があなたに何かを伝えるつもりで準備を整えているのに、いざ二言三言話したところであなたが口を挟んだら、その人が本当に伝えたいことを理解できるわけがありません。「なるほど」「分かった」などと相槌(あいづち)を打ったところでそれは噓(うそ)です。脳内補完であり、幻想です。

だからといって何がなんでも一冊読み終えてから判断しなさいと言っているわけでもありません。ただ、せめて半分、あるいは一区切り読めば、作者の主な論点が明らかになっているかもしれないのです。そうすれば客観的に、中立的な判断を下せるでしょう。相手の話の腰を折りさえしなければ、相手や執筆者の文脈を完全に理解して判断することは、極めて簡単なのです。

天才IT大臣オードリー・タンが初めて明かす 問題解決の4ステップと15キーワード
著者について
著 オードリー・タン(Audrey Tang)
唐鳳。台湾デジタル担当政務委員(閣僚)を経て、2022年8月に台湾デジダル発展省大臣に就任。1981年台湾台北市に、新聞社勤務の両親のもとに生まれる。幼少時から独学でプラグラミングを学習。14歳で中学校を自主退学、プログラマーとしてスタートアップ企業数社を設立。19歳のとき、シリコンバレーでソフトウエア会社を起業する。2005年、プログラミング言語Perl6開発への貢献で世界から注目を浴びる。トランスジェンダーであることを公表。2014年、米アップルでデジタル顧問に就任、Siriなどの人工知能プロジェクトに加わる。その後、ビジネスの世界から引退。蔡英文政権において、35歳の史上最年少で行政院(内閣)に入閣、デジタル政務委員に登用され、部門を超えて行政や政治のデジタル化を主導する役割を担っている。2019年、アメリカの外交専門誌『フォーリン・ポリシー』のグローバル思想家100人に選出。台湾の新型コロナウイルス対応では、マスク在庫管理システムを構築、感染拡大防止に大きく寄与。

著 黄亜琪
ジャーナリスト・作家。『今周刊』(台湾金融メディアアクセス数No.1)『商業周刊』(台湾金融メディア知名度No.1)、『経理人月刊』、天下グループ(台湾で最初に創設された金融動向メディアグループ)の各種雑誌で主筆、編集長を歴任。取材歴20年超。金融業界、インタビュー、テクノロジー、文化、教育など多岐にわたる分野で手腕を発揮している。

訳 牧髙光里
日中学院と南開大学で中国語を学ぶ。帰国後はステンレス意匠鋼板メーカーの海外事業部で貿易事務、社内通訳・翻訳等に携わったのち、西アフリカのマリ共和国で村落開発に関わる。帰国後は出産と子育てを経て、現在は産業翻訳と出版翻訳で活動中。

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