(本記事は、オードリー・タン(Audrey Tang)氏の著書『天才IT大臣オードリー・タンが初めて明かす 問題解決の4ステップと15キーワード』=文響社、2021年12月9日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
AI(人工知能)とCI(集合知)を結びつけて活用する
AI(人工知能)はここ数年のトレンドワードだ。AIが生活や仕事に無限の想像力をもたらしてくれる一方で、仕事を奪われるのではないか、プライバシーが侵害されるのではないか、社会に構造的な問題が生じるのではないかとおびえる人も多い。
だが、オードリーは「AI時代が到来しても恐れる必要はない、ロボットはクリエイティブな仕事を担うことができないため、むしろ人が仕事を選べるようになる」と考えている。公共の価値と公共の利益の重視に基づき、彼女はCI(Collective Intelligence, 集合知)をAIと結びつければ、労働者はAIの力を借りて仕事の質を向上させることができると主張しているのだ。
「『人工知能』が生まれる前は『集合知』に依存していましたし、冗談で『労働者知能』なんて言っていた人もいましたよね」とオードリーは笑う。
集合知とは何か? 簡単な例を挙げよう。例えば教師が生徒に課題を出す際、「まずは君たち同士で添削し、間違いをチェックし合って内容を理解しなさい。そのあとにグループリーダーが確認してから提出しなさい」と指示したとする。確認作業を生徒同士で行うと、生徒はほかの人の考えをより深く理解できるうえ、グループリーダーは最終的に教師に課題を提出する前に、共通認識をまとめる役割を担うことができる。
つまり、手間のかかることを一つのグループに任せると、やり終えるまでの間にすべてのメンバーが学び、貢献し合い、さらに達成感を味わうこともできるのだ。このプロセスは参加者全員が完成予想図を構成するパズルの1ピースとなって、成果物の完成度をより高めるために邁進(まいしん)する一連の作業だ。こうすることで個人が成長を遂げると同時に、未来も「増幅(エンパワー)」されてゆく。
ウィキペディアは世界規模で知性を集合させた代表的な例だろう。台湾でいうと、民間のシビックテックコミュニティg0v(ガブゼロ、台湾零時政府)が設立・運営する法令討議プラットフォームvTaiwan から、公的部門である行政院のJoin(公共政策インターネット参加型プラットフォーム)までのすべてが集合知の結晶と言える。
そしてオードリーの執務室が置かれている「パブリック・デジタル・イノベーション・スペース(PDIS)」は、情報の透明化や、市民の意見の聞き取りとそのシェアを実践するためのスペースとして、集合知の価値を十分に示している。
唐鳳。台湾デジタル担当政務委員(閣僚)を経て、2022年8月に台湾デジダル発展省大臣に就任。1981年台湾台北市に、新聞社勤務の両親のもとに生まれる。幼少時から独学でプラグラミングを学習。14歳で中学校を自主退学、プログラマーとしてスタートアップ企業数社を設立。19歳のとき、シリコンバレーでソフトウエア会社を起業する。2005年、プログラミング言語Perl6開発への貢献で世界から注目を浴びる。トランスジェンダーであることを公表。2014年、米アップルでデジタル顧問に就任、Siriなどの人工知能プロジェクトに加わる。その後、ビジネスの世界から引退。蔡英文政権において、35歳の史上最年少で行政院(内閣)に入閣、デジタル政務委員に登用され、部門を超えて行政や政治のデジタル化を主導する役割を担っている。2019年、アメリカの外交専門誌『フォーリン・ポリシー』のグローバル思想家100人に選出。台湾の新型コロナウイルス対応では、マスク在庫管理システムを構築、感染拡大防止に大きく寄与。
著 黄亜琪
ジャーナリスト・作家。『今周刊』(台湾金融メディアアクセス数No.1)『商業周刊』(台湾金融メディア知名度No.1)、『経理人月刊』、天下グループ(台湾で最初に創設された金融動向メディアグループ)の各種雑誌で主筆、編集長を歴任。取材歴20年超。金融業界、インタビュー、テクノロジー、文化、教育など多岐にわたる分野で手腕を発揮している。
訳 牧髙光里
日中学院と南開大学で中国語を学ぶ。帰国後はステンレス意匠鋼板メーカーの海外事業部で貿易事務、社内通訳・翻訳等に携わったのち、西アフリカのマリ共和国で村落開発に関わる。帰国後は出産と子育てを経て、現在は産業翻訳と出版翻訳で活動中。
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