食品産業新聞社
(画像=食品産業新聞社)

(一財)食品産業センターはこのほど、「めん製造業での食品ロス削減対策」セミナーを開催した。

2020年度の「事業系食品廃棄物等」の発生量は1624万t(推計、農林水産省HPより)で、うち売れ残りや規格外品、返品、食べ残しなどの「事業系食品ロス(食品ロス=本来食べられるのに捨てられている食品)」が275万t。なお、同センターが製麺業者を対象に実施したアンケート(N=23)では、廃棄物などの発生比率は4.5%(製品生産量に対する重量比率)となった。発生するのは主に製造工程(3.6%)で、そのうち原材料(1.2%)、半製品(1.5%)の段階で発生している。

食品廃棄物・食品ロスの削減や利活用に向けた取り組みとしては、半製品の冷凍保存や、規格外品を活用した新商品の開発などがある。今回は(株)Beer the First の坂本錦一代表が、廃棄間近の麺などをクラフトビールにアップサイクルする取り組みを紹介した。

〈坂本錦一代表〉

【事業紹介】
当社は、廃棄予定の食品をクラフトビールに生まれ変わらせる事業を手掛けている。前職のANAフーズ(株)時代に食品ロスの現状を目にしたことが創業のきっかけだ。

クラフトビールの定義は〈1〉大手メーカーから独立したビール造りをしていること〈2〉1回の仕込み量が20kL 以下で、醸造者が生産工程を管理できるよう少量に抑えていること〈3〉伝統的製法で造られている、または地域の特産品などを原料に取り入れたオリジナリティがあり、地域に根差していること――とされている。

大手メーカーのビール市場が縮小する一方、クラフトビール市場は年々拡大。成長を続ける市場にアップサイクルを持ち込むことで、フードロス削減をはじめとした持続可能な社会の実現や、CO2の排出量削減、食料自給率の向上といった効果が期待できる。

当社は製麺所やベーカリー、小売店、地方自治体などから廃棄間近の食品をビールの副材料(麦芽の代替)として集め、それらを委託製造先の醸造所で商品化し、出荷している。

【麺のアップサイクル】
まず、廃棄間近の麺は存在するのか、ヒアリングを実施。数ある製麺所の中で、「浅草開化楼」(東京都台東区)を選んだ。その結果、麺の切れ端の部分が1日に10kgほど廃棄になることが判明。

町のラーメン店や中華料理店、定食屋などを含めて、日本で一番馴染みがあるラーメンは醤油味であり、最も好きなラーメンの種類のアンケートでも醤油ラーメンが1位であることから、「醤油ラーメンに合うクラフトビール」を目指すことに。

その中で、醤油ラーメンと相性の良い海苔を香りづけに使うことを決めた。せっかく副原料に海苔を使うなら、製造過程で出る切れ端や訳アリの海苔を使いたい。全国の海苔店に問い合わせ、「山本海苔店」から海苔を提供していただいた。

こうして誕生したのが、クラフトビール「華麺舞踏会」だ。本来使用する麦芽の15%を麺で代用した。販売はクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で実施。支援金額104万6000円を獲得し、目標達成率209%で着地することができた。

【アップサイクルの現状】
▽(株)スナックミーのアンケート調査によると、2166人の回答者のうち「アップサイクルという言葉を聞いたことがある」のは12.1%。アップサイクルは単なる再利用ではなく「より価値が高いものを生み出していく」という意味合いがあるが、そこまで理解している人は8.4%にとどまった。また、「非アップサイクル商品と比べ価格が高くても、アップサイクル商品を購入する」と回答した人は54.4%だった。

SDGsへの取り組みに対し、国や自治体の助成金や補助金が増えてきている。当社の取り組みも、東京都の「フードテックを活用した食のアップサイクル促進事業」に採択された。支援を活用することで、低リスクで新事業に取り組むことが可能となっている。

【まとめ】
フードロスやSDGsを前面に出しすぎると、最初の1本は買ってもらえても、リピートにはつながりにくいと感じる。やはり、フードロスやSDGs感を凌駕する付加価値が必要だ。

アップサイクルの市場はまだ小さいが、SDGsへの認知度は急速に向上している。マスコミも積極的にアップサイクルを取り上げており、国・自治体もバックアップを進めている。一方、クラフトビールの商品化はそれほど難しくないものの、販売方法には工夫が必要だ。

〈米麦日報2023年3月23日付〉