沖縄県では、コロナ禍の新たな沖縄観光の在り方を考慮する中、リモートワーク等に象徴される「働き方」や「生活様式」が大きく変化する社会状況を加味し、長期滞在型で沖縄に滞在してもらうために新たな観光ツールとして「沖縄ワーケーション促進事業」を実施している。
今回、首都圏で企業の働き方や社員のwell-Beingを研究・勉強する7社の企業の従業員に協力してもらい実施した「沖縄ワーケーション実証体験」(2022年10月)について、レポートをまとめた。
心身の健康を保ち豊かさを実感できる生き方の指針としての「ウェルビーイング well-being」の考え方は、コロナ禍において日本ではますます注目を集め、今後は個人にまで浸透する概念であると注目されている。
沖縄ワーケーション実証体験は、2022年10月17日~19日の2泊3日で行われ、10月17日は、シンボリックアクション勉強会(ガンガラーの谷)の後、夕食(那覇市)。10月18日は、各自ワーケーションを行い、聖地リトリートを琉球セラピストが案内した。夕食では地域芸能(南城市)も堪能した。10月19日は、琉球薬膳料理、ブルーゾーン料理の講座(那覇市)を行った。参加企業は、MS&ADインターリスク総研、住友生命、デロイトトーマツグループ、日本経済新聞社、丸井グループパーソルホールディングス、三井不動産、三井住友トラストホールディングスの7社。参加人数は20代~50代の男女23人で行った。
実証体験の結果、40代女性管理職は、「沖縄は、バケーションやリゾートのイメージが強かった期待が大きかったが、健康食も体験でき、社内のコミュニケーションも良くなった上に参加した企業同士のつながりが強くなり、東京に帰ってきても、連絡を取り合うなど特別な関係が構築できた」とコメント。30代IT系男性は、「沖縄に滞在しながら、会議など仕事をしていると、5分の休憩でも非日常なリフレッシュができ、仕事がはかどった」と述べていた。40代管理職男性は、「沖縄にはより良く生きている地元の人のおおらかさを感じられ、現代社会に不足している“つながり”がある。社会のニーズである、well-Beingは沖縄が聖地だといっても過言ではない」と語っていた。30代女性会社員は、「プログラム全体を通して、Personal Well-beingに資するものとして、自分に向き合うことによって得られるもの、他者との対話により得られるものがあると気が付いた。沖縄は両方を体感することができ、とても有意義だった」とコメントしていた。50代男性管理職は、「沖縄がアジア唯一、世界五大長寿領域“ブルーゾーン”の一つと初めて知ったが、おおらかで幸せそうな地元の人々に触れ合い本質的なWell-beingが沖縄にはあると感じた」と述べていた。
参加者の多くがワーケーションの滞在地として重視するのはWi-Fiなどの設備環境だけではなく「都会でできない時間の過ごし方」、「リフレッシュ/気分が転換できる」、「食や体験を通して健康になれる」など精神的なメリットを重視する声が多かった。
琉球大学国際地域創造学部 教授の荒川雅志先生は、「23年前に福島県から沖縄県に移住して、百歳以上の長寿者の研究を続けており、計1813人の疫学研究で長寿の生活習慣が明らかになってきた。研究著書で百歳以上が多い世界5つの地域は『ブルーゾーン』と言及されており、イタリア、米国、ギリシャ、コスタリカのほか沖縄県が該当し、5つの地域には共通したルールがある。運動、食事など生活習慣のほか、生き方だ。はっきりした人生の目的を持ち、スローライフを楽しむ。家族を大切にすることも長寿に寄与している。最後は人、地域、社会、自然との様々なつながりだ。このつながりこそ健康長寿の秘訣。ポストコロナ時代のライフスタイルであると提案したい。沖縄の観光ツーリズムも研究しているが、SNS(交流サイト)などデジタルテクノロジーの発展によってリアルに人と出会う旅は再評価された。都市圏のビジネスパーソンも長寿のルールである『ウェルネスライフスタイル』を実践している。その人たちは観光旅行でも保養や滋養を求めるだけなく、自然や地域コミュニティーと結びつき、新しい発見や自己実現を目指す。リゾート地、沖縄が果たす次世代の旅、観光とは旅行客が自らをリボーン(再生)できる場所となることだ。都市部への必要な情報発信は例えばリゾートあれば非日常、異日常での発見といった高付加価値な呼びかけだろう。訪れる人が自然、地域のつながりを通じて新しい生き方が描ける『ライフスイル・デザインの島』こそが沖縄にある最大の価値だ」との見解を示していた(ワーケーション会議 in 沖縄Next(2022年11月開催)から抜粋)。
予防医学研究者 Well-being for Planet Earth 代表理事で医学博士の石川善樹先生は、「仕事と休暇はどちらでも学びの機会がある。ワーケーションに向く人はきっちり区別しない人だ。沖縄はバケーションの色彩が強いからこそ、真面目な日本人が来ればバランスが良くなり、新しいイノベーションが起きやすい。沖縄の最大の魅力は人だ。関係を長く続けるには地元のプレーヤーとの交流が必要だ。来県者と地元のつながりの場をつくることがワーケーションを広げるきっかけになる。ただ目的地に向かうより、多様な場所に行く人が地元でつながりを生みやすい。研究でイノベーティブになる時間は移動中が効果的ということが明らかになっている。飛行機で来県し、県内でも移動時間がかかるが、それは発想の時間と捉えると物事の見方が変わる」とコメントしている(ワーケーション会議 in 沖縄Next(2022年11月開催)から抜粋)。