「長期間にわたるテレワークは、ヒトの心やパフォーマンスにどのような影響をもたらしているのだろうか?」という疑問をきっかけとしてスタートしたこの連載では、「従業員一人ひとりが価値を最大限に発揮し、企業の持続的成長に貢献できるテレワークとは何か」を考えます。
第3回となる今回は、前回までと同様にアンケート及びインタビューを通じて明らかになった、マネジャー(現場をマネジメントするミドルマネジャー)の立場からの重要なポイントについて取り上げます。(前回はこちら)
※本連載はグロービス経営大学院に在籍した3名(中山、林、栗原)が、舞田講師の指導の下、研究プロジェクトとして取り組んだ成果をまとめ、この研究結果を広く世の中に還元することを目的としています。
目次
テレワークマネジメントの3つの要諦
前回までも参照してきたアンケートとインタビューを分析した結果、現場をマネジメントしていく上での重要なポイントは、大きく分けて次の3つがあることが分かりました。
- 従業員を信頼した適切なマネジメントを行うこと
- 組織を運営する仕組みとして、適切なコミュニケーションの機会とルールを設計すること
- 新しく職場に加入した仲間(新入社員、中途採用社員、異動者等)を職場に馴染ませるための仕掛け作り(教育やチームとしての一体感の醸成)をすること
では、より具体的にはどのような課題と対策があるのでしょうか。以下で1項目ずつ説明します。
1.従業員を信頼した適切なマネジメントを行うこと
複数の回答から得られたポイントとしてまず挙げられるのは、『マイクロマネジメントと部下に受け取られるマネジメントは部下の受け止めが非常に悪い』ということです。
具体的には、
- 上司からのメールに1時間返信しなかっただけで怒られた
- 全従業員を集めたWeb会議を顔出し強制で開催。会議の目的が部下を監視することだった、という話が部下に漏れ伝わった結果、職場から大きな非難の声があがった
というような回答が確認でき、マイクロマネジメントに対する強い不満がうかがえました。
一方、
- 上司からあまり干渉されずに仕事をやりたいようにやらせてもらえた点はよかった。ただ、上司との接点が減ったのは寂しかった
という意見もあり、適切な距離感をもったマネジメントが不可欠なことが分かりました。
では、マイクロマネジメントにならずに、適切な距離感を持ったコミュニケーションを行うためにはどうすればよいのでしょうか。具体的な取り組みとしては、以下のようなものがありました。
- 必要な時に話しかけやすいようにWeb会議システム上に出入り自由なマネジャー部屋を作る。
- 定期的に双方向での情報共有の場を設ける。
※上司がメインとなって行う単純な進捗確認だけのコミュニケーションはしない。 - 一人一人の状況や力量に合わせたコミュニケーションを行う。
- 部下の経験が浅い場合や苦手な業務に取り組む場合には丁寧な説明を行った上で進捗を密にフォローするが、自身の判断で行動できる部下には思い切って仕事を任せる。
これらの取り組みに共通しているのは、『マネジメントされる側である部下の主体性を阻害しない』ということです。
ただし、同じような取り組みを行っても上手くいった組織と上手くいかなかった組織があります。色々と試してみながら自組織にフィットした方法を選択することが重要です。
とはいえ、どのように実践していけばよいのかとお悩みの方に提案したいのが『遠距離恋愛している気持ちで部下をマネジメントする』というものです。
遠距離恋愛を上手く続ける上では相手を信頼することが不可欠です。また、コミュニケーションの上では、頻度が多すぎたり、相手が望まない手段を使ってしまったりすると、相手が束縛されていると感じ関係が上手く続かない要因の一つとなってしまいます。一方でコミュニケーションの量や質がお互いの望む頻度や手段よりも低下してしまうと、反対に気持ちが冷めてしまうことにつながります。一方、お互いがリアルに会える時間は、非常に限定された時間であることから目的をもって過ごす時間になります。
このような遠距離恋愛での相手との接し方は、なかなか会えないテレワーク時代におけるマネジメントを考える上で参考にできるのではないでしょうか?
テレワーク時のマネジメントにお悩みの方は、是非一度自分のマネジメントの在り方を遠距離恋愛に置き換えて振り返ってみてはいかがでしょうか?
2.組織を運営する仕組みとして、適切なコミュニケーションの機会とルールを設計する
テレワークの場合、意図的にコミュニケーションの機会を設けなければ、コミュニケーションの量が減り、質が下がってしまいます。これはアンケート結果(下図)からも明らかです。
関係者と適切な意思疎通を図り業務を進めるためには、コミュニケーションの質と量の変化を補う必要があります。そのために行われている取り組み事例としては、以下のようなものがありました。
定期的なコミュニケーション場面を設定する
朝会(今日の予定やToDoの共有等)/夕会(今日やったこと。困っていることの共有)やランチMTG、コーヒーブレイクなどの取り組みを仕組み化し、意識的にコミュニケーション回数が増やせるようにした。
業務の見える化を促進する
組織の内外から依頼を受けた仕事内容や納期を見える化することで、お互いの業務状況を分かりやすくし、また、業務シェアを実施しやすくするように取り組んだ。これによって「相手の状況が分からない」というコミュニケーション量の減少による不具合を補うと共に、業務内容を具体化し、「業務シェアを実施しやすくする」というコミュニケーションの質を上げる効果が期待できた。
自組織外のメンバーとのプロジェクト機会の創出する
Web会議ツールを利用して、日頃の業務で接点が無い人(特に遠方の人)とプロジェクトを行う機会を意識的に設けた。これにより社内コミュニケーションの機会の減少を補うと共に、社内ネットワークの構築や知見の獲得を狙うという質の高いコミュニケーションの実現を目指した。
上記のような取り組みが効果を上げている職場がある一方で、『雑談タイム』を設けてコミュニケーション機会の確保に取り組んだものの『雑談は意図的に出来るものでないことが分かり、あまり効果が無かった』という回答もありました。コミュニケーションの促進に取り組むにしても、自組織の風土にあった方法を選択することが重要であることが伺えます。
3.新しく職場に加入した仲間を職場に馴染ませるための仕掛け作りをする
最後に『新しく職場に加入した仲間(新入社員、中途採用社員、異動者等)を職場に馴染ませるための仕掛け作り(教育やチームとしての一体感の醸成)』という点についても、複数の方から問題提起と対策を伺うことが出来ました。 具体的には以下のような例がありました。
新しく職場に加入した人向けの、やるべきことを明確にした教育プログラム
- 自社で教育用の動画やアプリを作ってお客さんとの話し方のシミュレーションが出来るようにした
- (小規模な会社で)新人育成のマニュアルが無いので、1時間/人くらいで各自の業務経験や強み等を紹介してもらう場を設けた
- 新しく職場に加入した人に対して先輩従業員が毎日MTGすると共に、用事が無くても毎日Zoomや電話をし『何か問題が無いかを確認した』(先輩従業員から連絡すると必ず何か困りごとが出てきた。)
- 『初日』、『2日目~1週間』、『2週間後』、『1か月後』とやるべきことをチェックリスト化して順々に消化していく仕組みを作った。また、1か月後には本人とマネジャーがMTGを設定し、状況を共有した
社会人経験が浅い新たな従業員向けの、手厚すぎるくらいのつもりでの教育
- Web会議ツールをつなぎっぱなしにしたうえで、先輩従業員が電話している様子を聞かせて電話のかけ方を指導した。反対に新入社員が電話している様子をWeb会議ツール越しで先輩社員が一緒に聞くことで正しく対応出来ているかも確認した。
- 根回しの仕方等を覚えさせるために関係するメール全てを新入社員にもBCCで入れた。
自分と周囲の人がお互いによく知ることが出来るようにするための、意図的に「伝える」場面を設けた取り組み
- 中途入社者が自分の特徴を他の人に知ってもらうための場を入社後1か月のタイミングで設定した。
- 組織図を見て片っ端からオンラインでの1オン1を依頼。実施時には社内SNSに公開されている情報(SlackやLinked IN等)も参考にして共通の話題を事前準備した。
- 自己紹介シート(プライベート、仕事、人生の目的等を記載)を会社として準備し、みんなが見られる場所に保管して共有した(入社前の面接からそういう取り組みを行っていることを伝えて、抵抗感が無い人のみ入社してもらっている)。
- ピアボーナス制度(感謝の気持ちを伝えるツール)を通じて、誰がどのようなことで感謝されているかが分かるので、その人の強みが分かるようになった。
これまでのマネジメントスタイルにとらわれない変化を
ここまでテレワーク時におけるマネジメントの課題と、実例を通じたマネジャーにとってのポイントを紹介してきました。マネジメント経験をお持ちの方にとっては、これまでの価値観を変えて取り組む必要がある項目もあったかもしれません。
テレワークにおけるマネジメントの力は今後、多様な背景をもち多様な働き方を希望する人材を活用するために不可欠な能力となります。適切なマネジメントが実現出来なければ、信頼が得られずに人材が離れていくこととなるのです。これを防ぐためには、自分自身のマネジメントを、相手を信頼することを前提とした上で、コミュニケーション機会を意識的に作るようなスタイルに「覚悟をもって」変えていくことが求められていると言えます。
今回はマネジャーの観点からテレワークに対する取り組みを紹介しました。最終回となる次回は、個人という観点からテレワークに対してどのような取り組みが必要かを紹介致します。
(執筆者:舞田講師 研究プロジェクトメンバー(2021年卒)・舞田 竜宣)GLOBIS知見録はこちら