食品産業新聞社
(画像=食品産業新聞社)

農林水産省は3月1日付で、「水稲栽培による中干し期間の延長」がJ-クレジット制度の方法論として承認されたと発表した。

【J-クレジットとは】

温室効果ガス(GHG)の排出削減・吸収量を「クレジット(売買対象)」として国が認証する制度がJ-クレジットだ。例えば生産サイドで省エネ設備を導入するなど、国が定めた「方法論」に沿って取り組みを進め、プロジェクト登録・クレジット認証のステップを経ると、「対策を実施しなかった場合の排出量(ベースライン)」と「対策した場合の排出量」の差(削減・吸収量)を大手企業などの買い手に販売できるようになる。従来、国が定めた方法論は省エネ・再エネ設備の導入などが中心で、農業分野、特に水田作では「バイオ炭の農地施用」しかなかった。

【中干し延長承認の背景】

CO2に代表されるGHGだが、日本の農林水産分野では4割超をメタンが占めている。その半数以上は稲作由来によるものだ。メタンの総排出量は欧米より極めて低水準にあるものの、「国際的なメタン削減の圧力も高まりつつある」(農水省)のが実情。政府が2021年に閣議決定した「地球温暖化対策計画」の中では、2030年に中干し延長などの取り組みを通じて104万t-CO2分のメタンを削減する目標を立てていた。

【水田から出るメタンと中干しの関係】

圃場ではメタン生成菌が土壌中の有機物を分解することで、水稲を経由しながら空気中にメタンが放出される。このメタン生成菌は地温が上昇する分げつ期ごろに活発な働きを見せる一方、土壌中の酸素が多ければその活動は緩慢となり、結果的にメタン排出量も減少する。つまり、中干し(落水)によって田面を乾かし、土壌まで酸素を行き渡らせれば、メタン削減に繋がる。

【承認された中干しの方法】

中干し期間を「直近2か年」以上の平均よりも「7日間」以上延長することで、一定のメタン削減が認められる。ここで必要なのは「直近2か年以上」の中干し期間が分かる生産管理記録だ。「基本的には2年分で構わないが、過去データが無ければ、今年(5年産)から(普段通りの)中干し期間を記録してもらう必要がある」(農水省)。

また、「7日間以上」の中干し延長によってどれくらいのメタンが削減されるかは、その地域や土地の排水性、施用有機物などによって算定方法が変わるため、それらの裏付けとなるデータ・資料も必要。メタン排出量は気象条件によって異なり、土地改良が行われた(排水性の良い)土地は排出量が減るからだ。中干し期間を1週間延長することでメタン排出量が約3割削減できるといい、全国約3割の水田で取り組めば、政府計画104万t目標を達成できる見込み。ただし、中干し期間を延長しすぎる(幼穂形成期に突入する)と収量に影響が出るので要注意だ。

【メリットと展望】

先んじてスタートしている森林系のCO2吸収クレジットの平均相場(J-クレジットでの相対取引価格)を機械的に当てはめた場合、中干し延長(1回)のクレジット販売価格は10a当たり1000円~3600円程度となる見込みだ。既に農業団体や水管理システム・営農支援アプリ系企業から「農家のクレジットをとりまとめて売っていきたい」という要望も出ているとのこと。

個別農家でも申請は可能だが、先述の想定価格と申請にかかる手間や認証までの期間を踏まえると、プログラム型と呼ばれるグループ単位での申請のほうがメリットはありそうだ。過去データが残っていれば、ひとまず今年から中干し延長を実施した後、12月末までにプロジェクト登録申請することも可能。「バイオ炭は新たな資材として購入・投入するなど『ハードルが高い』という声があったが、中干し延長は追加的な手間・コストが少なく、取り組みやすい方法だ」(農水省)。

〈米麦日報2023年3月3日付〉