(本記事は、マーク・ブル氏、吉田 洋一郎氏の著書『最大飛距離が伸びる!ゴルフスイング解剖生理学』=池田書店、2022年7月13日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
ゴルファー特有の骨格のゆがみが上体を起き上がらせる
ポスチャーが動作に影響を与える例として紹介したいのが、ゴルファーにはよくある「骨格のゆがみ」によるスイングの変化です。人間の骨格は、本来、背骨が垂直になっていて、それに沿って胸郭と骨盤が一直線に並んでいるものなのですが、胸郭と骨盤の位置がずれ、背骨とのアライメントが悪い人が、一定数います。具体的には、背中側から見たときに、胸郭が左にずれ、骨盤が逆に右にずれていて、背骨がカーブを描いている人のことです。
なぜ、このように骨格にゆがみが生じるのかについては、様々な可能性がありますが、ゴルフのスイングという一方向への運動を長く続けることも、その要因のひとつと考えられます。また、解剖学的には、体の右側のほうにより多くの臓器が配置されているために、横隔膜の右半分が厚くなり、ゆえに呼吸で息を吸い込む際、左肺のほうが大きくふくらむことが関係しているという説もあります。いずれにしても、初期姿勢において、骨格の配置にゆがみがあるということは、当然、スイングにも影響が出ることは避けられません。
胸郭の回りにくさを、背骨の伸展でカバーする
前項で紹介した、胸郭が左にずれている人の場合、アドレスで右肩がかぶった形になりやすく、テークバックで胸郭を右方向に回転するのに、かなり不利な骨格配置になっています。では、どうやって回転するかというと、骨盤を右方向にスウェーさせつつ、背骨を伸展させて、上体を反らせるようにして回ります。「ブル3D」で、実際のゴルファーのスイングを分析したデータを見てみると、ハーフウェイバック(テークバックでクラブが地面と平行になる地点)では、骨盤がターゲットと反対方向に約5センチずれることがわかります。また、アドレスで骨盤と胸郭の角度の差は32度程度で、骨盤に対して胸郭が「前」に傾いている状態なのですが、スイングを進めていくと、トップでは両者の角度が逆になり、骨盤に対して胸郭が「28度ほど後ろ」に傾く形になっているのがわかります。
実はこのデータは、私の友人でもある、世界ランクトップ80位に入るプロゴルファーのものです。彼は非常に優れたボールストライカーで、運動技能にも長けています。データだけを見ると、スウェーや上体の伸び上がりがあるので、「よくないスイング」のようにも見えますが、初期姿勢での骨格のゆがみを考えると、これが実現しうる最善のスイングといえます。このように、一般的にスイングのエラーととらえられる現象も、何か理由があってそうなっているのであれば、無理に修正する必要がないケースもあります。
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