2023年2月
理事研究員 清水 豊
拡大するソーラーシェアリング
脱炭素に向けた潮流が世界的にも高まってきており、太陽光、風力、地熱、中小水力、バイオマスといった再生可能エネルギーは、温室効果ガスを排出せず、国内で生産できることから、エネルギー安全保障にも寄与できる有望かつ多様で、重要な低炭素の国産エネルギー源といえる。
こうした世界的な情勢を背景に、農地に支柱を立てて上部空間に太陽光発電設備を設置し、太陽光を農業生産と発電とで共有する取組(営農型太陽光発電、若しくはソーラーシェアリング)にも注目が集まっている。ソーラーシェアリングは、脱炭素という環境面だけでなく、収入を安定させることが難しい農業にとって、作物の販売収入に加え、売電による継続的な収入や発電電力の自家利用等による農業経営の改善が期待できる取組手法としても期待が寄せられている。
ソーラーシェアリングは、営農の適切な継続と農地の上部での発電をいかに両立していくかが取組のポイントであり、発電設備の設置には農地法に基づく一時転用の許可が必要となる。2013年に農地転用許可制度に係る太陽光発電の取扱いを明確化して以来、ソーラーシェアリング設備を設置するための農地転用許可実績は2020年度までの8年間で累積3,474件、872.7haにまで達している。太陽光パネル下部の農地で生産されている農作物は様々で、農水省実施の調査によると、2020年度末で存続しているもののうちアンケート回答があった3,313件数ベースでは、米、麦、大豆などの穀物系作物が299件(9%)、白菜、小松菜、ネギ、ミョウガ、イモなど野菜類が1,163件(35%)、柑橘、ブルーベリー、ブドウなどの果樹類が461件(14%)、サカキ、シキミ、センリョウなどの観賞用植物が994件(30%)、その他(茶、飼料作物、花卉類等)が396件(12%)となっている。野菜等の栽培が盛んで35%と最も多く、次いで観賞用植物が30%と続いている。野菜等のなかでもミョウガが多く、観賞用作物などが太陽光パネル下部で栽培されるケースが多くなっているのは、比較的暗所での栽培が可能であるため、遮光率を高くすることが可能となり、単位面積当たりの太陽光パネルを増加させることが可能なためである。
ソーラーシェアリングの課題
ソーラーシェアリングは拡大が続いているものの課題も多く、特に農地転用が一つの関門となっている。全国の市町村に設置されている農業委員会のソーラーシェアリングに対する考え方は地域により濃淡があり、すでに多くのソーラーシェアリングが導入されている地域では、好意的に受け止められている。一方で、地域により農業委員会の許可が下りにくいケースもあることが課題となっている。当初定められた農地転用許可制度に係る太陽光発電の取扱い規定では、一時転用許可期間は3年以内とされ、再申請により更新可能とはいえ、発電設備投資に伴う長期融資を受けづらいことも課題の一つである。また、太陽光パネル下部の農地で生産される農作物は、周辺地域の標準収量の8割以上の確保が必要となるなど、数多くの問題が指摘されてきた。
こうした業界関係者からの声に応える形で、2018年には農地転用許可の取扱いを見直し、認定農業者等の担い手が営農する場合や荒廃地を活用する場合等には一時転用許可期間を3年以内から10年以内に延長され、さらに2020年度末には、荒廃農地を再生利用する場合は、概ね8割以上の単収を確保する要件は課さず、農地が適正かつ効率的に利用されている否かによって判断するなどの見直しが行われてきた。
ただ、農地転用許可制度に係る太陽光発電の取扱いについて、段階的に見直しが行われているとはいえ、太陽光発電のFIT価格の下落により、投資回収に10年以上(15年程度)掛かるため、仮に、「担い手農家(※認定農業者)による営農」、「農用地区域内を含む荒廃農地を活用」、「農用地区域以外の第2種農地もしくは第3種農地を利用」などといった条件をクリアし、10年間の農地転用が認められたとしても、それを超える融資を受けにくい状況に変わりはない。また、「周辺地域の標準収量の8割以上の確保」という条件についても、荒廃農地を再生利用する場合には条件が緩和されたとはいえ、周辺地域で栽培されていない作物を栽培する場合、反収(作物の1反当たりの収量)10割の基準がそもそもなく、適正な営農が継続的に行われているかの判断根拠が不明瞭との指摘もある。
その他、遮光率が30%程度であれば、一般的には多くの作物の生育には問題が無いものの、荒廃農地を活用した場合は十分な土壌改良をしないと生育が悪い場合も発生する。
今後のソーラーシェアリング
このように課題、問題点も多く、これからの制度整備や柔軟な運用・支援など、改善すべき点も多いソーラーシェアリングであるが、一般の野立て太陽光発電にはないメリットも多い。例えば、パネルは2m以上の高所に設置されることから、パネル上に影ができないことや、また下部で作物を栽培し、農業従事者が管理しており、雑草管理が容易という側面もある。
2020年度末現在、営農型太陽光発電設備の設置者は、主として発電事業を営んでいる発電事業者が設置したものが63%、農業者や農地所有者が設置したものが37%と、発電事業者による設置が多数を占めている。ただ、発電事業者が設置している場合でも、売電収入の一部が、営農維持費や賃借料等として農地所有者や農業者に還元されているケースもあり、太陽光発電事業者と営農者の双方にメリットがある。
今後のソーラーシェアリングの在り方としては、太陽光発電事業者と営農者という枠組みを超えて、地域や農業エリアと調和したモデル導入を促すことが重要となる。農村エリアや都市近郊など、全国に広く分布する農地上部に太陽光発電設備を設置するという立地上の利点を活かし、地域の再生可能エネルギーと自営線・系統配電線を活用することで、下部農地や近隣農林漁業関連施設、公共施設等で発電した電力利用を可能とするモデルなど、多様な発電主体による分散化電源の1つとして、地域マイクログリッドに取り入れていく。各地で発生する大規模災害時・緊急時のエネルギーの安定供給、レジリエンス向上に向けた取組みモデルの中で、活かされていくことが今後のソーラーシェアリング普及にとっても重要となる。