僕たちはみんなで会社を経営することにした。
(画像=alotofpeople/stock.adobe.com)

(本記事は、久本 和明氏の著書『僕たちはみんなで会社を経営することにした。』=クロスメディア・パブリッシング、2021年10月29日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

大人数での対話技術

何か一つのやり方が正解ということはありません。ファシリテーションをネットや本で調べると、研究している方がたくさんいます。私も最初はそうでしたが、まずは見様見真似で、実践を通じて試行錯誤をしていきましょう。

自分たちの好きなテーマごとに集まって対話する「OST」(オープン・スペース・テクノロジー)や、対話したら解散して、違うグループで対話していくことを繰り返して、全体で対話されたことが混ざりあっていく「ワールドカフェ」。全体の合意を最終意思決定者に委ねて進める「すごい会議」。オランダのオルタナティブスクールのイエナプランでよく行なわれている、お互いに顔を見あって輪になり、自由に対話する「サークル対話」。みんなで意見を出して本音を言いあい、考えをすりあわせていくだけのものから、合意をとってプロジェクトを前に進めるものまで、その種類は様々です。私は、紛争や戦争の解決のためにファシリテーションの技術が使われているということを知ってからは、ファシリテーションは魔法だなと改めて思うようになりました。

日本文化にある「和」とは、すでにある価値と、すでにある価値を足して、新しい価値にするという意味があるそうです。また、さらにその考えをアップデートして、違うもの同士を組みあわせて新しいものをつくるのもまた、和なのだそうです。

和をつくるには、相手へのリスペクトや相互理解がなければできません。そういう意味で、ファシリテーションの深い部分と、和の深い部分はつながっているんだなと理解しました。

では、その重要な対話を、とても大きな人数でファシリテーションする場合はどうしたらよいのでしょうか。

実は、これにはいくつか押さえておきたいポイントがあります。まず、3~5人の単位が一番会話が活発化するという法則があります。したがって、20~40人もの人がいる場合のファシリテーションは、オンラインならブレイクアウトルームで、オフラインなら3~5人のグループに分けて、5~10分対話をしていただく時間を何度か織り交ぜるのです。これは、ワールドカフェの技術を応用したもので、発言力を持つ人の偏った意見で合意やすりあわせが行われてしまうと、後から結局、「あの時は言えなかった」「ついていけなかった」「私は同意していない」という言葉が、コミュニケーションを苦手とする人から出てきます。また、コミュニケーションが苦手な方、もしくは場になじめずに発言するスペースがない方に限って、良いアイデアや良い意見を持っていたりします。そうした事態を回避しつつ、良いアイデアを場に出し、誰もが発言の機会を持てるようにすべく、対話の機会を組み込んでいきます。

20~40人が集まった時、1グループが1時間に会話できる情報量の総和を仮に100だとすると、ブレイクアウトルームなどで3~5人に分けて話をすれば、情報の総量は単純に7~8倍、つまり700~800の情報量になります。人は誰かの話を一方的に聞いているだけだと集中力が切れて、退屈を感じる生き物でもあります。どうすれば、一人ひとりが会話できる機会を増やせるか、という視点でフォローに徹すると、場は自然と活性化していきます。

では、その大人数で議論をして、どうやって結論を出せばよいのでしょうか。

私たちが会社の意思決定をするワンピース会では、会社にとって最善の答えを導き出すために、深く議論をし尽くします。まず、議題の意図を提出者から発表します。それに対して提案内容がある場合は、その場で提案をもらいます(一つ目の案=A案とする)。そのあと、議題提出者に対して質問があれば、参加者のみんなから質疑してもらったのち、3~5名に分かれて5〜10分ほど、A案以外の案がないかを話しあいます。お互いに話しあった内容を発表し、A案以外のアイデアが出た段階で、LINE WORKSのアンケート機能などを使って、どの案がよいかを投票します。投票して7割を超えたら採決とし、一度トライしようという流れになります。7割に達しない場合は、改めて双方の想いをみんなに対して発表してもらったり、票が入らなかった案は削除して絞り込み、過半数を超えたものを採用するなどして最終合意に向かっていきます。「和」をつくるのが大事なので多数決で決めるわけですが、必ず少数派の意見や主張をしっかり出し切ることと、個人や小さな利益のための判断ではなく全体の利益、つまり全体がよりよくなるための判断をみんなに促すようにします。

稀にではありますが、A案が提案されてB案も生まれて、議論をしても埋まらない溝があったとした時に、A案とB案のよいところを組みあわせたC案や、思いもよらないD案が生まれた結果、奇跡的に全員の合意が形成される、といったミラクルが起こります。

先述した「『和』とは、すでにある二つ以上の価値を足して、まったく新しい価値を生み出すこと」がまさにこれです。一七条の憲法の第一条にもあるように、みんなで集中して議論しあえば、思わぬ道が見えてくる。そんな不思議な現象に出くわすことが何度もありました。

なお、議論ではあえて「意思決定」をしない場合もあります。それは議論の目的が価値観のすりあわせそのものにある時や、人間的成長を促す場合です。ワンピース会の時に、みんなで投票をして票が集まる上位1~3位の意見やアイデアについては、深い神の導きともいうべき、何かが眠っていると感じるケースが多いものです。意思決定が行われない議論に時間を使うのはもったいない、という想いに駆られることもありますが、これら上位の意見、アイデアについてはかなりの時間をかけて丁寧に議論をし尽します。みんなから票が集まれば集まるほどみんなも興味があるテーマであることを意味しますから、議論が白熱することもあります。そして、議論されたことを通じてワンピースの文化となり、ワンピースの価値観になっていきます。最終的に何も決まらなかったとしても、ワンピースの判断基準や、どこまでがOKでどこまでがアウトかという暗黙知や不文律が自然と統一され、決まっていきます。

はじめはお互いに、「そんなことも議論するのか」という感覚だったものが、数年も経てば判断基準がすりあわされていくために、議論のスピードもあがっていきます。企業文化というのは一方的に押しつけるものではなく、実はそうやって本気で対話をして、本気でぶつかりあって、本気で向きあっていく場から生まれていくものなのかもしれません。

皆さんは、大人数で議論をしたことがありますか?
なければ、ぜひ企画してみませんか?

僕たちはみんなで会社を経営することにした。
久本 和明
株式会社ワンピース代表取締役。非営利団体『ぐるり』創設者。
1984年、兵庫県生まれ。明治大学在学中にベンチャー企業にてインターンを経験。大学を中退して独立後、2007年、23歳の時に株式会社ワンピースを創業。 「人々の毎日に、幸せや歓びや感動の溢れる世界をつくる。」というコンセプトのもと、経営者も従業員も、分け隔てなくみんなが幸せに働ける組織の在り方を追求。ティール組織、アメーバ経営、フロー理論、老子、日本文化、チームビルディング、ファシリテーション、コンセプトデザイン理論などを研究、実践。 7年間の挑戦を経て、指示・命令・管理・評価がないにもかかわらず、社員が自分で考え、決め、行動するワンピース流の経営手法を確立。 また、社会全体の幸せを目指したプロジェクトも複数運営している。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます