僕たちはみんなで会社を経営することにした。
(画像=weedezign/stock.adobe.com)

(本記事は、久本 和明氏の著書『僕たちはみんなで会社を経営することにした。』=クロスメディア・パブリッシング、2021年10月29日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

基本法則②持続可能な自然エネルギーの活用

❶フローという自然エネルギー

忘れもしない6年前の夏。息子が生まれて半年ほど経った頃、旅好きな妻と一緒にバリ島へ旅行に行きました。初めて授かった子供ということで、いままでまったく考えたことのなかった教育について学ぼうと、Amazonで手あたりしだいに本を買いました。その中の1冊に、天外伺朗さんの『「生きる」力の強い子を育てる』(飛鳥新社)という本がありました。元々は大学を1年で辞めたくらい、大学や学校教育の在り方に強烈な疑問を抱いていた私にとって、そこに書かれていたことが強烈に腹落ちしすぎて、かつ現状の学校の課題をズバリと言い当てていて、バリ島で涙を流しながら読んだ記憶があります。

その体験は、「教育の在り方を変えたい」と19歳の時から思っていた私に初心を思い出させるとともに、自分の息子もフロー理論をベースに育てようと決めました。そこからまた関連する本に手を伸ばし、潜在意識に落とし込むために、これだと思った本を数冊、合計100回以上は読んだと思います。

フローというものは、誰もが心の奥底で持っているもので、おそらく類人猿から人間に進化する過程で備わった、重要な機能なんだと思います。映画を観ている時、友人と喋っている時、スマホを見ている時、趣味に没頭している時……つまりは「無我夢中」になっている瞬間を思い浮かべていただけたらと思います。

そんなフロー状態に入るためには、大きく分けて条件が二つ必要です。まず、フローには深度があり、深ければ究極的には瞑想状態にまで及びます。フローに入っている人は、確かな幸福を感じると言います。没頭状態なので、無尽蔵にエネルギーが湧きます。自分が中心にいるような感覚、なんでもできそうな感覚に陥ります。天外さんが言うには、子供の頃にどれだけフローに入ることができたかが、生きる力の強い子になるための鍵を握っていると言います。つまり自分のやりたいことができること=内発的動機にもとづいて行動できること、これがフローを発動するための一つ目の条件です。

その逆で、フローの妨害をたくさん経験した子は、いつも何かに八つ当たりをしていたり、非行に走ったり、落ち着きがなかったり、いじめをしたりする人に育つそうです。いわゆる「荒れている子供」というのは、子供に原因があるのではなく、フローの妨害をしている大人の側に原因がある、ということなのです。

100年前、イギリスにあるフリースクールでの話です。ある日、非行少年ばかりが集まるそのスクールで一人の少年が窓を割り、鶏を盗みに行ったそうです。先生たちは事前にそのことを知っていたので、先方には事情を説明した上で、あたかも偶然を装い、先生も一緒に窓を割り、盗みを行なったそうなんです。すると、その子供は次第に非行をやめていったそうです。自分がやりたいと思ったことをやるだけではなく、それを肯定してくれる大人が存在したこと=無条件の受容が、彼の心を正常化させたと言います。

この逸話から学べる、フローを発動する上でのもう一つの大事な点が、「無条件の受容、無条件の信頼」です。周囲のメンバーや大人や親が、無条件に、「いいよ。」と言ってあげられる環境にあるかどうか。無条件とは何かというと、逆の意味を持つ「条件付き」を思い浮かべると理解できます。「あなたがやってくれたら」「あなたがこうだったら」「これができたら」など、条件を設定した場合はフロ―に入れなくなります。

「あなたのこと、あるいはあなたの考えていることはよくわからないけど、いいよ。よくわからないけど、あなたのことを信頼しているから、大丈夫」。このように、条件なし、見返りなしで信頼をするのが「無条件の信頼」です。親で言えば、子供が「将来こうなりたいんだ!」といったら、「よくわからないけど、あなたがそう言うならいいよ!」と言える愛や勇気、心意気であったり、ちょっと危険な遊びや意味のわからない遊びをしたいという時に、無条件で「いいよ。やってみよう」と言える姿勢ですね。なかなか難しいことですが(笑)。

天外さんのフローに関する本では、この「条件付き」、つまりフローの妨害のことを、会社の出来事に当てはめて説明しています。会社で発生する指示命令・管理・ルール・見栄・評価などは、内発的動機の逆である外発的動機=条件付きの行動を生み出す要因になるのです。そのため、できるだけ排除することをオススメします、と書かれています。振り返れば私も、妻や母から「お皿を洗いなさい」「洗濯しなさい」「片付けなさい」と言われると、ものすごくやる気をなくしていました。一方、自分から進んで、「あ! 汚くなってきたから掃除機をかけよう」「お皿を洗っといてあげよう」などと、内発的動機で行動した時は前向きかつ爽快な気持ちで、しかも効率よくやっていた、ということを思い出しました。また、子供時代に自分が好きになったこと、例えば中学生時代には熱帯魚にハマって水槽が家に10台くらい増えてしまったことや、たまたま我が家にあったドラムとギターにハマって四六時中演奏したことなど、自分の内発的動機で行動した時のエネルギーは外発的動機のそれとは段違いの自家発電力でやってたなあと。

また、自分がワンピースの経営を主導していた時を思い返すと、私は効率性を追求して、正解の確率オタクになっていました。メンバーの提案内容をすぐに却下して自分の案を通したり、せっかく提案してくれた内容に対してできない理由を並べ立てたりしていました。そして毎回毎回メンバーはやる気をなくしていっていたなあ、と。一方で、自分発信で指示・命令を出した新規プロジェクトはほとんどうまくいかず、「結局、会社の課題はすべて自分が解決しないといけないじゃないか」という気持ちにまみれながら自転車操業の悪循環に陥っていました。

「なんで、やってくれないんだろう」「なんで、気づかないんだろう」「なんで、助けてくれないんだろう」「採用の質が悪いんだ」「よい人材がいれば解決するに違いない」「使えない奴らが多すぎる」。そんな感情に飲み込まれて、常に葛藤を抱えていました。そうなんです……。メンバーのモチベーションが上がらない理由は、すべて自分に原因があったんです……。大きなショックを受けるとともに、深く反省しました。でもまさか、その答えが「フロー」という原理ですべて理解できるなんて、思いもしませんでしたし、感動しました。いまでは子供に対してもフローを重視して、本人の意見ややりたいことを聞いて、尊重するようにしています。フローを経験すると、自己肯定感がどんどん上がっていくそうです。それはつまり、心も精神も正常化していくということです。

そこから、会社にあった指示・命令・管理・役職・上下関係・ルールなどを一切合切なくしていきました。また、みんなの中にあった常識を一緒に覆していきました。物事を決めるのは私ではなく、みんなで一緒に決めていく。ちなみに、「指示・命令をなくす」というのは、一切関与しないことや、手出しをしないということではありません。それはあくまでオプションの一つです。重要なのは、一緒に内発的動機をつくったり、そのサポートをしたり、お互いの内発的動機を大事にしたり、どこを委ねてどこを自分が担当するかを、みんなで決めていくという点にあります(図②)。

『僕たちはみんなで会社を経営することにした。』より
(画像=『僕たちはみんなで会社を経営することにした。』より)

また、上下関係も、上司の目を気にすることが外発的動機になる可能性を秘めていますから、なくしていきました。でも当時、役職を持つメンバーが2名いました。この2名と合意形成を図るのがとても大変でした。結果としては、役職名を消すことはできなかったというのが事実で、権限のない役職名だけ残すという、いびつな形式になりました。しかしその後、別の理由で2人は辞めることとなり、役職を持つ人はゼロになりました。

いまでは何でもミーティングで話しあい、内発的動機を一緒につくりながら進めることが当たり前になり、ワンピースの文化になっています。ですから、ものすごい数のミーティングが日々、自主的に開かれています。これは決して「ミーティングをやれ!」といって広がったのではなく、一人ひとりがミーティングの力や大事さを感じたがゆえに、みんなが自己進化し、そういう人が自然増殖していった結果なのです。

会社のルールに関しては、ワンピース会という月に一度開かれる自由参加型の最高意思決定ミーティングで決めています。また、チーム単位の議題についてはそれぞれのチームミーティングに委ねて、進めています。

初めは、どこまでの範囲で全体の議題とチーム単位の議題を分ければよいのかがわかりませんでした。当時はまだ新しい組織の考え方だったがゆえに認識のズレもあり、実際にやるとなると時間がかかっていました。でも、議論を繰り返して、トライアンドエラーを重ねていくことで、認識の目線がかなりすり合わされていったのです。

僕たちはみんなで会社を経営することにした。
久本 和明
株式会社ワンピース代表取締役。非営利団体『ぐるり』創設者。
1984年、兵庫県生まれ。明治大学在学中にベンチャー企業にてインターンを経験。大学を中退して独立後、2007年、23歳の時に株式会社ワンピースを創業。 「人々の毎日に、幸せや歓びや感動の溢れる世界をつくる。」というコンセプトのもと、経営者も従業員も、分け隔てなくみんなが幸せに働ける組織の在り方を追求。ティール組織、アメーバ経営、フロー理論、老子、日本文化、チームビルディング、ファシリテーション、コンセプトデザイン理論などを研究、実践。 7年間の挑戦を経て、指示・命令・管理・評価がないにもかかわらず、社員が自分で考え、決め、行動するワンピース流の経営手法を確立。 また、社会全体の幸せを目指したプロジェクトも複数運営している。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます