僕たちはみんなで会社を経営することにした。
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(本記事は、久本 和明氏の著書『僕たちはみんなで会社を経営することにした。』=クロスメディア・パブリッシング、2021年10月29日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

「一人ひとりが自立・自走して幸せに活動できる仕組み」

これがワンピース式経営を一言で表した言葉です。ビジネスやプロジェクトだけでなく、組織づくりにおいてもコンセプトが重要です。コンセプトとは未来予想図であり、設計図であり、軸であり、目的であり、デザインの元となるものです。組織のコンセプトを分解していくと、個人のコンセプト、チームのコンセプト、会社のコンセプト、お客さまを含めたコンセプト、社会を含めたコンセプトなどに分けられます。

これらが完全に一致していなくても、おおよそ延長線上に並んでいたり、それぞれに関係づけられていれば、いま自分が会社で活動していることが、個人の幸せにも、チームの幸せにも、会社の幸せにも、お客さまの幸せにもつながっていることを感じられます。そのため、経営者自身や会社、組織が生まれた経緯を辿り、コンセプトをある程度明確にしておくことは、とても大切なことだと思っています。

ワンピースを創業して7年くらい経った頃、新卒採用をするにあたって、学生の方々に対して自分たちがやっていることの目的やゴールを伝えなければなりませんでした。その時、私は自分の心と向きあい、創業の経緯や想いを1年くらいかけて言葉にまとめ、そこから生まれたのが「人々の毎日に、幸せや歓びや感動の溢れる世界をつくる。」というワンピースのコンセプトでした。

そのため、コンセプトがない場合は、むしろチャンスです。実はこの時、仲間たちと一緒につくっていくやり方も有効で、コンセプトを一緒につくることで、より一層の手応えや実感を伴って、みんなのものになっていきます。また同時に、仲間たちのコンセプトもタイミングに合わせ、一緒に見つめていくのも有効です。

私たちはワンピースという会社を一つの実験の場として、試行錯誤を繰り返しながら創業15年の歳月をかけて「ワンピース式経営」と呼べるものをつくってきました。まずは、この経営方法を導入すると、どんなメリット、デメリットがあるかをご紹介したいと思います。

ちなみにこのメリットに書いてある◯◯%という数値は私の感覚を数値で表したものです。参考にしていただけたら幸いです。

10のメリット

メリット①マネジメントが90%不要になる

経営者だけでなく役職のある方々も、指示・命令やモチベーションアップの働きかけ、管理・監督・指導などに関する業務がなくなります。経営者は、自分の一番得意なことや、やりたいことに専念できるようになります。実はこれは、経営者だけの話ではなく、メンバー全員がそのように働けるようになるという意味も含んでいます。

メリット②人間関係のトラブルや悩みが90%消滅

おそらく、組織が抱える課題のほとんどは、人間関係の悩みではないでしょうか。その悩みも90%消滅していきます。

私も実際に、人が増えれば増えるほど人間関係のトラブルに奔走していました。「社長、少し時間を下さい」というやり取りから始まる相談窓口のような仕事には、本音を言えば、「本当はこんなことしたくないんだけど……」という気持ちがありました。しかし実は、この相談窓口が最も重要な役割を持つ業務だということに後で気づきます。やり取りを重ねていく中で、関係性のネットワークを数年かけてつくりあげていき、相談役の役割を委譲していくことで、それぞれのチームの中で魔法のように、トラブルが自然と解消されていくようになりました。

メリット③経費削減。自主的に採算を考えるので自然と利益アップ

メンバーたちが自立的に会社を運営していくために必要なものは「オープンであること」です。例えばこれはWikipediaのようなオープンソース系のシステムと似ています。社内のあらゆる情報に誰でもアクセスできるようにすることで、自主管理が発生していきます。

この考え方のもと、経営者の役割の一つである「経理」=利益などの数字管理を、「自由と責任」とあわせて各チームに委譲していきます。私たちは2期連続赤字に陥ってしまったタイミングでアメーバ経営=社内間取引の仕組みを開始しました。すなわち、直接売上に結びつかない業務を担う間接部門でさえも、それぞれのチームが一つの会社のように決算を算出する仕組みです。この仕組みを発動する時、家族の次に愛すべきものがチームになっていれば、メンバーたちは自ら持続可能な状態=赤字を黒字化する方法を考えるようになっていくのです。

メリット④自主的に80%の経営課題が解決

家族の次にチームが大事になればこそ、ではありますが、自分たちの環境や状況をよりよくしようとするのが人の本能です。

私が驚かされたのは、メンバーやチームが自立していくとともに、自分が見ている視野、視点からは見えていなかった課題があれよあれよと出てきたことです。ひとりで考えるより、みんなで考えた方が課題発見力も解決スピードも数倍にあがるということがよくわかりました。チームの課題はそれぞれのチームが自力で解決し、会社全体の課題はワンピース会で、日々みんなで解決しています。

メリット⑤メンバー満足度が驚くほどアップ

いまの体制になってから、驚くほど人が辞めなくなりました。

私たちは素人集団ですが、ド素人でも一緒にやっていくことができることを知っているので、中途採用で優秀な経験者を高額で採用しなくともコストパフォーマンスが改善します。いまでも採用の90%は未経験者なのです。家族の次に大事な仲間になることができれば、自然と満足度も上がるのは当たり前ですよね。

メリット⑥経営者としてのあらゆるストレスが90%減る

試行錯誤の15年間でした。たくさんの苦労をしてきました。しかし、いまでは家族のような仲間がいて、一緒に課題に向き合える関係ができ、悩みも何もかも、すべてオープンに語りあえる土壌ができました。

私はかつて、経営者としての孤独を感じていましたが、気づけば、この数年はそんなことをまったく感じなくなっていました。おそらくそれは、いわゆる経営者の大きな役割を「自由」「権限」「責任」「給与」などに分解して、それぞれのチームに委譲していったからだと思います。そうした中で、何よりもみんなが「楽しさ」を感じてくれているからこそ、私は孤独を感じなくなったと思っています。

メリット⑦経営者の予想を超えるアイデアが創発される

対話や議論が会社で当たり前の文化になり、いつでも自然と活発化するタイミングを超えると、例えば1人の優秀なメンバーが考えられる質や量の限界を超えるようなアイデアが創発されていきます。もちろん優秀な1人のメンバーも大事です。しかし、持続可能な組織を目指すのであれば、どんなメンバーがいても、よいアイデアが生まれ続ける仕組みを持った組織のほうが、圧倒的に強いと感じています。

メリット⑧未来の経営者が育つ

大なり小なり、メンバーが自ら機会をつくって意思決定をしていくので、経営者としての疑似経験が増えます。もちろんリスクをとって独立して意思決定の経験を積み重ねるほうが個人が成長することは間違いありません。ですが、それぞれのメンバーがそれぞれのチームで運営や経営をしていくので、自然に未来の経営者が育ち、組織も成長していく点に特長があります。

また経営全般についても理事会制度や撤退検討委員会など、会社全体の運営にかかわる組織を形成し、経営者の役割を分散する仕組みをとっています。これによって、誰か1人のメンバーやナンバー2の人材、つまり「人」に依存することなく、組織の在り方をそのまま次世代に引き継ぎ、持続していく仕組みをつくることができます。

メリット⑨創造性が高まり、10倍の奇跡が起こる

我々の現在のメイン事業であるアパレル通販事業は、「インターネットという激流」と「ファッションという荒波」の2つの波の中で生きています。毎年、状況が変わるため、やり方を変える必要があります。

そんな時代の流れにあわせて、組織や事業のシステム変更などの課題に直面するたびに、メンバーが自らプロジェクトを立ち上げ、自発的にチームを編成し、課題を乗り切ってくれます。

掲げられた課題と、その課題に対峙するメンバーの意欲に共感し、共に立ちあがったメンバーたちでやりきる、という奇跡が何度も起きたからこそ、今のワンピースがあります。

メリット⑩世代交代ができて100年続く組織になる

会社は30年でなくなると言われています。しかし、自主自立かつ、1人の人に依存しすぎない持続可能な組織ができあがると、リーダーや経営者が変わっても、理念は確実に継承されていき、結果、100年続く組織になると信じています。

ただ、こうしたメリットがある一方で、当然、経営者の意のままにできないことも複数出てきます。考え方にもよりますが、以下のデメリットがあると考えています。

僕たちはみんなで会社を経営することにした。
久本 和明
株式会社ワンピース代表取締役。非営利団体『ぐるり』創設者。
1984年、兵庫県生まれ。明治大学在学中にベンチャー企業にてインターンを経験。大学を中退して独立後、2007年、23歳の時に株式会社ワンピースを創業。 「人々の毎日に、幸せや歓びや感動の溢れる世界をつくる。」というコンセプトのもと、経営者も従業員も、分け隔てなくみんなが幸せに働ける組織の在り方を追求。ティール組織、アメーバ経営、フロー理論、老子、日本文化、チームビルディング、ファシリテーション、コンセプトデザイン理論などを研究、実践。 7年間の挑戦を経て、指示・命令・管理・評価がないにもかかわらず、社員が自分で考え、決め、行動するワンピース流の経営手法を確立。 また、社会全体の幸せを目指したプロジェクトも複数運営している。

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