(本記事は、鏑木 毅氏の著書『50歳で100km走る!』=扶桑社、2022年1月29日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
50歳からのランニングは「坂」が鍵
あなたの自宅の近くに坂はあるでしょうか?
もしあれば、それだけであなたにとって、最大のアドバンテージです。
坂道を使ったトレーニングは、50歳からランニング能力を高めるために必須の「高強度」メニューになります。何をするかというと、学生時代の部活動でやったことがある方もいるかもしれません。あの「坂道ダッシュ」です。
坂トレーニングは老化によって運動機能が低下する大きな要因である、速筋の能力を高める効果があります。また、筋肉によって生み出された力を、脚に効率よく伝える神経系の能力を養うのに非常に有効なのです。つまり、ランニングにおける老化を食い止めるだけでなく、短期間でレベルアップする上に、トレーニング自体も短時間で終わる極めてコスパの高いトレーニングと言えます。
きっと皆さんの周りにある坂は、傾斜長さなど多種多様だと思いますので、以下のような数式で坂トレのボリュームを算定できるようにしました。
【坂トレのボリュームの算定式】
(勾配率:◯◯%×10+ 距離: ◯◯m)×本数=坂トレスコア
勾配率とは傾斜の度合いのことで、100m進むと高さが何m上がるかを示しています。
例えば、「10%の坂」は、100m進むと10m上昇するということになります。
つまり、勾配率10%で100mの坂であれば、坂トレボリュームは10×10+100で200。これを5本行えば坂トレスコアは1000ということになります。まずは一回のトレーニングでスコア1000を目指してください。
坂トレはダッシュでなければいけないと思っている方も多いようですが全力の8割程度の力で十分です。
まずはやってみてください。出だしは楽に感じるかもしれませんが、坂の中盤あたりから脚が重くなり、呼吸も苦しくなり、最後はかなりいっぱいいっぱいになるのではないでしょうか。ポイントは呼吸ではなく、脚です。
もちろん脚が追い込まれれば、呼吸もおのずと苦しくなってきますが・・・。
坂の終盤で、自転車で坂道を漕いでいる時に脚がジーンとなり動かなくなってくるあの感覚が出てくれば最高です。
一本終えたら坂のスタートまではゆっくりの歩きです。息を整えつつ回復させながら二本目、三本目に備えてください。
こうした「トレーニングに使える」 坂や階段は、複数「手持ち」の選択肢があるとベターです。刺激のバリエーションを増やすことで、身体を慣れさせず、負荷をかけることができます。
もちろん、坂や階段が周囲にない場合は、平地でのダッシュでも構いません。
次章では、坂道ダッシュを含む高強度トレーニングを写真で紹介します。これらを低強度のラントレと同時に行うことで、あなたの身体は確実にバージョンアップするはずです。
「中抜け」の「中」を埋める
低強度のランにも慣れ、体重も5%近く減り、高強度のトレーニングもこなせるようになった人は、「中抜け理論」で、あえて導入していなかった 「中強度」のトレーニングを取り入れる段階になります。頻度は週1回程度です。
この中強度のトレーニングは、高強度と低強度のトレーニングで培われた力を結合する役割を果たします。特に、高強度トレーニングは、強化された能力が長距離を走る上でどのように実践に適用されるかイメージがつきづらいと思います。その意味でも中強度のトレーニングが効果的な役割を果たします。
では、中強度のトレーニングとは具体的に何をするのでしょうか? それは、「乳酸性閾値(LT)」を高めるトレーニングになります。LTというのは、運動中に強度を上げ、心拍数が上がっていくと、急激に血中の乳酸濃度が高くなるポイントのことです。ここは、いわゆる有酸素的領域と無酸素的領域の分水嶺になるところで、このLTが高い人ほど長い時間有酸素的な運動を続けられるため、持久力があるということになります。このポイントの付近で行うトレーニングをLTトレーニングと言います。
このように書いてもわかりにくいと思いますので、さっくり説明すると、個人差はありますが、中級者くらいのランナーであれば大体30分くらいでオールアウト(疲労困憊状態)になる運動強度だと思ってください。例えば距離走なら7〜8㎞程度を全力で走り切る力だとか、トレッドミルなどを利用して、ダッシュまではいきませんが、その人の中ではかなりのハイペースで30分走り続ける感じです。
実の所、これが一番キツイんです。それゆえ、故障のリスクやトレーニングへの抵抗感を植え付けてしまうため、「中抜け理論」がシニア層の初心者ランナーには必須だったというわけです。
ただ、あるレベルに達したら、週1回程度でもいいので導入すると、それまで培ってきた2本の柱が融合し、100㎞走破に向けて実践的な力を高める鍵になるのです。