(本記事は、鏑木 毅氏の著書『50歳で100km走る!』=扶桑社、2022年1月29日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
老化のシグナルは普段の生活の中にある
老化のシグナルは日常のちょっとしたところからわかるものです。
なんらかのスポーツを継続的にしている方であっても、日常生活のちょっとしたことからそのシグナルを感じるものです。
例えば、駅やデパートの階段。なんとなく階段を避けるようになった方は、老化が始まった兆候かもしれません。年齢に抗うファーストステップは普段から階段を使うことです。そんな些細なことでと思うことなかれ。階段といった僅かな負荷でも成長ホルモンが分泌され日常的にこれを行うことで大いに老化を食い止めることができます。
その他いろいろなシーンで老化の兆候は出て来るものですが、走る上で最も憂慮すべきシグナルは「歩きが遅くなった」ということだと思います。
私も50歳の手前でこれを経験しました。
毎朝、小学校低学年の娘の登校に途中までついて行くのですが、ある日、娘の歩くスピードについて行けないことに気づきました。
そしてショーウインドウに映る私は、背中が丸まり、足をひきずるように歩いていました。妻にスマホで動画を撮ってもらい確認すると、自分でもびっくりするくらい老人のような歩き方になっていたのです。
足を引き上げる腸腰筋や姿勢を保つ体幹の能力が落ちていることを、この時初めて知りました。
まだ現役選手。日々トレーニングで追い込み、目標とするレースの直前には月間1000km近く走り込むほど追い込み、同年代の人たちと比べれば、かなり体を鍛え、体は断然若いと自負していました。にもかかわらず、こんな基本的動作である「歩くこと」がうまくできなくなっていることに驚かされました。キチンとした 「歩き」ができなければいくらトレーニングを積んでも、それが効果的に身に付きにくくなります。
覚えておいてください。
階段を避けるようになったら「黄色信号」。さらに、歩くのが極端に遅くなったら「赤色信号」です。
皆さんはいかがでしょうか。歩くことは人間の最も基本的な行為で、まずは日常の歩き方から改善する必要があります。
普段から背筋をピンと伸ばし、膝を高く上げて歩く。これも立派なレベルアップのためのトレーニングと意識して始めてください。
歳を取ると、何故走れなくなるのか
40歳で世界3位になった直前に、鹿屋体育大学で身体能力を測定し、おおよそ10年後に再度同様の測定をしたことがあります。そして、その2度の測定の結果、大きなことに気付かされました。
身長、体重、筋力、筋量、体脂肪率などなど、基本的な身体自体は全盛期の10年前とさほど変わっていなかったのですが、決定的に異なる数値がありました。
それは「瞬間的に地面に力を伝えるパワー」 です。なんと全盛期の7割ほどに落ちていたのです。ランニングはいわば片足で瞬間的に力を地面に伝え続ける運動ですから、この能力の低下は直接的に走力の低下に繋がるのは容易に理解ができます。
瞬間的に強い力を生み出すのは「速筋」の役割です。その速筋が明らかに減っていたのです。つまり、50歳を過ぎてから長距離が強くなるためには「速筋」を鍛えるべきだということがわかります。
繰り返しますが、筋肉自体が落ちているわけではないのです。瞬間的に力を地面に伝える速筋が落ちているということです。速筋以外の筋量はあるのです。その証拠に両手でふくらはぎの太さを測るのが私の習慣ですが、元々の持久的な筋肉「遅筋」は落ちていないどころか、加齢に負けぬよう補強トレーニングを繰り返していますので、全盛期よりも歳を取ってからのほうが筋量はむしろ増えているくらいなのです。
「筋肉があっても使えない」。これがランニングにおける真の老化なのです。
この経験を踏まえてトレーニング方法を大幅に変えることで、50歳を過ぎても強くなれるノウハウを得ることができました。