好評を博している、GLOBIS 学び放題(グロ放題)の『分析の基本のキ』シリーズ。本シリーズで解説を行った鷲巣 大輔に、本動画シリーズの制作に携わったグロービスの太田が聞く。分析における心構えや前提を語った前編に引き続き、後編では、より具体的な行動やExcelを活用した分析スキルについて深堀していく。
ツールの手を借り、大量の仮説検証サイクルを高速回転させる
太田:「取り組む姿勢」から「どう考え、アクションすべきか?」といったより実務的な領域に話題を移していきたいと思います。分析における行動というと、やはりツールをうまく使っていくことが重要になってきますよね。
鷲巣:前提として、分析は極めてクリエイティブな作業です。新しいインサイトを生み出すという意味では、何か新しい商品コンセプトを生み出すのと同じように、極めて創造的なプロセスなのです。
しかし、創造は一発必中とはいかない。死屍累々とした中に輝くコンセプトが生まれるのと同じように、分析も何度も何度も仮説検証をして最終的に「なるほど」と相手に言ってもらう。そのためには限られた時間の中でどれだけ大量の仮説検証サイクルを高速に回転させていくかが重要になりますから、やはりデジタルテックの力を使ったほうが効率的ですね。
ツールを上手く使えば打席に立つ回数が格段に増えます。今回の動画の中でも、モダンExcelの領域でPower Pivot、Power Queryについてもお話させてもらいました。Excelの機能でもここまでできるんですよね。
太田: DXというキーワードが世の中に浸透し、高度なツールを活用していこう、といった風潮もありますが、残念ながら多くの人は使いこなせていなかったり、ツールへのハードルが高いせいで分析に抵抗感を持つ方が多かったりということもありそうです。後者については、今回の動画によって身近な用途から分析をスタートできるのではないかと思っています。
鷲巣:繰り返しになりますが、分析とは問いを立てて、データを分解して比較をして、差を見出して意味を解釈することです。そうすると、基本はExcelで十分できるんです。大量のデータを高速で処理する、それも定量データをピボットテーブルのようにクロス集計することを基本とすれば、プログラム言語をイチから覚えるよりも早く見えてくるものがあるのではないでしょうか。
以前はデータが最大100万行までしか扱えなかったり、シート間のリンクがあるなど複雑なファイルはアップデートに数分待たされたりと、ストレスを感じることもありましたが、いずれも今は解消されています。ここ数年のExcelの進化は目覚ましいですね。
太田:ツールの進化によって、手の届く範囲が広がってきているということですね。
鍵を握るのは「基礎設計」と「バイアスを打ち破る問い」
太田:Excelの活用を筆頭に、これまで分析が身近でなかった人も、はじめて分析にチャレンジするような機会は増えていると思います。そういった方が今回の動画などで学び、よし使い方は分かったとなる。しかし、実践してみたらどうもうまくいかない……ということもありそうです。
このつまずきの原因のひとつには、ツールの使い方とは別に「分析の下準備」と言える部分があると思います。下準備の段階を進める場面で、鷲巣さんはどこを意識されているのでしょうか。
鷲巣:これはきわめて本質的な問いだと思っています。分析屋さんからすれば、整ったデータベースは有難い存在です。SQLサーバーに入っていたものをそのまま取れて、かつもうデータベースになっているようなCSVなどは扱いやすい。
しかしExcelはそのまま閲覧して見やすいことを考え、色々とデコレーションしていたり、そうでなくてもマスターデータが統一されていなかったりという場合が多い。そうすると分析に進む前にまず1つ1つ確認する作業に手間がかかります。そうした問題が起きないよう、やはり基礎設計には注意を払いたいですね。
一方、そうは言っても今この状態のデータを使うしかない、と悩まれている方も実際多いのではないでしょうか。ですが、そこでもツールが頼れるということを是非知ってほしいですね。今回動画でもご紹介したPower Queryも、一見これは編集しにくい、というデータを簡単にデータクレンジングしてくれます。活用できると処理スピードがだいぶ速くなりますよ。
太田:私も業務上、CRM(Customer Relationship Management)やSFA(Sales Force Automation)のデータを基に分析をかけることがありますが、苦戦しているのが実際のところです。
恐らく基礎設計のできないままになんとなくデータを溜めているだけになってしまっていて、分析してみても現場の分かっていること以上の示唆が出ない。思ったような成果が出せないような場合にはどういった点を見直せばいいのか、あるいは躓きがちなポイントにはどんなものがあるのでしょうか。
鷲巣:やはり現場感覚が欠けた切り口で分析をしている可能性があります。自分で足を運ぶ、自分でエンドユーザーの話を聞く、自分で実際に販売をしてみる、あるいは現場感覚の豊富な人との対話の時間を持つことで、改善策が生まれてくることは多いんですよね。
対話の際気を付けたいのは、相手の知っている範囲で答えられてしまう質問では、新しい示唆は出てこないということ。そういった問いをするには、自分でも意志を持って解釈し続け、ある程度仮説を持って考え続けることが大切です。
太田:現地現物をよく観察してみることも、仮説を立て、よりよい問いのレパートリーを持っておくために大切そうですね。
鷲巣:そこでよくあるのは、現場現物を見るとつい納得してしまう、ということです。これでは全く意味がありません。また、組織のベクトルを変えようとする取り組みは、実は自分や周囲に非常に大きなコストや負担をかけることになります。ですが、それを怖がるあまりインパクトのない分析をし続けるのであれば、これも意味がない。
現場現物を見た上で、かかったバイアスにどこまでチャレンジできるか。これが組織のベクトルを変えるアウトプットを出そうとする分析担当者にとって必要なことだと思います。こういった場面でも、まずは論理思考の基本であるクリティカル・シンキングが非常に大事ですね。
太田:データ分析を担当する立場では、データのスキルはもちろん、全体を俯瞰するような視点を持つべきということでしょうか。
鷲巣:データ分析はマネジメントの意思決定に役に立つものだとするのであれば、マネジメント視点を持たないと意味がないというのはFP&Aに限りません。最後は自分でやるぐらいの覚悟が必要になるんでしょうね。データ分析の話からえらく大きな話になってしまいましたが(笑)
「意志」「問いの力」「ツールのスキル」
太田:最後に改めて、読者の方々に「分析」というコミュニケーションツールや姿勢を今後どうとらえて活用していってほしいか。想いやメッセージがあれば教えて下さい。
鷲巣:分析は成果を生み出し組織に力を与えるものだと思っています。成果というのは経済的なものだけではありません。最終的に目的を成し遂げるために何をしたらいいのか、という迷いにも答えやヒントを出してくれます。分析は行き詰った現状を打破する時にも役に立つ、そのスタートだということは声を大にして言いたいですね。
また、テックツールはそれを可能にしてくれる強力なパワースーツのようなものです。人間1人の力は非力ですが、パワースーツを着けることで重いものを簡単に持ち上げることも出来る。
分析には色々な手法がありますが、事業や組織の状況、目的によってやり方はさまざまです。今回やグロ放題の動画では、20数年やってきた僕なりのノウハウをお話ししていますが、このやり方が絶対解かというと、そうでもない。ベストプラクティスは他にもたくさん生まれるはず。何かを成し遂げたいという意志と、そこに対して的確に答えを出せるような問いやアプローチを立てる力、そしてそれをツールを活用しながら可能にする技術。その3つが、僕の言っていることのみならず、色んな人たちと意見交換することによって発展していけばそれはすごくいいですし、その結果として皆さんが大きな成果を生み出す1歩になれば、こんな嬉しいことはありません。数字に対する苦手意識をお持ちの方も多いかもしれませんが、ぜひ逃げずに考え、取り組んでみてほしいです。
太田:数字が苦手な方や、データ分析をしなくてもそれなりに仕事ができてしまう方など、「分析は自分の仕事ではない」と一線を引いている読者も多いと思います。しかし、馴染みがないとしても改めて学んでみてほしい。その意義が伝わるお話だったのではないでしょうか。本日はありがとうございました。
(執筆者:鷲巣 大輔、太田 昂志)GLOBIS知見録はこちら