米国が中国に敵意むき出しな本当の理由
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(本記事は、戸田 裕大氏の著書『米中金融戦争』=扶桑社、2020年9月25日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

米国の中国に対する軍事スタンスの変化

米国の中国に対する安全保障上の公式な立場についても見ておきましょう。

米国がなぜ中国に対してここまで強い対応をとっているのか、その根本は米国建国の理念である「平等・自由幸福の追求」を守るためです。その崇高な理念を守るために、米国はいつまでも経済的に、そして、軍事的に強くあり続けなければならない。しかし、その米国の強さが中国により明らかに脅かされていると認識したために、ここまで激しく敵意を剥(む)き出しにしているともいえます。

読者の皆さんは、2020年5月に米ホワイトハウスが中国に対する戦略について新しい指針を定めた報告書を公開したことをご存知でしょうか?

その名も「United States Strategic Approach to the People’s Republic of China」、直訳すると「米国の中国に対する戦略的なアプローチ」と題された報告書です。

そこには、1979年の米中国交樹立以来、米国は中国との関係を深める中で、中国の経済的・政治的価値観がよりオープンで世界全体に対してより建設的で責任ある変化を遂げていくことを期待していたものの、その対中政策が誤っていたことを認めています。さらに、今後は米国の掲げる自由で公正な統治システムを維持することを念頭に、価値観を共有する先進国とともに一丸となって中国に対して強い姿勢で臨むということが書かれています。つまり、今後もよりいっそう、米国の対中政策が激しいものとなる―それが米国の打ち出した対中国の基本路線ということです。

米国の主な対中政策は二つで、米国の国家安全保障戦略と、それに付随するインド太平洋地域における独立性、自由、開放性、法の規則、公平性、互恵主義にある、と報告書には記載されています。もちろん最大の関心は米国そのものの安全保障でしょうが、中国が米国に万が一、戦争をしかける場合、東へ進むことが想定されるため、戦略的に重要なインド太平洋地域を米国の影響下に収めておきたい意向が鮮明になっています。

そのため、米国は、ASEAN、日本、インド、オーストラリア、韓国、そして、台湾など、インド太平洋地域の国との関係性を重要視すると述べられています。

外交・軍事の世界に詳しい方の間では常識とされるようですが、米中戦争がもし起こる場合には、発端は台湾になるといわれています。

それはなぜでしょうか?台湾は、中国共産党が内戦の末に中華民国政府を追いやった地であり、今なお中国本土と台湾の統一は中国共産党の悲願となっている一方で、米国にとっての台湾は安全保障上、欠かすことのできない地域だからです。

「一帯一路」を非難する米国の真意

また、この報告書の中で真っ先に米国が挙げているのが、中国の経済的なチャレンジです。その中で中国の保護主義的な貿易や知的財産権の侵害に関する言及もあり、特に「一帯一路」に関する具体的な言及が数多く見られます。

中国が「一帯一路」という単語を傘にして、交通・通信・情報・エネルギー・工業区・メディアなどの分野で、既存の国際ルールに違反し、中国の勢力を拡大しているという指摘です。そのため、米国は「一帯一路」は許さないという姿勢を貫いています。

しかし、報告書の中には人民元の国際化に関する指摘はありません。私は、ドルの基軸通貨性は米国の既得権益であるから、あえて触れていないのだろうと推測しています。

少なくとも私は、米国が自国の通貨体制から大きなメリットを得ているという米国自身の公式アナウンスを聞いたことがありません。

この報告書から明らかなのは、米国が対中政策について今後はより強い態度で臨むという点と、公式には「一帯一路」を非難しているということを押さえていただければ幸いです。

次項では、1980年代の日米貿易戦争、金融自由化について見ていくことにします。

実は、日本も過去に、現在の中国同様に、米国からさまざまな制裁を受けた歴史があります。そして、そこに今後の米中対立のヒントを得ることができると考えている経済・金融関係者が多いのです。

むろん、かつての日本と現在の中国では、状況が類似している点だけでなく、明らかに異なる点もあります。そうした相違点を紹介しながら、米中対立の今後を占う材料として取り上げていくことにしましょう。

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著者:戸田 裕大(とだ ゆうだい)
若竹コンサルティング 創業者
2007年、中央大学法学部卒業後、三井住友銀行へ入行。10年間、外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行するとともに、日本のグローバル企業300社、在中国のグローバル企業450社の為替リスク管理に対する支援を実施。2019年9月、CEIBS(China Europe International Business School)にて経営学修士を取得。現在は若竹コンサルティング代表として、法人向けに、為替市場調査と為替リスク管理に関するコンサルティング業務を提供するかたわら、為替相場講演会に多数、登壇している。

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