(本記事は、戸田 裕大氏の著書『米中金融戦争』=扶桑社、2020年9月25日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
「中国のGDPと実体経済のかい離」説について
では、こうした基軸通貨としてのドルが支配する世界で、その米国と対立を深める中国はどんな通貨政策をとっているのでしょうか?
中国の通貨政策と中国の経済は当然ですが、非常に密接に結びついているため、まずは中国の経済環境について見ていくことにしましょう。
ここでは「GDP(Gross Domestic Product)」を用いて、中国経済の状況を説明していきます。GDPは日本語では「国内総生産」と呼ばれ、その国の1年間の経済活動の規模がどの程度であったかを表す経済指標です。
中国は近年、目覚ましい成長を遂げたといわれていますが、それはGDPの伸びが証明しています。2019年の中国のGDPは14・3兆ドル(約1430兆円)で、世界第二位の経済規模となっています。2019年の日本のGDPが5・1兆ドルなので、中国の経済規模は日本の約2・8倍に相当します。なお、米国のGDPは21・4兆ドル(約2140兆円)と、中国のさらに約1・5倍になっています。
しかし、こういった指標を見ていくうえで、中国政府が発表するGDPなどの経済統計はあまり信用できないということが、日本ではいわれています。
実際にはどうなのでしょうか?私は一金融の専門家として、正直に多少割り引いて数字を分析しないといけないと思っています。
たとえば、現在の中国政府の実務№1の座を務める李 国克(り こくきょう)首相が、過去に「中国のGDPを鵜う呑のみにしないために、李国克指数と呼ばれる独自の経済分析手法を編み出した」というエピソードもあります。
私も、中国のように上下関係が明確なピラミッド型の統治体制においては、部下は何事も上司に対して「お化粧」して報告しがちであるということを、実際の中国での業務経験を通じて肌感覚として感じています。
しかし、もし一度も中国に足を運んだことがないのに、「中国のデータはどうにも信じられない……」と断定しているのなら、それはある意味、誤解かもしれません。
そういう人には、ぜひ一度、中国の大都市(広州・上海・北京など)に足を運んでみてほしいと思います。実際に目の当たりにする中国経済の発展は、あながち中国政府の発表する経済指標がそれほど実体からかい離していないことを実感できるほど、規模も勢いもすさまじいものがあります。
厦門(あもい)BRICSで見た中国のすさまじい成長力
一つ、私が中国で仕事をしたいというモチベーションにつながったエピソードを紹介しましょう。それは2016年から2017年にかけて、福建(ふっけん)省の厦門(アモイ)という場所が、たった一年間で大きな変貌を遂げた話です。
もともと、厦門は海辺ののどかな街でしたが、2017年9月に開催された厦門BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興五か国の首脳会合)の開催を翌年に控えて、街全体が改装工事の対象になりました。
背景としては、中国以外のBRICS各国に対して、中国がどれほど発展しているか、その様子を見てもらい、協議を優位に進めたいといった思惑があったものと推測されます。
驚くなかれ、1年に満たない期間で、古かったタクシーはすべて電気自動車へ取り替えられ、ボロボロだった民家の外壁が綺麗な白色で統一され、ホテルの多くが建て替えられ、デコボコだった道路は全面舗装され、飛行場から町の市街地までメトロが通るほど、完璧な整備が行われました。
街が変わる―。
「本当にこんなことが起きるのか」と私は、いい意味でショックを受けました。それが、中国をもっと知りたい、もっと中国で働いてみたいと思うきっかけにもなりました。
当時、訪問した厦門のとある会社の総経理(中国事業の責任者)から、どうも1兆元(約15兆円)近い補助金が動いたのではないか、という噂を教えてもらいました。
確かに2008年のリーマンショックの影響を軽減すべく、中国は国を挙げて大規模な経済対策を行いましたが、その金額が4兆元(約60兆円)であることを考えると、BRICS会議に備えた国を挙げた都市開発で、その4分の1である1兆元を投じることもあながち信じられないことではありません。
とにかく、すさまじい資本投下と、信じられないほどのスピードで変化する国、それが中国なのです。しかし、こうなると一つの疑問が出てきます。
なぜ、中国はそれほどまでにお金を持っているのでしょうか?
2007年、中央大学法学部卒業後、三井住友銀行へ入行。10年間、外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行するとともに、日本のグローバル企業300社、在中国のグローバル企業450社の為替リスク管理に対する支援を実施。2019年9月、CEIBS(China Europe International Business School)にて経営学修士を取得。現在は若竹コンサルティング代表として、法人向けに、為替市場調査と為替リスク管理に関するコンサルティング業務を提供するかたわら、為替相場講演会に多数、登壇している。
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