(本記事は、斎藤創氏、佐野典秀氏、酒井麻里子氏の著書『先読み!IT×ビジネス講座 メタバース&NFT』=インプレス、2022年12月6日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
メタバース・NF T企業のビジネス参入パターンは?
企業がメタバースやNFTの事業に参入したいと考えた場合、どのような形が想定できるのでしょうか? 主要な参入パターンやそれぞれの特徴、国内の事例などを斎藤弁護士に聞きました。
企業の参入にはどんな形がある?
聞き手・酒井麻里子氏(以下、酒井氏):今、いろいろな企業がメタバースやNFTの事業に参入してきていると思いますが、具体的にどのような形があるのでしょうか?
斎藤創先生(以下、斎藤先生):いくつかのパターンに分けて考える必要があります。まず、NFTを使わないWeb2メタバースをイベント開催やプロモーションの場として使うケースですね。次に、The SandboxなどのWeb3メタバースのプラットフォームを使って、NFTのアイテムなどを販売するスタイルが考えられるでしょう。そしてもうひとつが、OpenSeaなどのプラットフォームでNFTのみを販売するスタイルです。
酒井氏:なるほど。大きく分けて3つのパターンがあるんですね。一番ハードルが低いのはどれなんでしょう?
斎藤先生:Web2メタバースを使うものは、比較的参入しやすいかと思います。メタバース空間内で展示会などのイベントを開いたり、仮想の店舗を作って商品の3Dモデルを展示して、そこからECサイトに移動して商品を購入できるようにしたりといった方法が考えられます。
酒井氏:それはわりとイメージしやすいです。でも、その場合、どうやって利益を出すんですか? 物販はわかりますが、展示会などは参加費をとらずに無料開催するケースも多いですよね?
斎藤先生:うーん。現状だと収益化はそこまで考えずに試験的に取り組んでいるケースが多いかもしれないですね。新しいものを実験的に取り入れてみよう、という段階ではないかと思います。
Web 3 メタバースは参入ハードル高め
酒井氏:Web3メタバースを使うケースはどうなのでしょう?Web2メタバースに比べると、収益につながりやすそうなイメージがありますが。
斎藤先生:The Sandbox などを利用する企業の場合、収益ありきで考えて、ビジネスモデルを具体的に考えて進めている印象があります。ただし、このパターンは実は結構難しくて、メタバース、NFTそれぞれに労力が必要となるので、なかなか一朝一夕でできるものではないかもしれませんね。
酒井氏:なるほど。ちょっとハードルが高そうですね。もし、参入するとしたら、具体的にどんな形になるのでしょうか?
斎藤先生:The Sandboxの場合、「LAND」と呼ばれるメタバース内の土地に自社専用の区画を確保して、その中でサービスを展開します。日本企業の参入事例としては、渋谷109が展開する「SHIBUYA109LAND」が知られていますね。
酒井氏:具体的にどんなことが行われているんですか?
斎藤先生:2022年4月に、オリジナルのNFTアイテムとLANDのセットが限定100組で販売されました。今後はイベントの実施やNFT販売のほか、広告発信の場としても活用していくみたいですよ。
酒井氏:このほかには、どんな企業が参入していますか?
斎藤先生:スクウェア・エニックスが、TheSandbox内で『ダンジョン・シージ』というゲームをプレイできるLANDの展開を発表しています。また、エイベックスは2022年度中にThe Sandbox に自社のLANDをオープンするとしています。
酒井氏:有名企業の関心が高いんですね! 今後さらに盛り上がっていきそうです。
NFT 販売はコンテンツ力が鍵
斎藤先生:Web3メタバースの空間を使わずに、NFTのみを販売するパターンというのはどんなイメージなんでしょうか?
酒井氏:自社のコンテンツとして持っているIPやキャラクターなどをNFTにして、OpenSeaなどのプラットフォームで販売するケースが多いですね。日本の事例では、漫画『左ききのエレン』の作中で登場人物が描いたストリートアート2点が2022年4月にNFTアートとして販売され、2点合計で約830万円という値をつけました。
斎藤先生:すごい価格ですね!架空の人物の描いた絵、それもデジタルアートにそれだけの価値を感じる人がいるということですね。ほかにはどんな事例があるんですか?
酒井氏:手塚治虫の作品をNFT アートとして販売する「From theFragments of Tezuka Osamu」というプロジェクトも行われています。第一弾となるジェネレーティブアートNFT「鉄腕アトム」は、1000個のNFTが約1時間で完売したんですよ。
斎藤先生:似たようなものが1000個販売されても、欲しい人がそれだけいるということですね!
酒井氏:ジェネレーティブアートNFTとは、プログラムによってランダム自動生成されるNFTアートのこと。大量の作品を作って販売することができる。
斎藤先生:さらに、それに続く1点もののモザイクアートのオークションは、約5300万円で落札されています。
酒井氏:そんな高額ですか! でも、世界にひとつしかない手塚治虫のアートならわかる気もします。
斎藤先生:漫画関連ではこのほかに、『進撃の巨人』のNFTが2022年3月に米国向けに販売されたり、「『キャプテン翼』ボールはともだちNFTプロジェクト」が7月に始動したりといった動きもありますね。
酒井氏:でも、どれも有名な作品のNFTですよね。まだ知名度のないアートやキャラクターなどをNFTとして販売するのはやはり難しいのでしょうか?
斎藤先生:企業のNFT プロジェクトの場合、すでに多くのファンがついた強いIPが使われるケースが多いですね。そうでない場合は、購入したいと思ってもらえるための仕組みづくりが不可欠になるでしょうね。
酒井氏:なるほど。まずはその作品なりキャラクターなりの存在を知ってもらい、価値を感じてもらう必要がありますよね。地道なファンづくりが必要になりそうですね。
企業がメタバースに参入するときに考えることは?
企業が自社の事業としてメタバースを活用したいと考えた場合、どこから着手すればいいのでしょうか?メタバース参入にあたって考えるべきことを教えてもらいました。
まずは「何をしたいか」を決める
酒井氏:今、メタバースが注目を集めているなかで、自社でもそのブームに乗っておきたい、何か始めてみたいと考える企業も多そうです。いろいろな参入方法があると思いますが、どうやって方向性を決めていけばいいんでしょうか?
斎藤先生:何をやりたいかによると思いますよ。コミュニティを作りたいのか、それともNFTを売りたいのか、あるいは両方なのか。「何も決まっていないけど、とりあえず新しいことをやってみたい」という感じだと迷走しやすいかもしれませんね。
酒井氏:確かに! でも、今回のように新しい技術や仕組みが一気に注目を浴びる状況が起きると、「乗り遅れないようにしないと!」という感じで、何がしたいかわからないまま走り出してしまうケースは多そうです……。
斎藤先生:まずは何をしたいのかを決めることですね。それが固まってはじめて、具体的な方法を考える段階になります。 Web3メタバースなのかWeb2メタバースなのか、プラットフォームを利用する場合はどこを選ぶのか、あるいは独自のメタバース空間を作るのか、コストはどのくらいかけられるのか、準備期間はどのくらいを想定しているのか……といったことを考えていく必要があります。
酒井氏:試験的にメタバースを使ってみたいというケースだと、「顧客とコミュニケーションをとるための場を作りたい」「自社のことを知ってもらうためのプロモーションの場にしたい」というパターンも多いのかなと思います。たとえばその場合だと、どんな方法を選ぶのがいいですか?
斎藤先生:そういった用途なら、既存のWeb2メタバースのプラットフォームを使うのが一番ハードルが低いと思いますよ。
酒井氏:Web2メタバースを使うかWeb3メタバースを使うかの選択は、どのように考えればいいですか?
斎藤先生:単に人が集まる場を作りたい、コミュニケーションをとりたいということであれば、NFTは必要ないのでWeb2メタバースを選ぶことになるでしょうね。
酒井氏:Web3メタバースの場合、それよりハードルが高くなるという感じでしょうか?
斎藤先生:そうですね。NFTを購入してもらうからには、そこに価値を感じてもらえるようにしていく必要があります。ゲーム性を持たせたり、その中でNFTの価値が上がっていくような仕組みも考えなければいけませんね。あるいは、メタバース内に広告スペースを設けて、そこを利用してもらうような方法も考えられるかもしれません。メタバース内において広告を出すことは、現実で広告を出すことと大きく変わる点はありません。 メタバース空間の中にポスターのような広告を出す、CMのような動画の広告を出すといったことをして、その世界を楽しんでいる人々の目につくようにし、広告掲示スペースに対する報酬をもらうことで、メタバース管理者は収益を上げられます。 これだけでは既存の広告と変わりませんが、メタバースの世界を生かした広告の出し方を提案することで、広告希望企業を増やすことは考えられるかと思います。 たとえば、現実の商品の使用を疑似体験することができる、VR技術を生かした臨場感のある映像を使用することなどが考えられます。
酒井氏:ちなみに、既存のプラットフォームの中に自社のメタバース空間を用意するのではなく、オリジナルのメタバースを開発するという選択もあるんですか?
斎藤先生:Web2メタバースの場合、XRコンテンツの開発を手がける事業者がたくさんあるので、そういったところに依頼して開発することになるでしょうね。Web3メタバースの場合、1から新しいものを作るのはかなり大変だと思います。そういったチャレンジももちろんあり得ますが、既存のプラットフォームを使うほうが現実的という感じがしますね。
酒井氏:なるほど。ビジネスで活用する場合の具体的な形が見えてきました。