(本記事は、斎藤創氏、佐野典秀氏、酒井麻里子氏の著書『先読み!IT×ビジネス講座 メタバース&NFT』=インプレス、2022年12月6日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
そもそも、メタバースに「定義」はあるの?
具体的にどんな条件が揃えば「メタバース」と呼べるのでしょうか?プラットフォームがいろいろあるようですが、それらを行き来することは可能なのでしょうか? 実際にメタバースで活動する前に基本を知っておきましょう。
メタバースは、何をもってメタバースというの?
聞き手・酒井麻里子氏(以下、酒井氏):そもそもの話ですが、メタバースには、「何をもってメタバースというか」の定義のようなものがあるんですか?
佐野典秀先生(以下、佐野先生):現時点では、メタバースの明確な定義というのは定まっていないんですよね。
酒井氏:そうなんですね。すると、「これとこれを満たせばメタバースです」みたいにいうことはできないということですか?
佐野先生:うーん、大学の先生としては、定義のないものを「こうです」とはいいづらいですね(笑)。でも、すでにいろいろな方が書籍などでメタバースの定義を試みていますし、私個人としては、「アバターが自由に活動できる仮想空間のサービス」くらいに、ゆるい考え方でもよいのではないかと考えています。
酒井氏:意外と大きなくくりですね。「自由に活動」というのは、具体的にはどんなことなんでしょう?
佐野先生:音楽を演奏したり教育の場として使ったり、もちろん経済活動をしてもいいでしょうし、そういったリアルな空間でも行っているような活動を、物理的な制限を外した状態で行うということですね。
酒井氏:なるほど。物理的な制限を外すというのは……?
佐野先生:地理的な制約がないので、時間や費用をかけずに遠方に住んでいる人に会うことができますし、実際の観光地などを再現したメタバースに遊びに行けば、旅行気分も味わえます。観光地側からみれば、今まで足を運んでもらえなかった人に自分たちの街を知ってもらうチャンスにもなるかもしれません。
酒井氏:家にいながら観光気分を楽しめるのはいいですね。
佐野先生:また、アバターなら顔や髪型、体型、性別なども自由に選んで好きな姿になれますし、現実では躊躇してしまうような服を着ることもできます。さらに、重力の制約がないので、現実ではあり得ないくらい高く飛び上がるといったことも自由にできますね。
酒井氏:ちなみに、アバターで仮想の世界に入って活動できるプラットフォームには表示が2次元のものと3次元のものがありますが、どちらもメタバースに含めてよいということですか?
佐野先生:私としてはそのくらい広い定義でとらえていいのではないかと思っています。いろいろな世界観があって構わないですし、それは必ずしも3次元の空間ではないと考えています。
メタバースの世界は複数存在する?
酒井氏:今、世の中に出ているメタバースと呼べるようなプラットフォームにもいろいろあると思いますが、それぞれが個別の世界として存在しているということですよね?
佐野先生:その通りです。いろいろなプラットフォームがあり、それぞれが個別のメタバースとして存在しています。ただし、最近は「オープンメタバース」という考え方も注目されるようになってきました。これはプラットフォーム間を自由に行き来できるようにするための取り決めをしていこう、というものです。
酒井氏:そうなると、現状ではプラットフォーム間を行き来することはできないということですか?
佐野先生:そうですね。それぞれのプラットフォームが独自のサービスを提供していますし、それをお互いにどう調整していくかが課題になるので、少し時間はかかるかもしれません。とはいえ、ユーザーの視点で考えたら自由に動けたほうが便利ですし、将来はそういう世界になっていくのではないかと思います。
佐野先生:ちなみに、アバターについても2022年9月時点では、どのプラットフォームでもそのまま同じアバターで活動できるという状況にはなっていません。自分でアバターのデータをアップロードできるプラットフォームを使うケースで、なおかつある程度の専門知識を持っていれば、アバターのデータをそれぞれに対応した形式に変換するといった作業を経ることで、同じ外観のアバターを使うこともできますが、誰でも手軽にというわけにはいかないですね。
酒井氏:それはちょっとハードルが高そうですね。「FacebookとTwitterで同じ写真をプロフィールアイコンに設定する」くらいの感覚で、各サービスで同じアバターを使えるようになってほしいです。
佐野先生:このあたりを共通化していくことは、今後の重要なテーマになるのではと思います 。実際に、複数のプラットフォームをまたいで横断的に同じアバターを使うためのサービスの開発もすでに進んでいますよ。
酒井氏:あと、アバターに関しての話だと、他人が自分のアバターを使ってなりすましをするのが心配です。
佐野先生:たしかに個人認証をどうするかは課題ですね。教育分野でいえば、実際には講義を受けていない学生が出席を装うのをどう防ぐかは頭の痛い問題です。ビジネスの場でも同じで、企業がオフィスとして使うようなケースでもなりすまし対策は必須でしょうし、物販のような金銭のやりとりが発生するような用途ならなおさらですよね。今後 、メタバースの世界での共通のテーマとして議論が進むのではないでしょうか。
酒井氏:リアルな世界のパスポートみたいなものが、メタバースで使えるようになったら便利そうですね。
メタバースのサービスには、どんなものがあるの?
メタバースのプラットフォームとして提供されているものは、すでに複数あります。ここでは、目的や使用できるデバイスによる分類や、実際にどんな使い方をするものなのかを聞きました。
メタバースの種類を知ろう
酒井氏:メタバースのプラットフォームにはいろいろあるようですが、どうやって自分が使うものを選べばいいのかわかりません。
佐野先生:目的を軸に考えると、仮想空間に集まった人たちが交流する「コミュニティ系」と、仮想通貨を使った経済活動が伴う「ブロックチェーン系」に大別できますね。前者は「Web2メタバース」、後者は「Web3メタバース」とも呼ばれます。
酒井氏:コミュニティ系は、今のSNSの延長のようなイメージですね。アクセスできる機器もプラットフォームによって違ったりするのでしょうか?
佐野先生:PCやスマホから簡単にアクセスできるものと、VRヘッドセットが必要なやや本格的なものがありますね。私が大学で試験的に使っているのは、「Virbela」というプラットフォームですが、これはPCから利用できます。
酒井氏:VRヘッドセットではなくPCから使えるのは手軽ですね。具体的にはどんな使い方をしているのですか?
佐野先生:毎年、学生の作品を展示するイベントを開催しているのですが、2022年はリアル会場に加えてVirbelaのメタバース空間内でも展示を行いました。時間や距離の制約なく、多くの人に見ていただくことができましたよ。
酒井氏:そのほかに、先生が実際に使っているサービスはありますか?
佐野先生:3DCGを作る講義のなかで「cluster」というプラットフォームの活用を試みているのですが、こちらはPCやスマホでも、VRヘッドセットでも同じメタバース空間にアクセスできます。各プラットフォームの機能を知り、どんな機器を使って何をしたいかによって選ぶのがよいと思いますよ。
酒井氏:なるほど。だいぶ整理されてきました。